8-2
今回、いや今から起きる事件のポイントは、被害者がいじめの加害者であり、加害者がいじめ被害者側の人間であることだ。
つまり――
「春咲エリカをいじめていた中上若葉は、その姉であるアリスに殺された」
それに、最後に「譲ってもらった」と言っていたことを考えると、他にも仲間がいることになる。
同じ復讐の炎に燃やされ、それしか考えられない可哀想な被害者たちが。
「『鮮血ずきんちゃん事件』は繋がっていた。自殺した遺体を他殺に見せかける加害者役が、次の被害者……そして、今回の事件はこれを模倣した事件……になると思う」
「お前、証拠がない時は謙虚だな」
「うるせえよ」
茉莉の言葉に、秋羽は小さい声で反論する。
「つまり、何が言いたいの? 分かりやすくしているせいで、余計に分かりにくいよ、アキくん」
この人は! 俺の親切を!
「この人は! 俺の親切を! ……で、なに?」
「いえ、なんでも……」
――何で俺の考えたこと分かるんだ、この人。やっぱり人間やめているのか?
――……いや、考えるのやめよう。なんか怖いし。
浮かび始めた思考を頭の奥底へ無理矢理しまい込んだ後、秋羽は顔を上げる。
「ですから……今回の被害者は全員、『鮮血ずきんちゃん事件』の間接的な加害者、
「……!」
茉莉が目を大きく見開いた。
「たしかに、それは……犯罪の動機としては、頷ける」
春咲アリスのように、妹をいじめ、死にまで追いやった加害者への復讐。
それが動機。
――もし春咲エリカがいじめに遭わなければ、
「中上若葉への殺害によって、春咲エリカの仇を討てたと推測すると……残る犯罪は……」
「『鮮血ずきんちゃん事件』の被害者にして加害者である、
生存していて、家族とも和解している秋山菊乃は除外すると、そうなる。
「しかもこれ、結構順番通りじゃない?」
「え?」
「ほら、思い出してみて。『鮮血ずきんちゃん事件』の最初の被害者は春咲エリカって子で、その次が夏原ユリで、そしてその次が冬海ツバキって子だったでしょ」
「言われてみれば……」
「もう、しっかりしてよ」
秋羽はそこまで覚えていなかったが、しっかり覚えていた初夏が呆れたように言った。
――あんた、一応刑事だったんだな。
「アキくん?」
「いえ、何も考えていません」
本当にこの人の前だと下手なこと考えられない。
――そして何で分かるんだ。
「待て、白石。そうなると、次の被害者は、夏原ユリをいじめていた奴ってことにならないか?」
「あ、ああ……話を、
「ハイクルちゃんに? そういえばハイクルちゃんが、近々自分が殺されるかも、それから保坂絵里って子が……」
そこまで初夏が言った時だった。
タイミングを見計らったように、茉莉の携帯電話が鳴った。
仕事用に使っている、所謂ガラケーと呼ばれる電話のみ対応しているものだ。
これは捜査班からの直通のみで、個人的な付き合いのある者は後輩や同期含めて入っていないと聞いた。
――これが鳴ったってことは……
「はい、赤西茉莉だ」
茉莉が電話に出て、しばしの沈黙が流れた。
「……! そう、か」
茉莉は目を開いた後、諦めたように視線を下に下げた。
そして親指で電話を切った後、ゆっくり顔を上げる。
「……白石、どうやらお前の読みは正しかったようだ」
「え?」
「……保坂絵里が、殺された」