11-4
「ここか……」
それが、以前保坂絵里が住んでいた街――彼女が小学校の頃に住んでいた場所だ。
――正直、ネットの配信者の情報頼りで捜査をするのは、気が進まないが……
しかし灰崎来栖の情報は確かだった。
なんなら警察署内で情報通として知られる
――たしか小学校の頃にいじめられ、それから逃れるために中学の時に転勤してきた、だったな。
茉莉はスマートフォンで来栖の番組を視聴しながら確認した。
――まったく、こんな時にあいつは何処に行っているんだ。
――この手の情報管理は全て
捜査は二人以上で行うのが鉄則であり、茉莉の部下である相棒にあたる緑区
今回もそのつもりだったが、警察署内で起きた発砲事件に巻き込まれ、彼は警察署内に留まっている。
――まったくドジな奴め!
警察署内での発砲事件となれば、その時間帯に警察署内にいた人物は全員取り調べ対象となり、警察署から出る事が出来なくなる。
何かしらの理由で訪問していた一般人から警察事務まで、全員が容疑者となるからだ。
それでも発砲場所が、角度から推測するに、警察署内のある棟の空き部屋だという事が分かったため、その時間帯に違う場所にいた人物は除外されるが。
そのため「自白班」のメンバーは違う棟にいたため全員が除外され、他も除外された者が多い中――何故か、緑区正義と一部の刑事は該当してしまった。
ついでに桃瀬太郎も取り調べを受ける事になっている。
――あの引きこもりの脂肪でたるたるの腕では銃を撃つ事は無理だと思うが、決まりは決まりだからな。
「まあいい。私ひとりで事情を聞いてみるとするか」
だが不可解なのは、この家の住民が『鮮血ずきんちゃん事件』の被害者とは全く関係ない、という所だ。
普通に考えれば妹の復讐。
そして事件が繋がっているのならば、順番的に
しかし――
「あ、刑事さん?」
その時、民家の扉が開いた。
そして中からセーラー服を着た女子高生が出てきた。
髪は生え際の黒い金髪、瞼の上には重そうなつけ睫毛。爪は色鮮やかなネイル。肌は日焼けサロンで焼いたような、綺麗なこんがり色。
――平成初期のギャルみたいな子だな。
以前訪れた
「やっはろ~い!」
女子高生は手を振りながら、茉莉に近付いてきた。
「やっぱり、刑事さんだよね? 良かった~、やっぱり来てくれたんだね~」
「えっと、お前は……ここの家の娘か?」
「やだ、刑事さんったら、かった~い」
ゲラゲラ笑いながら、彼女は言う。
「そうそう。アタシ、
鈴木舞と名乗った女子高生は、家の門を開けて、茉莉に迫る勢いで近づいてくる。
至近距離で見上げられ、茉莉は目を細める。
――この子、もしかして……
「慣れない格好は大変そうだな」
「え……」
「まるで絵に描いたようなギャルな格好……本当は趣味じゃないのではないか?」
最初は生え際が黒いのは髪を染めて時間が経過していると思ったが、よく見たら自分で染めたようで、染められていない箇所も多数あった。遠目で見ただけでは分からないが。
「あははっ。やっぱ、刑事さんには分かっちゃうか~。あ、でも、完全に趣味じゃないわけじゃないよ? たしかに、こういう子に苦手意識あったけど、一回やってみたかったんだよね、こういうギャルぽい格好。どうせ、これが最後なんだし」
「最後……」
「うん!」
舞は笑顔で言う。
「だって、アタシ……人、殺しちゃったから、刑務所行かなきゃじゃ~ん? だから、シャバで、こういう格好出来るの最後だし」
「! お前、人を殺したって……」
「うん! 保坂絵里を殺したのは、アタシだよ~。ずっとずっとず~っと、あいつにはムカついていたんだよね~。だからサクッと
「やっちゃったって……お前、意味が分かって言っているのか!?」
「あはは~。当たり前じゃ~ん! アタシが保坂絵里を殺した。めった刺しにしてね~。動機的なもんは~、そうだな~……あいつのせいで、アタシの青春、めちゃくちゃにされたから、かな?」
「……」
楽し気に笑いながら言う舞に、茉莉は戦慄した。
恐怖に近い感情を少女に抱き、何も言えなくなった。
その時、タイミングを見計らったように茉莉のスマートフォンが光った。
「しら、いし……」