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「さてと」
分かりやすい掛け声と共に、
ちょうどクッキーに手を伸ばしていた
「ごめんなさい。俺、ちょっと食いすぎでした~?」
「もう、流石におこだよ」
「すみません。つい、美味しくって」
「へえ……そんなに、美味しかった?」
初夏は色っぽい仕草で髪をかき上げると、正面に座る来栖に身を乗り出した。
「へっ!?」
思わず来栖も顔を赤らめ、目を見開いた。
「ふふっ、まるで高校生みたいな反応だね」
「か、からかわないでくださいよ~。相手が初夏お姉様みたいな美人さんあら、健全な少年なら、そういうの、反応しちゃいますって」
「……そんなにおいしかった? アキ君は」
「……!」
来栖が見上げると、先程、来栖が秋羽に向けたものと同じ感情のない冷たい目の初夏がいた。
「へぇ、お見通しってことですか」
「そりゃあ、初夏も『自白班』だからね。それに、初夏の専門は少年……
初夏は立ち上がり、真上から来栖を見下ろす。
「あんま、調子乗んなよ、クソガキ。『自白班』は初夏のものだ。横取り狙っていると、潰すぞ」
「わぁ、おっかね~。ナニを? って聞くのは、やっぱセクハラになります?」
「あ?」
「いえ、何でもありません」
来栖は両手を上げて降参のポーズを取る。
「でも、そうなると……知らないのは、自白のおにーさんだけってことか。かっわいそ~」
「可哀想なのは、お前達の方じゃない? 真実なんて、所詮事象に過ぎない。真実は結局真実なだけ……それが、そのまま正しいって事にはならないんだよ、お子様」
初夏はそこまで言うと、今まで見せてきた冷えた目と無表情をやめて、いつも周囲に見せている無邪気な笑顔に変えた。
「じゃあ、そういうわけだから~おいたも程ほどにね?」
「……あぁ、同類って事ですか。肝に銘じておきますよ」
来栖も納得したように、愛想笑いを浮かべた。
「あぁ、それじゃあ、誰もいないし、一個だけ質問いいですか?」
「なあに? 内容にもよるけど~。それに、初夏が本当の事を言うかどうかは分からないぞ?」
「あはは~まーたまた。俺だったら、この手の質問で嘘は言わない。だから、初夏お姉様もそうでしょ。だって俺とあんたは……多分、同じだから」
「ふーん。アカちゃんや班長よりは、見る目あるみたいだね。いいよ、答えてあげる。言ってごらん、ボウヤ」
初夏はソファに座ったままの来栖の顎を指先で掬い上げた。
「わぁ、色気やっべえ~男子高校生には目の毒~」
「おい、早くしろよ」
「変わり身早いですね。それじゃあ……質問ですけど、初夏お姉様って、どっちの味方?」
「どっちって、そんなの……決まってるでしょ。初夏は初夏の味方だよ。だから、初夏のものに手を出す奴は許さないし、逃がさない。それが初夏の流儀……善悪も、法律も、モラルもルールも、全部、初夏を縛るには値しない、ただの文字の羅列。何が正しくて、何が間違っているか。何をすべきか、誤魔化すべきか。全て初夏が決める。初夏の世界で正しいのは、初夏の快だけだよ。だから初夏にとって不快なものは、全部排除する」
「あぁ……なるほど……確かに、あんたは、俺だな」
来栖は初夏と同じような無邪気な好奇心を瞳に宿す。そして同じような笑い方で笑みを零した。
「でも自白のおにーさんも大変だな。これじゃあ、最後まで味方でいてくれる人……誰もいないじゃん」