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第52話

11-8


「アタシ、は……」

 鈴木舞すずきまいは声を震わせながら言う。

「アタシが保坂絵里ほさかえりを殺した、理由は……

「……は?」

「だけど、憎かったし、殺さないといけなかった。それだけは覚えている。あいつの投稿のせいで、推薦とるために色んなことを我慢して頑張ってきた子が名前を出されたってだけで推薦が取り消しになったり、経済的に苦しいから何としてでも奨学金を手に入れるために勉強一筋だった子が、奨学金が取り消しになって、進学を諦めて……自殺未遂を起こしたことはあった。アタシも、あることないこと言われて、辛かったし、憎かった。殺したいとは思っていた。だけど……それを決断するまでに至った理由が、思い出せないの」


 ――理由が分からない? だが嘘をついているようにも見えない。


 そういえば、『鮮血ずきんちゃん事件』の時、秋山菊乃あきやまきくのたちは薬物が体内に残っていた。菊乃は一番最後だったため、薬の効果が弱まったおかげもあり、考え直した。しかし、他の三人は――


 ――もし薬物が原因で、それを横流ししているのが、あいつなら……


「まあ、でも、そんなものだよね」

「は?」

「だって、この街では、毎日のように、多くの人が殺され、殺している。ニュース見ていれば分かるよ。『自白法』が、それを許してくれるから」

 未成年の犯罪は、本人の自白でしか裁けない。

 未成年犯罪を増長させた原因の法。

 だが、それは結構前から言われてきたことだ。何故このタイミングで、保坂絵里を殺害したのか。それは、きっと――

「お前、誰に会った?」

「誰って……どういう意味?」

「お前は誰かに会っているはずだ。それを決意する前に……」

「……手伝ってくれた人はいた。アタシが確実に保坂絵里を殺せるように、手回しをしてくれて、アタシが確実に犯人だって分かるようにしてくれた人が……」

「それは……」


       *


 所変わって、警察署内の待合室。

「あ、桃太郎さん! お疲れッス」

「ぎゃああああっイケメン! 爽やか! 去れ、消えろ! 失せろ!」

「なんスか、急に……」

 待合室では、灰崎来栖はいざきくるすが発砲された当時、発砲したと思われる場所にいた、或いはそこ以外にいたと証明できない者が集められていた。

 そのため、特別に一人部屋を与えられていた桃瀬太郎ももせたろうも証明できる人がいないという理由で該当人物となり、緑区正義みどりくまさよしは発砲現場の棟にいたことから取り調べを受けることになった。

 とうに終えた正義は待合室にいた桃瀬に声をかけたのだが――

「あぁ! 帰りたい! 我が家に! 何故こんなに愚民がむさぼっているのだ!」

「いや、あそこ、あんたの家じゃないし。それに、警察署内だから、人がいるのは当たり前で……」

 正義は声をかえるが、桃瀬は毛布を頭から被ったまま叫ぶだけだった。

「やっぱ、白石さんじゃないとダメッスか?」

「甘えた声を出すな、イケメン! 滅びろ!」

「はぁ、まあ、いいや……」

 軽く溜め息を吐いた後、正義は待合室の奥でうずくまっている桃瀬の隣に座る。

 その時、次の取り調べの人が呼ばれ、何人か出ていった。

 今部屋の中にいるのは、一番奥にいる桃瀬と正義、そして入り口付近で通話している刑事らしき男と、その近くで談笑している制服を着た警官だけだ。

「どうしたんだ?」

「え?」

 桃瀬がうずくまりながら、おそるおそる正義を見上げながら問うた。

「さっきから、まるで人数を確認しているみたいに周りを見ているから……それに、クソイケメン、お前……」

「俺のことは、緑の、とか呼ばないんスね。まあ、そりゃそうか」

 正義は軽く笑った後、壁際でうずくまったままの桃瀬の顔の横に両手をついた。

「か、壁ドン!? 待て、わ、吾輩は、そっちの趣味は……っ」

 慌てて叫ぶ桃瀬の口を、正義は素早く片手で防ぐ。そして至近距離で見下ろすように見つめると、もう片方の指先を自身の口元に持っていき「シー」と静かにするよう合図する。

 入り口付近にいる警官たちは、正義と桃瀬のやり取りに気付いていない。おそらく顔見知り同士がふざけあっている程度にしか見えていないのだろう。

「あ~、本当に、の、言った通りだ」

「……ふがっ!?」

 口を塞がれている桃瀬が大きく目を開く。

「あ、気付いちゃったッスか? でも残念~手遅れ~。俺的には、まだいいかなって思ったんスけど……あんたの能力、始末が悪いッスし……だから……」


「……ここで、死ねよ」


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