「の、教継様!」
「どうした!? 織田が攻めてきたのか!? 何があった!?」
時田達が策を練った後日早朝。
教継のもとに伝令が走る。
「か、笠寺が襲われております!」
「何だと!? やはり織田か!」
伝令は頷く。
「よし! すぐに動ける者だけで良い! 兵を出すぞ!」
「は!」
しかし、伝令はその指示に疑問を覚える。
「し、城の守りは……」
「そんなものは今川に任せておく! お主はそのまま今川に伝令へ行け!」
「は!」
伝令は頭を下げ、すぐさま走り去って行く。
「信長め……この時期に仕掛けてくるとは……やってくれるわ……具足を持て!」
数時間後。
山口勢が鳴海城を出陣する。
いきなりの出陣で、数はそれほど多くないように見えた。
「よし、数は想定通り。恐らく、中の敵も今川の手勢でごく僅かだろう」
「じゃ、行きますか」
潜入班は、時田、大須賀康高、孫次郎の三人である。
更に、潜入班が潜入した後、陽動部隊が城門に攻撃を仕掛ける。
それで、敵の警備の目を城門に集める。
笠寺の陽動部隊が焼き討ちを済ませた後、遠回りして鳴海城に対して陽動を仕掛ける算段である。
「……本当に殆どいませんね」
城壁をよじ登り、城内に潜入する。
警備の敵がちらほらと散見されたが、時田達には気付いていなかった。
「ああ。今川から派遣された兵も数は少ないようだ。よし、とっとと小次郎を探すとしよう」
「恐らく、本丸の何処かだと思います。こちらです時田殿」
孫次郎の先導で城内を進む。
警備の目をかいくぐりながら、スルスルと進んで行った。
「城の中を知り尽くしているのですね?」
「はい。昔戦があった時、平松商会に入る前ですが、足軽として城内に入った事があります。それに、平松商会でも城に出入りする者から情報を集めてましたので」
それが、孫次郎が同道した理由でもあった。
平松忠広の推薦で、潜入班に組み込まれたのである。
暫く城内を進んで行くと、城外で鉄砲の音が響く。
念の為、時田達は物陰に身を隠す。
「お。始まったな」
「案外早かったですね。平松殿も気合が入ってるみたいです」
「まぁ、自分の組織の為ですからね。頭領も気合が入りますよ」
平松忠広は平松商会の人間からは頭領と呼ばれていた。
実質の頭領は時田なのだが、表向きには忠広だからである。
すると、付近から慌ただしい足音が近づく。
「おい! 敵襲だ!」
「くそ! 城には殆ど兵がいないぞ! 全員で行くぞ! 敵も少数らしい!」
敵が陽動部隊の動きにかかる。
ドタバタと忙しく走って行った。
「よし、うまく行った。後は小次郎を探すだけ……」
「待て、時田殿。まだ来る」
再び動き出そうと物陰から出ようとした所、康高に止められる。
すると、二人組がやって来る。
「くそ……山口家の方がいない今、誰が指揮を取るんだ……」
「……いや、一人だけいるぞ」
二人の会話が重要だと感付いた三人は足を止め聞き耳を立てる。
「小次郎様か? しかし、あのお方は……」
「いざとなれば開城し、城代の命で見逃してもらえば良いのだ」
「成る程……それだな。すぐに話をしに行こう」
そのまま、二人は去っていく。
「……ついていきましょう」
「あぁ。案内人が増えたな」
三人はそのまま、二人の後を追うのであった。