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第51話 真実のヒント

「……ん?」


 先程まで信長と話していた時田は異常に気が付く。

 瞬きをしたその次の瞬間、駒を探していた竹千代も、隣で話していた信長の姿も消えていた。


「これは……」


 時田は一瞬で事情を理解し、頭を抱える。


「……またタイムスリップしたのか……」


 時田はあたりを見渡す。

 そして、部屋に変わりは無いことを確認する。

 先程まで時田がいた部屋である。

 所々物の配置は変わっていたが、部屋自体は変わっていない。


「……」


 時田は振り返り、部屋の外を確認する。

 そして、異変を察知した。


「……ん?」


 木から落ちたであろう葉が空中で止まっていた。

 それどころか、侍女と思しき女性も、廊下で止まっていた。

 いや、『固まっていた』


「……どういう事……」

「ちょっとそろそろ説明してあげようと思ってね」


 声がし、振り返ると、部屋の中に小さな背丈の猿のお面をかぶった幼子がいた。

 他に部屋に入れる場所も無く、気配も無かった。

 それに、その姿に何処か見覚えがあった


「猿のお面……それにどこか……」

「ねぇ、なんでこんなことになってるか、そろそろ気になってるでしょ?」

「……まぁね」


 時田は頷く。

 すると、少年は話し続ける。


「お姉さん。輪廻転生ってわかる?」

「……まぁ、それなりに」


 少年は時田の返答を聞き頷き、続ける。


「まぁ、ややこしくて色々とあるけど、簡単に言えば前世で悪行を積んだ者が極楽浄土に行くために転生するというもの。まぁ良く異世界転生とかあるけど、あれって悪行を積んでいたっね事になるのかな? ……お姉さんは、心当たりがあるんじゃない?」

「……あなたは……何者?」


 時田のその問いに少年は少し笑い、答える。


「まぁ、そこの答え合わせはまだ後だね。今日はヒントをあげに来たんだ。お姉さんが疑問に思っている事を教えてあげようかなってね」

「ヒント……それに、異世界転生……」


 時田は少年の言動に気が付く。

 ヒント、などという言葉はこの時代の人間が知っているはずが無い。

 異世界転生等という概念は現代の物だ。

 この時代の人間が知っているはずが無い。

 時田は考えを巡らせる。

 しかし、そんな時田を他所に少年は話し続ける。


「まず、本来の歴史について。あなたがこの時代に来たのは必然です。つまり、あなたがこの時代に存在するのは、歴史通りということ」

「……」

「そして、あなたが歴史通りに事を進めようとする、もしくは歴史通りに事が進みそうになれば、私が罰を与えます」

「……罰?」


 少年は頷く。


「そう。それは、体の一部を失う事。お姉さんは既に目と指を失ってますね」

「……一度目は明智光秀と出会った時……そして戦で目を……それは、歴史通りだったということ?」

「そうです。ただ、あなたが関わる事が出来る、歴史的に重要な事象を変えなかった場合のみです。その指は、あなたが明智光秀と出会ったから。そして、その目は明智光秀の死を防いだから。その他は意図せず歴史を変えていた……と、少し言い過ぎましたかね」


 その少年の言葉に時田は考える。


(全て、明智光秀が関わっている……いや、偶然か? 明智光秀が歴史上の重要人物だからということ? この前は松平家と関わっていたし……)


 すると、少年は時田に背を向け、続ける。


「まぁ、言えるのはここまでです。後は自力で頑張ってください」

「……一つだけ、良い?」

「……何でしょう。答えられるのなら答えますよ」


 時田は恐る恐る口を開く。


「もし、全て歴史通りに進んだら、私はどうなるの?」

「……詳しくは言えませんが……明智光秀と運命を共にした、とだけ言っておきましょう」

「そう……」


 暫くの沈黙の後、少年は軽く咳払いをし、最後に挨拶をする。


「では、今度こそ」

「……まぁ、ありがとう。今後どうすれば良いか分かった気がするよ」


 時田は軽く笑い、少年に語りかける。


「……また、会えると思っててもいいのかな? 今度は将棋でも指しながら話したいな?」


 すると、少年の姿は朧げになっていく。

 最後に、少年は笑顔で、横目で時田を見ていた。

 そして、少年は消える。


「カマ掛けは……微妙だったかな? ……まぁ、取り敢えずは今が何年か調べないと、か」

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