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第56話 聞き込み調査

「あの、ちょっとお聞きしても良いですか?」


 時田達はまずは鳴海城の城下町で聞き込みを開始した。

 情報を集めるにはまずは聞き込みから、ということである。


「おう、なんだい?」


 城下町の男は快く対応する。


「山口小次郎というお方を探してるのですが……」

「小次郎……俺は知らんな。だが山口家の方なのだろう? 他の人にも聞けばすぐにでも出てくるだろう。すまんな、力になれなくて」

「いえいえ、ありがとうございます」


 時田は軽く会釈し、その場を後にする。


「さて、もう少し聞き込みしてから合流するか……」


 時田は大須賀康高と二手に分かれて聞き込みをしていた。

 ある程度よ聞き込みを済ませた後、合流して情報交換する手筈であった。


「ちょいと……そこのお方」


 誰に聞こうか迷っていた所、背後から声をかけられる。


「はい?」


 振り向くと、そこには老婆がいた。

 だが、時田は何処か違和感を覚えていた。


「先程……山口小次郎、と言いましたか?」

「……ええ」


 時田は頷く。


「もしかして、知ってるんですか?」

「えぇ……かなり昔、小次郎様のお父上の小さな小さな土地で暮らしていたので……」

「本当ですか!? 詳しくお聞かせください!」


 老婆は頷き、続ける。

 この頃には、時田は違和感など忘れていた。


「小次郎様のお父上はそれはそれはとても良いお方で、私達領民にも良くしてくれました。でも、体は強くはなく、度々お体を悪くされたのです……」

「……」

「私達の土地は小さいながらも米がよく取れました。それも、小次郎様のお父上のおかげだったのですが……まだ小次郎様が幼かった頃、早くにお亡くなりになられて……」


 老婆は少し悲しげに物を話す。

 その老婆の話し方で、どれ程愛されていたかが理解出来た。


「私達の土地に目をつけた教継様が強引に手の者に後を継がせ、小次郎様は追い出されました。私達が変わりに育てていましたが……それが教継様にバレてそこからも追い出されて……そこからは、知っている通りかと」

「……ん?」


 その老婆の言葉に時田は違和感を覚えた。


「待って。なんで私がどこまで知ってるとか分かるの?」

「……おっと……」


 老婆は口を押さえ少しずつ後ずさりする。

 その足取りは軽快である。

 時田は違和感を思い出した。


「……ん?」

「では……これで失礼します!」


 そのまま老婆は走り去って行く。

 その後姿はとても老人とは思えなかった。


「……えぇ……どういう事……」

「時田殿!」


 すると、背後から康高の声が聞こえる。


「どうしたん……は?」


 振り返ると、康高は男を担いでいた。

 男は気を失っているようであった。


「えっと……どういう事? いや、まさか……」

「あぁ。時田殿も同じような奴に会ったか。俺も流石に不審に思ってな。逃げ出したが捕まえた」

「捕まえれるのが凄いですよ……」

「……ん」


 等と話していると、微かに背負われている男が動き出し、康高に視線が集まっていることに気が付く。


「……早くこの場から離れた方が良いですね。目も覚ましそうですし」

「よし、人気のないところに連れて行こう」


 二人はその場を去る。

 そして、その様子を遠くから見守る人影があった。


「……仕方ない。全員で行くぞ」


 その人影は、複数あった。

 それらは、音もなく消えていくのであった。

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