10-3
『頑張って、アキ君。来栖ちゃんは相手のペースを乱すことに長けているわ。子供だと思って侮らず、ペースを乱されないように注意するのよ』
――はい、母さん。
心臓の鼓動と共に囁かれる、母親の声に心の中で返事をしながら秋羽は来栖に向き直る。
*
「自白班」は警察の中でも特殊な課である。
対象が少年犯罪に限定される事だけではなく、許されている行動は「自白させること」のみに限られる。
ようは逮捕も捜査も出来ず、取り調べのみが許されている。
当然、取り調べを行う上で必要となる情報や物的証拠などは全て刑事課などに集めてもらい、一からゼロまで自分達でやらなければいけないわけではない。
『自白法』自体が出来て間もない法律であり、制度もまだ世間に浸透していない。だから抜け穴などを見つけて悪用しようとする連中もいる。
つまりマニュアルも過去の事例もなく、全部現場で感じた自分だけの経験がそのままマニュアルとなり、経験と自己の能力だけで戦わないといけない。
取り調べが始まれば、誰も頼れない。
たったひとりで戦わないといけない。
――最初から、俺はこいつが苦手だった。
場所は引き続き、「自白班」の部屋。
大きなテーブルを挟んだソファに座り、
今から秋羽は来栖を取り調べる。
しかし、ちゃんとした取り調べではないため、ここで来栖の自白に成功した所で法律で裁けるわけではない。
特に秋羽の目から見て、来栖は――
それでも秋羽は来栖を自白させなければならない。来栖自身のために。
「罪と罰はセット」
ふいに来栖が呟くように言った。
「分かっているんだろう? もう俺が何処に立っているのか。だったら、裁いてくれよ、自白刑事。俺の罪を……教えてくれ」
「ああ……吐かせてやるよ、その虚像の笑顔の奥で泣いている真実をな」
「くすっ、ポエマー」
「はっ倒すぞ」
取り調べ開始。
対象:灰崎来栖。罪状:不明。
担当刑事:白石秋羽。特技:自白させること。
――さあ、見せてみろ、お前の真実!