「さて、情報交換と言っても、儂らが調べた小次郎の経歴についてはあの時話した事で全てだ。他に何が知りたい?」
「そうですね……そういえば、町の人々は小次郎の事を知りませんでした。私達の推測では教継からそれなりの立場を約束されたのでは無いかと思ったんですが……もしそうなら、誰も知らないのは不自然だと思うのですが……」
時田がそう言うと、忠広は頷く。
「時田殿の言う通り、だな。その辺りは調べがついている。確かに山口家としてしっかりとした扱いを約束され、城内でも重要な役目を任せたいと言われたらしい。ただ……それだけで我等を裏切るとは到底思えんが……」
「確かにそうですね……居づらい状況だったかもしれませんが、それだけとは思えません。やはり直接会いに行くべきですね。居場所はわかってるんですか?」
「そうだな。それさえわかれば会いに行けるからな。どうなんだ? 忠広殿」
しかし、康高の言葉に忠広は首を横に振る。
「……城の中に居るのは確かなのだが、その先が何も分からん。城内で大事な役目を任されているのなら名前を聞いてもおかしくは無いのに、いくら調査しても名前すら聞かんのだ」
「……では、肩書のみで実質は幽閉状態とか?」
「城には潜り込めんのか?」
康高が忠広に聞くが、やはり忠広は首を横に振った。
「鳴海城は最前線に当たるという事もあり、警備が厳重だ。再び織田家に寝返るのを警戒してか、今川の手の者も巡回している。これまで仕入れた情報は城に出入りしている者や城下町で噂となっている物を聞いたものだ」
「……なら、私達も城に入れば良いのでは? そもそも商人なんですし」
「いや、平松商会に小次郎が所属していた事も知られており、通してはくれなかったのだ」
三人は暫く考え込む。
しかし、良い案が出ない。
「……あの……」
すると、康高によって捕らえられた男が口を開く。
「そろそろほどいてくれません?」
「いやぁ、ごめんね? すっかり忘れてた」
「いえ、別に良いのです。それよりも、あの時田光殿とお会いできて光栄です」
男は軽く頭を下げる。
そして、平松が男を紹介する。
「こいつは古くから尾張笠寺の付近で過ごしてきた者でな。名を孫次郎という。今回の件では非常に助けられている」
「尾張笠寺は山口家が治めていた辺りです。多少は力になれるかと」
「……では孫次郎殿。何か案はありますか?」
時田の問いに、孫次郎は少し考えた後、頷く。
「笠寺を焼き討ちしてみてはどうでしょう。自分の故郷を燃やされたとあっては、出て来ないわけにもいかないでしょう」
「……成る程、そして城が手薄になった所に忍び込む……と」
「……孫次郎。何故それを言わなかった」
忠広の問いに孫次郎は目を逸らしつつ、答える。
「……出来るだけ人的被害が出る策は取りたくなかったというのと……自信がなくて……というか、自分の故郷でもありますし」
「……まぁ仕方が無いか。時田殿。その策でいこう」
「そうですね。それで行きましょう。忍び込むのは出来るだけ少数で行きましょう。あ、忠広殿は笠寺焼き討ちの指揮を。潜入したらやらかしますよね?」
「う……」
忠広は城下町で情報収集をしていた時、時田の目の前でやらかしたのを思い出す。
そして、頷いた。
「あぁ。動ける人間も集めて考えるとしよう」
今、斎藤道三を救う為の第一歩、小次郎奪還作戦が動き出した。