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第52話 次の時代

「……ん?」


 少年が消え、あたりの様子が変わったことに気が付く。

 時が動き出したのだ。


「……あの子……いや、今はやめておこう」


 独り言を呟く。

 すると、その部屋に先程廊下で固まっていた侍女が入ってくる。


「……え?」

「……あ」


 時田はすっかりその侍女の存在を忘れていた。

 どう言い訳をしたものかと考えていた所、先に動いたのは侍女であった。


「……ひ」

「え」


 侍女は腰が抜けたのか、その場に尻餅をつく。


「こ……」

「こ?」

「殺さないで……」


 プルプルと震えながら頭を下げ、懇願する。

 時田の眼帯と指が無いのを見て、曲者か何かだと勘違いしたのだろうと時田は推測する。

 こんなので大丈夫なのか、と思いながら時田は女性に近づき、手を差し伸ばす。


「え、ええと……」

「ひぃっ!」


 しかし、怯えられ、時田は仕方無く手を下げる。


「……ううんと……帰蝶様はどちらにいますか?」

「……え?」


 すると、女性は時田の顔をまじまじと見る。


「あ! もしかして、あなたが時田殿ですか!?」

「え? ええと、そうですよ?」


 何故か疑問形になってしまう。

 すると、侍女はあからさまに嬉しそうな顔をする。

 そして、時田の手を握る。


「か、帰ってきたんですか!? ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます?」


 その侍女の謎のテンション時田は困惑する。

 しかし侍女は時田が困惑していることにも気づかずに続ける。


「もう……もう本当に……大変で……とにかく、すぐにでも帰蝶様にお伝えしてきます! どこにもいかないで下さいね!」


 そのまま、侍女は走り去って行く。

 理由もわからず、時田は取り残された。


「えぇ……」




「光が!? 本当に帰ってきたの!?」


 時田は侍女に言われたとおりにとこにも行かず、待っていた。

 すると、今度は帰蝶の声が聞こえてくる。

 意外と近くにいたようであった。


「よし! すぐに行くぞ!」


 それと同時に信長の声も聞こえる。

 どうやら二人は共にいたようであった。

 ドタドタと荒々しい足音が近づいてくる。


「時田!」

「光!」


 二人が時田の部屋に姿を現す。

 時田は座り、頭を下げた。


「お久しぶりです。まぁ、私にとっては本の少し前に顔を合わせた感覚ですが……って帰蝶様、信長様……ですよね?」


 しかし、その場に現れた二人は時田が知る二人と、少し様子が違った。

 何処か、歳を重ねた雰囲気であった。


「……ええと……」

「……六年ぶりか」

「ええ……本当に久しぶりですね……」


 信長の言葉に、時田は反応する。


「六年!? そんなにですか!?」

「全く……義父上も心配していたおったぞ。あぁ、後明智とやらもな」

「会われたんですか?」


 信長は頷く。


「うむ。……しかし……」


 信長はどこか難しい顔をする。

 そして、帰蝶の顔を見て、頷く。


「……今は少しややこしくなっていてな。何があったか、話すとしよう」

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