11-5
所変わって、警察署内。
「あ~、分かった。とりあえず、その子……
――それにしても、今日はどうなっているんだ。
――色んなことが起きすぎだろ。いきなり、次から次へと……
最初に
次に
さらに次に、今回の事件の発端――本人曰くナビキャラである
発砲事件に半ば巻き込まれ、同じ時間帯に該当場所にいた
――もし赤西まで警察署内にいたら、積んでいたな。
『聞いているか? 白石』
「あ、ああ、聞いてる」
秋羽はそう応えるが、茉莉にはバレバレだったようで電話の向こう側で大きな溜め息が聞こえた。
『お前、大丈夫か?』
「え、大丈夫って……」
『お前だって気付いているだろ。今の状況、明らかにおかしいだろ。有力な情報源だった灰崎来栖少年が狙撃された事で、お前にとって重要人物が次から次にお前の傍からいなくなっている』
「それは……」
実際、秋羽も同じ事を考えた。
来栖は情報源として有能だった。もし彼が協力的だったら、もっと上手く捜査が進んだかも知れない。
――まあ、まだあいつは味方と限らないが。
しかしその彼が狙撃された事で、桃瀬太郎や緑区正義といった秋羽と茉莉の相棒が二人同時に退場させられた。
この二人の拘束はすぐ解けると思うが。
――特に桃太郎が痛い。来栖とこいつ、情報源が同時にいなくなるとは……
今まで秋羽がやってきた取り調べでは、必ず桃瀬に容疑者の少年少女の情報を普通の調査方法では分からないレベルまで調べてもらっていた。
そのおかげで少年少女の闇に気付け、心の奥底へ触れることで自白させてきた。
だがそれが今回出来ない。
――俺は、初めて独りで戦うってことか……
『白石……』
その時、思ったよりも優しい声で茉莉が言った。
『私は私が出来る事をやるつもりだ。だから、お前はお前の出来る事を、お前の出来る範囲でやれ』
「赤西……」
いつもなら、ここで心臓の鼓動に混じった母の言葉が自分を慰めてくれていた。
いや違う。
――本当は分かっている。お母さんの声は、本当は……
『どうしたの? アキくん。お母さんはいつもアキくんの傍にいるわ』
――……
秋羽は心の中で何も答えなかった。
いつもなら、心臓の鼓動に混じった母の声に――自身が作り出した幻聴に甘えるように答えている所だが、今日はそれをしなかった。
『白石?』
電話越しの茉莉の声がやけに大きく響いた。
「当たり前か。だって現実にいるのは……」
『おい。さっきから何だ? はっきり言え』
「いや、何でもない」
甘い言葉をくれる幻聴と、厳しくも自分を見てくれる現実。
その声が交互に響くのを聴きながら、秋羽はフッと笑みを零す。
『もう、お母さんは必要ないのかな?』
そう問いかける幻聴に応えず、秋羽は電話の向こう側にいる茉莉に言う。
「赤西。こっちでも分かった事がある。直接聞いてほしい。後でいいから、時間作って会いに来てくれ」
『……電話じゃ伝えられないって事か?』
「ああ。警察署内で一番信頼できるお前にだけ、伝えたい」
『……あぶごぶらっ!?』
「赤西? 大丈夫か? 今、なんか呪いの言葉みたいな……」
『何でもない! もう切るからな!』
「え!? そんないきな……本当に切ったよ」
耳の中で響くのは「ツーツー」という通話相手がいない事を伝える電子音のみだった。幻聴はもういなくなっていた。