11-3
「
「自白班」の部屋のソファで座っている
「……」
秋羽は茶園には応えず、ただ無言で俯いていた。
「今、
「……」
反応のない秋羽に、茶園は眉を下げる。
「あ、あぁ、そうだ。黄崎くんの報告によると……」
それでも秋羽の背中に話しかけた。
「あらかじめ服の内部に防弾性のあるインナーを着ていたようだ。おおかたネットで購入したもので、我々警察が使っているようなちゃんとした防弾チョッキとは違うようだな。そのせいで、完全に防ぎきれなかったようだが……致命傷は避けられたみたいだ」
「……はぁ。やっぱり、そこまで読んでいたのかよ……あの廃人少年」
「白石?」
秋羽は深く溜め息を吐いた後、立ち上がる。
そして茶園を振り返る――その目は自責の念で潰れておらず、むしろ強い意思を秘めて輝いていた。
「班長……あいつが、色々ヒントを残していってくれたおかげで、この事件の繋がっているようで繋がっていない関係性が分かりました」
「ヒント? 来栖くんがか?」
「はい。まあ、ヒントにしたのは、もし直接俺に正解を伝えていたら、容赦なく撃ち殺されるって予感していたからでしょうね」
「撃ち殺される? いや、実際に来栖くんは……」
「いえ、今回のはただの警告。それと、俺に対する挑発、ですかね」
そして来栖が自ら撃たれにいったのは、射撃される箇所を自ら指定するためだ。
射撃で一番怖いのは、気付かぬうちに撃たれること。
もし撃たれることがあらかじめ分かっていれば、致命傷を避けられる。
だから来栖は致命傷を避けるために自ら動いた。
――どうやら市販で手に入る防弾性のインナーも装着していたようだしな。
「あいつは、死ぬつもりで動いたわけじゃない。むしろ生存確率を高めるために、自ら撃たれにいった。そこまでの覚悟見せられたら、こっちだって死ぬ気で犯人……いや、事件が完結する前に止めてやらないと、ですからね」
「あぁ、そうだな……そうだとも! それでこそ警察だ!」
茶園は心から嬉しそうに、何度も秋羽の背中を叩いた。
「いててっ……」
「そうと決まれば、早速行動を起こそう。お前が今、必要なものはなんだ?」
「……今、必要なもの……」
秋羽はほんの数秒考える。
「ひとまず、狙われることはないと思いますけど、一応、
「裏切る?」
「いえ、こっちの話です。あとは信頼できる人物となると……やっぱり
「赤西くんか? たしか、今は
「え、容疑者?」
「あぁ……さっき連絡がきたんだ。どうやら殺害現場に足跡から指紋まで、全部が残っていたらしく……」
「全部か……ここまでやられちゃ、喧嘩吹っ掛けられているとしか思えねえな」
そう秋羽は小さく呟く。
「白石?」
「いえ、何でもないです。あ、そういえば……灰崎来栖を撃った犯人は分かったんですか?」
「いや……警察署内での発砲……前代未聞だ。銃弾から誰の銃弾だったかは分かるが、盗まれた場合もあるからな。今、銃弾の照合と、場合によっては持ち主への取り調べを行う予定だが……」
「分かりました。班長はそっちにいってください。俺は赤西と会ってくる」
「ああ、分かった」
茶園に見送られ、秋羽は再度一歩を踏み出す。
が、その直後で立ち止まり、茶園を振り返った。
「ん? なんだ、忘れ物か?」
「いえ……その……気を、つけて……」
「誰に言ってるんだ? お前こそ気を付けて、いってこい」
「! は、はいっ」
秋羽はそれを最後に駆け出すように部屋を後にした。
――あぁ、かっこ悪い。
――何で俺、今……いってきます、なんて言おうとしたんだ。
――これじゃあ、まるで本当に……
ふいに浮かんだ考えを、秋羽は頭を軽く振って振り払う。
*
「へ~え」
秋羽がいなくなった後、近くの物陰から秋羽の背中を見送る『影』があった。
「なに、セガレちゃんって……そうだったんだ。これは意外ッスね~」
くすくすと『影』は笑う。
「まさか、あの絶賛反抗期中のセガレちゃんが、他にお父さんを求めている人がいるとは……折角、世間を巻き込んだ親子喧嘩が見られると思ったのに……いや、でも……」
『影』は扉が閉じた「自白班」の部屋を見る。
「セガレちゃんがお父さんを求めている班長さんに何かあったら……セガレちゃん、今度こそ壊れちゃうかな~? それは、それで楽しそうッスね」