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第43話

10-7


 「鮮血ずきんちゃん事件」の被害者として挙げられる少女は3人。

 春咲はるさきエリカ、夏原なつはらユリ、冬海ふゆみツバキ。

 秋山菊乃あきやまきくのは唯一の生存者であり、今は矯正施設にいるため接触も不可能な事を考え、このリストからは除外。

 同様に、きっかけであり動機にはなったが、姫崎四季ひめさきしきも同じ事件として取り扱うかは今は不明なため除外。

「春咲アリスは、妹の復讐のために中上若葉なかがみわかばを殺害」

 そのきっかけとなったのは、この少年――灰崎来栖はいざきくるすによるネットを使った報復。

 報道でそれを知ったアリスは、当時は押し殺していた殺意が爆発的に燃え上がり、今回の犯行に至った。

 そして――

「今回の事件には、順番がある。その順番は決して崩してはならない」

「どうして?」

「さあな。演出家気取りの誰かが、その方が美しい、とでも思ったんじゃないか」

「ひゅ~さっすが~♪」

 来栖のいう「流石」の意味が分かったが、あえて気付かないふりをして秋羽は続ける。

「この順番は、『鮮血ずきんちゃん事件』で殺された、いや自殺した順番だ。つまり、最初に春咲エリカの仇として中上若葉が殺されたのならば、次は……」

「夏原ユリの仇として、保坂絵里ほさかえりが殺害された。そして最後に、冬海ツバキの仇として誰かが殺され……」

「いや、まだだよ」

 来栖が言った。

「たしかに、次に殺されるのは、冬海ツバキを当時いじめていた人物……まあ、俺の勘だと、順番的にはいじめっ子グループのリーダー格にあたる子かな」

 やはりそこまで調べていたか。

 しかし――

「その子が最後じゃないっていうのは、どういう事だ? それは以前、お前が俺に言った……自分が殺されるのと関係あるのか?」

「ありゃ、ちゃんと覚えていてくれたんだ~良かった~」

 来栖は笑いながら、まるで他人事のように言った。

 いや他人事なんだ、この子にとって全てが。

 有能すぎるゆえか、家庭環境か、他に理由があったかは不明だが――来栖にとって自分自身すら他人事。

 妹に対する態度など、人間に全くの情がないわけではないが、それも一般の少年の感性に比べると希薄。

 まるで――

 ――俺がこいつを苦手になるわけだ。

 そんな彼の世界に、唯一入れた少女。

 それが姫崎四季。

 秋山菊乃たちもそうだったが、姫崎四季は色んな人の人生に影響を与えている。

 まるで――

「それで、刑事さんはどう思っているの?」

「え……」

「ちょっと、ボウッとしないでよ。まだ俺の取り調べの最中だよ」

 そう来栖はおどけて言った。

「俺がいつ、誰に、何のために殺されるか……」

「あぁ、それか。それなら……簡単だ。まだそいつの名前が分からないから、誰という特定の人物は挙げられないが、理由は簡単だ。お前が、そいつらにとって目障り? いや、邪魔? あとは単純にうざい? とかだろ」

「ひどっ! 大体合ってるけど」

 合っていたのか。

 ――ぶっちゃけ、後半は嫌味のつもりだったが。

「俺はさ、気付いちゃったんだよ。この街で起きている事件……その全部に関わっているだろう人の存在に……」

「全部の……?」

「そう。全部。刑事さんは自白刑事だから、少年犯罪しか取り扱っていないかも知れないけど……他にもいるんだよ、今回みたく、そして前回みたく、頭がねえ奴らが代わりに考えてもらう、そんな脚本頼りのサスペンスが……」

 どくん、と心臓が高鳴った。

 それはどんどんと早くなり、心臓の鼓動にあの人の声が混じった。

『出てきたようね、アキ君』

 ――お母さん……そのようですね。

「憎悪の火種を宿しても、踏みとどまった被害者たちの心を燃え上がらせ……復讐者に変えた、脚本家気取り……あんたの、父親……白石千秋しらいしちあき

       *

 時同時刻。

 秋羽と来栖の二人きりの取り調べが始まっていた頃。

 警察署内にある薄暗い応接室。

 今は使われておらず、自動販売機が多くあるため、警察官たちのひと休憩するための場所になっている。

 そこに『カレ』はいた。

「あ~白石サン? どうしたんスか? 今、こっちは警察著内ッスから、電話は勘弁してほしいッス……あ、いえ、文句とかでは! あ~本当に意地の悪い人ッスね……え!? ハイクルちゃんがもうセガレちゃんと接触!? うわぁ、思ったより早かったッスね……ちょっ、ひどいッス! 俺だって今、保坂絵里の……反物ちゃんが結構ドライで……あ~はいはい、そのへんは上手くやってるッス。馬の子も、そろそろ実行する頃じゃないッスか? え? こっちの処理は俺、行かなくていいんスか? まあ、たしかに……流石に、そろそろバレそうッスしね……だって、事件が発生した時にセガレちゃんと一緒にいなかったのって、俺くらいッスからね……は~い、気を付けま~す。白石サンも、気を付けてくださいね!」

 そこで、『カレ』は電話を切った。

「はぁ……」

 そして大きな溜め息を吐いた後、窓を見る。

「そろそろ終わる頃ッスかね……流石に、これは、バレるってえの……ほんと、俺っちが捕まったら、白石サンの運転手、いなくなっちゃうのに……ほんと、ひでえ人……」

 『カレ』は懐から拳銃を取り出す。

 警察官に渡される、銃弾から全てが登録されている警察官専用の拳銃を。

 発砲すれば、確実に誰が撃ったか分かる。

 それでも『カレ』は躊躇いなく、言われた通り、標的を狙う。

「でも従うッスよ。白石サンは、俺の……カミサマッスからね。だから……」

 カーテンが翻る中、ひとつの影が浮かぶ。

 窓から見える、窓が開いた部屋。

 そこにいるだろう標的に銃口を向けて――

「バイバイ、天才少年ジーニアスボーイ

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