「……ん?」
少年が消え、あたりの様子が変わったことに気が付く。
時が動き出したのだ。
「……あの子……いや、今はやめておこう」
独り言を呟く。
すると、その部屋に先程廊下で固まっていた侍女が入ってくる。
「……え?」
「……あ」
時田はすっかりその侍女の存在を忘れていた。
どう言い訳をしたものかと考えていた所、先に動いたのは侍女であった。
「……ひ」
「え」
侍女は腰が抜けたのか、その場に尻餅をつく。
「こ……」
「こ?」
「殺さないで……」
プルプルと震えながら頭を下げ、懇願する。
時田の眼帯と指が無いのを見て、曲者か何かだと勘違いしたのだろうと時田は推測する。
こんなので大丈夫なのか、と思いながら時田は女性に近づき、手を差し伸ばす。
「え、ええと……」
「ひぃっ!」
しかし、怯えられ、時田は仕方無く手を下げる。
「……ううんと……帰蝶様はどちらにいますか?」
「……え?」
すると、女性は時田の顔をまじまじと見る。
「あ! もしかして、あなたが時田殿ですか!?」
「え? ええと、そうですよ?」
何故か疑問形になってしまう。
すると、侍女はあからさまに嬉しそうな顔をする。
そして、時田の手を握る。
「か、帰ってきたんですか!? ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます?」
その侍女の謎のテンション時田は困惑する。
しかし侍女は時田が困惑していることにも気づかずに続ける。
「もう……もう本当に……大変で……とにかく、すぐにでも帰蝶様にお伝えしてきます! どこにもいかないで下さいね!」
そのまま、侍女は走り去って行く。
理由もわからず、時田は取り残された。
「えぇ……」
「光が!? 本当に帰ってきたの!?」
時田は侍女に言われたとおりにとこにも行かず、待っていた。
すると、今度は帰蝶の声が聞こえてくる。
意外と近くにいたようであった。
「よし! すぐに行くぞ!」
それと同時に信長の声も聞こえる。
どうやら二人は共にいたようであった。
ドタドタと荒々しい足音が近づいてくる。
「時田!」
「光!」
二人が時田の部屋に姿を現す。
時田は座り、頭を下げた。
「お久しぶりです。まぁ、私にとっては本の少し前に顔を合わせた感覚ですが……って帰蝶様、信長様……ですよね?」
しかし、その場に現れた二人は時田が知る二人と、少し様子が違った。
何処か、歳を重ねた雰囲気であった。
「……ええと……」
「……六年ぶりか」
「ええ……本当に久しぶりですね……」
信長の言葉に、時田は反応する。
「六年!? そんなにですか!?」
「全く……義父上も心配していたおったぞ。あぁ、後明智とやらもな」
「会われたんですか?」
信長は頷く。
「うむ。……しかし……」
信長はどこか難しい顔をする。
そして、帰蝶の顔を見て、頷く。
「……今は少しややこしくなっていてな。何があったか、話すとしよう」