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第59話 小次郎奪還作戦 開始

「の、教継様!」

「どうした!? 織田が攻めてきたのか!? 何があった!?」


 時田達が策を練った後日早朝。

 教継のもとに伝令が走る。


「か、笠寺が襲われております!」

「何だと!? やはり織田か!」


 伝令は頷く。


「よし! すぐに動ける者だけで良い! 兵を出すぞ!」

「は!」


 しかし、伝令はその指示に疑問を覚える。


「し、城の守りは……」

「そんなものは今川に任せておく! お主はそのまま今川に伝令へ行け!」

「は!」


 伝令は頭を下げ、すぐさま走り去って行く。


「信長め……この時期に仕掛けてくるとは……やってくれるわ……具足を持て!」




 数時間後。

 山口勢が鳴海城を出陣する。

 いきなりの出陣で、数はそれほど多くないように見えた。


「よし、数は想定通り。恐らく、中の敵も今川の手勢でごく僅かだろう」

「じゃ、行きますか」


 潜入班は、時田、大須賀康高、孫次郎の三人である。

 更に、潜入班が潜入した後、陽動部隊が城門に攻撃を仕掛ける。

 それで、敵の警備の目を城門に集める。

 笠寺の陽動部隊が焼き討ちを済ませた後、遠回りして鳴海城に対して陽動を仕掛ける算段である。


「……本当に殆どいませんね」


 城壁をよじ登り、城内に潜入する。

 警備の敵がちらほらと散見されたが、時田達には気付いていなかった。


「ああ。今川から派遣された兵も数は少ないようだ。よし、とっとと小次郎を探すとしよう」

「恐らく、本丸の何処かだと思います。こちらです時田殿」


 孫次郎の先導で城内を進む。

 警備の目をかいくぐりながら、スルスルと進んで行った。


「城の中を知り尽くしているのですね?」

「はい。昔戦があった時、平松商会に入る前ですが、足軽として城内に入った事があります。それに、平松商会でも城に出入りする者から情報を集めてましたので」


 それが、孫次郎が同道した理由でもあった。

 平松忠広の推薦で、潜入班に組み込まれたのである。

 暫く城内を進んで行くと、城外で鉄砲の音が響く。

 念の為、時田達は物陰に身を隠す。


「お。始まったな」

「案外早かったですね。平松殿も気合が入ってるみたいです」

「まぁ、自分の組織の為ですからね。頭領も気合が入りますよ」


 平松忠広は平松商会の人間からは頭領と呼ばれていた。

 実質の頭領は時田なのだが、表向きには忠広だからである。

 すると、付近から慌ただしい足音が近づく。


「おい! 敵襲だ!」

「くそ! 城には殆ど兵がいないぞ! 全員で行くぞ! 敵も少数らしい!」


 敵が陽動部隊の動きにかかる。

 ドタバタと忙しく走って行った。


「よし、うまく行った。後は小次郎を探すだけ……」

「待て、時田殿。まだ来る」


 再び動き出そうと物陰から出ようとした所、康高に止められる。

 すると、二人組がやって来る。


「くそ……山口家の方がいない今、誰が指揮を取るんだ……」

「……いや、一人だけいるぞ」


 二人の会話が重要だと感付いた三人は足を止め聞き耳を立てる。


「小次郎様か? しかし、あのお方は……」

「いざとなれば開城し、城代の命で見逃してもらえば良いのだ」

「成る程……それだな。すぐに話をしに行こう」


 そのまま、二人は去っていく。


「……ついていきましょう」

「あぁ。案内人が増えたな」


 三人はそのまま、二人の後を追うのであった。

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