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第37話

10-2


「それで、本題だけど……」

 引き続き、来栖くるすが言った。

 ふいに秋羽が時計を見ると、それほど時間は経っておらず、まだ10分程度しか経過していなかった。

「ある日、俺は姫崎四季が事故ではなく自殺だと知った。あんたもよ~く知っている、ある事件の報道からね」

「! お前、まさか……」

「そう、そうだよ、白石秋羽しらいしあきば! あんただよ、あんたのおかげで、俺は知ったんだ! あれはとんでもねえクソ野郎が起こした、最悪な事件だって!」

 「鮮血ずきんちゃん事件」。

 姫崎四季の死をきっかけに起きた、女子高生の連鎖自殺事件。

 ――おい、ちょっと待てよ。これ……どこまで、繋がっているんだ?

 「鮮血ずきんちゃん事件」の背後には公にはされていないが、彼女達に復讐の方法を教授した人物がいる。

 ――『俺……多分、近日中に殺されるから、その犯人を絶対に捕まえてほしいんだよね』

 ――『俺は確実に近日中に殺される。その事自体は確定している。そういう筋書きなんだよ』

 ――『あの『演出家気取り』も、俺の存在は邪魔みたいだね。ここまで言えば、あんたなら分かるだろ? 白石秋羽さん』

 ふいに、初めて会った時に来栖が言っていた言葉が脳裏をよぎった。

 ――もし、あいつが今回の事件全ての黒幕で、灰崎来栖を利用して……いや違う。

 ――

 断言するように、秋羽は思った。

 そもそも、こいつは利用されるたまじゃない。

「お前……どこまで、知ってる?」

「ははっ、前にも似たようなこと聞いてきたよね。でも、それ……ここで、本当に言っていいの? 言ったら困るの、ちゃんの方だと思うけど」

「……っ」

 秋羽が思わず息を呑んだ時、遠くからゆっくりと近づいてくる足音が響いた。

「来栖くんの言う通りだぞ、白石」

茶園ちゃえん班長!」

先程まで自分の席で倒れるように座っていた茶園豊ちゃえんゆたかが、秋羽を見下ろすくらい近い距離に立っていた。

子供に甘い茶園からしたら、来栖も「守っていけない幼い子」であり、普段に比べると雰囲気や口調は穏やかではあるが――

「来栖くん。私達は席を外すよ。そこで思う存分、話し合いなさい」

「え~、班長、それって初夏もってことですか~」

「まあ、少しだけ……そうだな、制限時間は30分だ。30分経ったら、私達は戻ってくる。それでいいだろう?」

 茶園の口調は穏やかだが、有無言わせない迫力があり――初夏も珍しく「は~い」と気の抜けた返事と共に立ち上がった。

 そして、二人とも部屋を出ていこうとした。

「班長!」

 思わず立ち上がった秋羽に、子供を諫める親のような目で茶園は言う。

「決めろ……自白刑事」

「……! でも俺……」

「前にも言った筈だ。お前にしか解けないものがある。それを解け。それがあの男への反抗と、葉菜はなさんへの弔いだ」

「……っ」

 喉まで出かけた言葉を呑み込み、秋羽は茶園の背中に頭を下げた。

 それを近くでずっと見ていた来栖はふっと笑みを零す。

「なんか、あんた達も訳アリって感じ?」

「何を今更……この世に、理由を持ってねえ奴なんていねえだろ」

「それじゃ、始めるぞ。灰崎来栖……今から、お前の罪を暴く」

「たはっ♪ やれるものなら、やってみせなよ……自白刑事」

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