「あの、ちょっとお聞きしても良いですか?」
時田達はまずは鳴海城の城下町で聞き込みを開始した。
情報を集めるにはまずは聞き込みから、ということである。
「おう、なんだい?」
城下町の男は快く対応する。
「山口小次郎というお方を探してるのですが……」
「小次郎……俺は知らんな。だが山口家の方なのだろう? 他の人にも聞けばすぐにでも出てくるだろう。すまんな、力になれなくて」
「いえいえ、ありがとうございます」
時田は軽く会釈し、その場を後にする。
「さて、もう少し聞き込みしてから合流するか……」
時田は大須賀康高と二手に分かれて聞き込みをしていた。
ある程度よ聞き込みを済ませた後、合流して情報交換する手筈であった。
「ちょいと……そこのお方」
誰に聞こうか迷っていた所、背後から声をかけられる。
「はい?」
振り向くと、そこには老婆がいた。
だが、時田は何処か違和感を覚えていた。
「先程……山口小次郎、と言いましたか?」
「……ええ」
時田は頷く。
「もしかして、知ってるんですか?」
「えぇ……かなり昔、小次郎様のお父上の小さな小さな土地で暮らしていたので……」
「本当ですか!? 詳しくお聞かせください!」
老婆は頷き、続ける。
この頃には、時田は違和感など忘れていた。
「小次郎様のお父上はそれはそれはとても良いお方で、私達領民にも良くしてくれました。でも、体は強くはなく、度々お体を悪くされたのです……」
「……」
「私達の土地は小さいながらも米がよく取れました。それも、小次郎様のお父上のおかげだったのですが……まだ小次郎様が幼かった頃、早くにお亡くなりになられて……」
老婆は少し悲しげに物を話す。
その老婆の話し方で、どれ程愛されていたかが理解出来た。
「私達の土地に目をつけた教継様が強引に手の者に後を継がせ、小次郎様は追い出されました。私達が変わりに育てていましたが……それが教継様にバレてそこからも追い出されて……そこからは、知っている通りかと」
「……ん?」
その老婆の言葉に時田は違和感を覚えた。
「待って。なんで私がどこまで知ってるとか分かるの?」
「……おっと……」
老婆は口を押さえ少しずつ後ずさりする。
その足取りは軽快である。
時田は違和感を思い出した。
「……ん?」
「では……これで失礼します!」
そのまま老婆は走り去って行く。
その後姿はとても老人とは思えなかった。
「……えぇ……どういう事……」
「時田殿!」
すると、背後から康高の声が聞こえる。
「どうしたん……は?」
振り返ると、康高は男を担いでいた。
男は気を失っているようであった。
「えっと……どういう事? いや、まさか……」
「あぁ。時田殿も同じような奴に会ったか。俺も流石に不審に思ってな。逃げ出したが捕まえた」
「捕まえれるのが凄いですよ……」
「……ん」
等と話していると、微かに背負われている男が動き出し、康高に視線が集まっていることに気が付く。
「……早くこの場から離れた方が良いですね。目も覚ましそうですし」
「よし、人気のないところに連れて行こう」
二人はその場を去る。
そして、その様子を遠くから見守る人影があった。
「……仕方ない。全員で行くぞ」
その人影は、複数あった。
それらは、音もなく消えていくのであった。