11-2
「そう。
「じゃあ、
そこまで言いかけて、
来栖が自分の番組内で『鮮血ずきんちゃん事件』の
報道で知った来栖が、その後、彼女たちを晒したのだから。
来栖がやったのは第二弾であり、最初の情報じゃない。
――もしかしたら、俺が「鮮血ずきんちゃん事件」を解いて、その情報が世間に報道され……当時いじめを行っていた中上若葉たちの情報が外に出るまで、全部……
――全部、あいつのシナリオ通りだったのか……?
いや、もしかしたら「自白班」として「鮮血ずきんちゃん事件」を解決するまで、全部が――
「つまりさ……」
来栖の言葉で、秋羽はハッと我に返る。
「中上若葉が転落事故を起こした時点で、春咲アリスに憎悪の炎と再熱して復讐者になった時点で……もう他の配役も脚本家によって選ばれていたってこと」
来栖の言葉で、秋羽は一瞬浮かんだ考えを振り払い、目の前の来栖にだけ集中する。
「だから俺は、中上若葉の次に晒していた保坂絵里が、次のターゲットになるって予想した。そして予想は見事的中して、保坂絵里はやっぱり殺された……いや、もしかしたら……」
来栖は考える仕草をしながら言う。
「そこまで全部、シナリオ通り、なのかもね。俺が次に殺されるのが保坂絵里だ! って自白刑事を頼る所も、俺というナビキャラが来てから、あんた達が保坂絵里に接触する所も、全部……」
「それは……」
そうかも知れない。
だが認めたくないため、秋羽はその先の言葉を呑み込んだ。
「じゃあ、逆に次は誰なんだ?」
「え?」
秋羽の問いに、意外だったのか来栖がキョトンとした顔になった。
「俺も、実際保坂絵里が本当に殺されるまで半信半疑だった。だけど実際殺されて、今は半信半疑じゃなくて、全信ゼロ疑で信じられる。だったら、次が誰か分かるだろ? お前なら」
「……刑事さん」
そう静かに呟いた後、来栖は立ち上がる。
「俺は所詮ナビキャラなんだよ。その俺があんたに教えられるのは、この事件は被害者遺族たちの復讐。ターゲットは気分で選ばれた。そして春咲アリスの復讐対象として中上若葉、
「
秋羽の回答に、来栖は笑った。
「大正解。そして俺を殺すのは、俺によって被害を受けた奴ら……憎しみは連鎖するってことだよ。だから……俺は先に退場する」
「え?」
「あとは、任せたよ……主人公」
来栖はそう微笑んだ後、窓際に向かった。
そしてカーテンが翻った時――鈍い音と共に、硝煙の匂いが漂った。
「くる、す?」
窓際で倒れる来栖と、胸付近から流れる血液。
狙撃された。その事に気付くのに少し時間がかかった。
「おい! 誰か来てくれ!」
秋羽は大声で叫びながら、来栖の傷の具合を見る。
傷口は肩。僅かに身体をずらして心臓への直撃を避けている。
――ということは、こいつ、自分が撃たれるって分かっていた?
その時、来栖を抱き起す秋羽の目に、何か光るものが見えた。
「……!」
秋羽の脳に、複数の問いかけが巡った。
何故、窓が全開になっている? ――それは誰かが開けたから。
何故、来栖はわざわざ窓際に行った? ――それは誰かに撃たれるって分かっていたから。
何故、このタイミングで来栖が撃たれた? ――それは、分からない。
何故、警察著内で、発砲できた? ――それは……
「アキくん! どうしたの!?」
血相を変えた
「白石、何事だ!?」
少し遅れてから、
「黄崎くん! 先に救急車の手配を!」
「は、はい!」
「救急隊以外は部屋に入るな!」
騒ぎを聞きつけてやってきた警察著内にいた人間や、警察官として現場を荒らさないように咎める茶園の声すら、秋羽にはどこか遠くのものに聞こえた。
今、秋羽の脳内にあるのは、たったひとつの回答。
来栖が何度も何度も同じことを繰り返し、その可能性を暗に伝えてきたから。
それでも秋羽は気付かないでいた。
だから、なのか。秋羽が気付こうと気付くまいと、そういうシナリオだったかは不明だが――今、解っているのは、ただひとつ。
――警察著内に、裏切り者がいる。