8-1
「連続殺人? それに、あと四人殺されるって……どういうこと?」
「まだ物的証拠はありません。だから、あくまで俺の想像ですが……」
「下手に焦らさず、とっとと言え」
隣に座る
「大体、推理なんて、そんなものだろ」
「え……」
「推理なんて言えば聞こえはいいが、所詮は推測にすぎん。ただの推測を真実にするのが、私達警察の仕事だ」
――こういうことをはっきり言っちゃう所、ほんとお前は格好いいな。
「そもそも推理というのは、ある事実をもとに、まだ知られていない事柄を推測することにある。推理なんて言葉を使えば、それっぽく聞こえるかも知れないが、所詮推測は推測。想像の産物に過ぎない」
「え~、でも推理っていうと、もう物的証拠も出ている状態じゃないの~?」
「バカ巨乳が。ミステリー小説じゃあるまいし」
初夏の言葉を、茉莉が一蹴した。しかし――
「え? 嫉妬?」
「……」
口元に手を当てて笑う初夏と、無言で目を細くする茉莉。
両者の間に目に見えない稲妻が走った気がした。
「あ、赤西……」
「うるさいっ」
まだ何も言っていないんだが。
茉莉は声をかけた秋羽の脇腹を肘で突くと、軽く咳払いしてから話始めた。
「刑事ドラマやミステリー小説とかの影響で、推理というものをはき違えている奴がいるが……そもそも推理するという行為は、前提から結論を導き出す思考作用のひとつに過ぎない」
そして、その前提が物的証拠だったり、アリバイだったりするわけだ。
ちなみに、前提がひとつの場合は「直接推理」といい、前提が複数ある場合は「間接推理」という。
「ふーん、そうなんだ」
初夏は興味をなくしたのか、つまらなそうな顔で視線を逸らした。
――自分で聞いておいて、この人は……
「そういうわけだ、白石」
「え!?」
急に話を振られ、思わず裏返った声を出してしまった。
「前提は全て、私が揃えてやる。だから、お前が想像していることを話せ。揃えるのは刑事課である私の役目、解くのはお前の役目だ」
「……はっ、本当にお前は格好いいな」
つまり「証拠がなくて推理としては通用しない状態でも、信じてやる」と茉莉は遠回しに言っているのだろう。
――まあ、そういうのもありか。
――前提を赤西が、結論は俺が捕らえる。
二人で、ひとつの真実に導く。
「分かった。まだ俺も、これが本当に合っているか自信はないけど……話すよ」
そう前置きをしてしまう所が自分の弱い所だと感じながらも、秋羽は話し始めた。
「まず今回の事件だが……最初に
自宅のマンションという密室の状態やネットなどで炎上していた事を考えると、それを苦にした自殺だろうが――表向きは転落事故という事になっている。
「そして、意識不明の状態の中上若葉を、過去に彼女によるいじめを受けていた
「あれ? でもアキくん、それだとハイクルちゃんが言っていた『
「いえ、あいつを話題に含めるとややこしくなるので、今は無視しましょう」
そもそも、今回の事件が複雑になっているのは
「まだ起きていない事件と実際に起きている事件、その二つを絡めたから複雑になっていますが……この事件、そしてこれから起きる事件は繋がっているようで繋がっていなくて、連続に見えて単発……それが俺の考えです」
「え~初夏、分かんな~い」
わ、わざとらしい!
秋羽は喉まで出かかった言葉を呑み込む。
「そういえば、連続殺人になるって言っていたけど、それはどういうこと? 別々に考えるなら、連続殺人じゃないってこと?」
「『鮮血ずきんちゃん事件』と同じですよ。あれは交換殺人ならぬ交換連鎖自殺、つまり今回は……」
「本当の交換殺人になるってことか?」
「流石、赤西。そういうことだ」