10-7
「鮮血ずきんちゃん事件」の被害者として挙げられる少女は3人。
同様に、きっかけであり動機にはなったが、
「春咲アリスは、妹の復讐のために
そのきっかけとなったのは、この少年――
報道でそれを知ったアリスは、当時は押し殺していた殺意が爆発的に燃え上がり、今回の犯行に至った。
そして――
「今回の事件には、順番がある。その順番は決して崩してはならない」
「どうして?」
「さあな。演出家気取りの誰かが、その方が美しい、とでも思ったんじゃないか」
「ひゅ~さっすが~♪」
来栖のいう「流石」の意味が分かったが、あえて気付かないふりをして秋羽は続ける。
「この順番は、『鮮血ずきんちゃん事件』で殺された、いや自殺した順番だ。つまり、最初に春咲エリカの仇として中上若葉が殺されたのならば、次は……」
「夏原ユリの仇として、
「いや、まだだよ」
来栖が言った。
「たしかに、次に殺されるのは、冬海ツバキを当時いじめていた人物……まあ、俺の勘だと、順番的にはいじめっ子グループのリーダー格にあたる子かな」
やはりそこまで調べていたか。
しかし――
「その子が最後じゃないっていうのは、どういう事だ? それは以前、お前が俺に言った……自分が殺されるのと関係あるのか?」
「ありゃ、ちゃんと覚えていてくれたんだ~良かった~」
来栖は笑いながら、まるで他人事のように言った。
いや他人事なんだ、この子にとって全てが。
有能すぎるゆえか、家庭環境か、他に理由があったかは不明だが――来栖にとって自分自身すら他人事。
妹に対する態度など、人間に全くの情がないわけではないが、それも一般の少年の感性に比べると希薄。
まるで――
――俺がこいつを苦手になるわけだ。
そんな彼の世界に、唯一入れた少女。
それが姫崎四季。
秋山菊乃たちもそうだったが、姫崎四季は色んな人の人生に影響を与えている。
まるで――
「それで、刑事さんはどう思っているの?」
「え……」
「ちょっと、ボウッとしないでよ。まだ俺の取り調べの最中だよ」
そう来栖はおどけて言った。
「俺がいつ、誰に、何のために殺されるか……」
「あぁ、それか。それなら……簡単だ。まだそいつの名前が分からないから、誰という特定の人物は挙げられないが、理由は簡単だ。お前が、そいつらにとって目障り? いや、邪魔? あとは単純にうざい? とかだろ」
「ひどっ! 大体合ってるけど」
合っていたのか。
――ぶっちゃけ、後半は嫌味のつもりだったが。
「俺はさ、気付いちゃったんだよ。この街で起きている事件……その全部に関わっているだろう人の存在に……」
「全部の……?」
「そう。全部。刑事さんは自白刑事だから、少年犯罪しか取り扱っていないかも知れないけど……他にもいるんだよ、今回みたく、そして前回みたく、頭がねえ奴らが代わりに考えてもらう、そんな脚本頼りのサスペンスが……」
どくん、と心臓が高鳴った。
それはどんどんと早くなり、心臓の鼓動にあの人の声が混じった。
『出てきたようね、アキ君』
――お母さん……そのようですね。
「憎悪の火種を宿しても、踏みとどまった被害者たちの心を燃え上がらせ……復讐者に変えた、脚本家気取り……あんたの、父親……
*
時同時刻。
秋羽と来栖の二人きりの取り調べが始まっていた頃。
警察署内にある薄暗い応接室。
今は使われておらず、自動販売機が多くあるため、警察官たちのひと休憩するための場所になっている。
そこに『カレ』はいた。
「あ~白石サン? どうしたんスか? 今、こっちは警察著内ッスから、電話は勘弁してほしいッス……あ、いえ、文句とかでは! あ~本当に意地の悪い人ッスね……え!? ハイクルちゃんがもうセガレちゃんと接触!? うわぁ、思ったより早かったッスね……ちょっ、ひどいッス! 俺だって今、保坂絵里の……反物ちゃんが結構ドライで……あ~はいはい、そのへんは上手くやってるッス。馬の子も、そろそろ実行する頃じゃないッスか? え? こっちの処理は俺、行かなくていいんスか? まあ、たしかに……流石に、そろそろバレそうッスしね……だって、事件が発生した時にセガレちゃんと一緒にいなかったのって、俺くらいッスからね……は~い、気を付けま~す。白石サンも、気を付けてくださいね!」
そこで、『カレ』は電話を切った。
「はぁ……」
そして大きな溜め息を吐いた後、窓を見る。
「そろそろ終わる頃ッスかね……流石に、これは、バレるってえの……ほんと、俺っちが捕まったら、白石サンの運転手、いなくなっちゃうのに……ほんと、ひでえ人……」
『カレ』は懐から拳銃を取り出す。
警察官に渡される、銃弾から全てが登録されている警察官専用の拳銃を。
発砲すれば、確実に誰が撃ったか分かる。
それでも『カレ』は躊躇いなく、言われた通り、標的を狙う。
「でも従うッスよ。白石サンは、俺の……カミサマッスからね。だから……」
カーテンが翻る中、ひとつの影が浮かぶ。
窓から見える、窓が開いた部屋。
そこにいるだろう標的に銃口を向けて――
「バイバイ、