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いじめは終わらなかった。
そう
「中学でも続いたってこと?」
「妹は……いまだに、半袖が着られないっ……」
初めて来栖の声に感情が込められた――気がした。
「猛暑だって言われている日も、薄い半袖を着て学校に行くんだ。何でいつも長袖なの? って、母親に聞かれる度、曖昧な笑みで……学校のエアコンが苦手とか、日焼け対策とか答えて……この先、一生、あいつは半袖を着られないままかも知れない」
リストカットの代償か。
過去にした行為は消せない。
いじめも、リストカットも。一生「跡」という形で残り、決して消えることはない。
何故なら――過去は、なかったことには出来ないから。
「あいつをいじめていた奴は、何もなかったみたく、それぞれの青春を謳歌している」
中学は基本的に近所の中学に行く。
私立のような所謂お受験をしないと入れない学校とは違い、定められた学区内の学校に通うのが決まりだ。
だから小学校が同じなら、中学も同じ――
「同じクラスになった時にさ、過去に死ねとか、いつ自殺するの? とか言ってきた奴が、まるで小学校から友達だったみたいに、話しかけてくるんだよ。妹の傷は、肉体的にも精神的にも癒えることがないのに、まるで何もなかったみたく……そんなの、
拳を握りながら、来栖は俯いた。
来栖は誰に対しても本心を明かさない人間だと思う。
それが、自白刑事から視た、彼という人間だ。
誰にも本心を見せない。演技がかったキャラクターも、貼り付けたような笑顔も、それを隠すためのメイクみたいなもの。
これが来栖の本心ならば――
『アキくんが、受け止めてあげないと』
『来栖ちゃんは、アキくんを頼っている』
――はい、分かっています。
秋羽は心臓の鼓動に混じって聞こえる母の声に心の中で返す。
「それでも、中学では友達も出来たみたいだから、今さら蒸し返して、今のあいつの……ようやく手に入った平穏な生活を壊したくなかった。だから、見逃していた。当事者である妹が許す限り……だけど、あいつらは全く反省なんてしていなかった」
「中学でも、また妹さんが……」
「いや、中学の時にターゲットにされたのは妹じゃなかった」
妹以外の女の子がいじめのターゲットにされたということか。
――結局、そいつらにとって相手は誰でも良かったってわけか。
「妹は直接、そいつらにいじめられてきたせいもあって、そいつらのいじめのターゲットにならないように、見て見ぬふりをするのが精一杯だった。それでも、中学なんて所詮3年……だから、俺も何事もなければ、何かするつもりはなかった。だけど、あいつらはやっちまったんだよ。いじめという言葉で片づけるには、あまりに軽すぎる、でかい事件を、妹をいじめている奴らは起こした。その結果、ひとり、死んだ」
待て。
秋羽はその話をどこかで聞いた覚えがあった。
いじめが常習になっている生徒達によるいじめ。それを知りながら見逃す学校。
そして、ひとりが死んだ。
――これって……
「おい……お前の妹が通っていた学校って……」
秋羽の質問に、来栖はフッと笑みを浮かべた。
「
白桜高等学校――
『鮮血ずきんちゃん事件』の加害者にして被害者となった
そして――
「俺の妹の名前は、