「よし。笠寺の焼き討ちに上手く引っかかってくれたみたいだな」
忠広率いる陽動部隊は笠寺に焼き討ちを仕掛けた後、迂回して山口教継の手勢と遭遇しないように鳴海城へ到達した。
現在忠広が動員することの出来る平松商会の手勢も非常に少なく、戦闘要員だけで言えば、三十名が限界であった。
「全く……六年前より酷いな」
鳴海城の城門の前の茂みに潜みつつ、手勢は攻撃を仕掛ける準備を進める。
「しかし、これがあるだけまだマシだな」
忠広は手元の銃を見る。
「時田殿はフリントロック式の……マスケット銃……? とかって言ったか? 南蛮の言葉らしいが……まぁ良い。六年前は技術力不足で作れなかったが、時田殿の言葉を頼りになんとかこぎつけた……初披露だが、問題無いだろう」
時田は六年前、安祥城の戦いでフリントロック式の銃を投入することを考えていた。
フリントロック式マスケットライフル。
それは、火縄の代わりに火打ち石を使い、火薬に点火する銃である。
火蓋を開ける必要が無いので射撃間隔が短くなる。
それに加えて火縄銃では隣の射手の火縄により暴発の危険性があり、密集することが難しかったが、その問題も解決していた。
構造も単純であるということを知っていた時田は、にわかではあったが、自分の知っている知識を全て平松商会に伝えた。
様々な難点があったが、揃わない素材等は南蛮貿易等も駆使し集め、長い年月をかけて実用化に至ったのである。
「よし、構え!」
忠広の号令で皆が銃を構える。
「撃て!」
轟音が鳴り響き、銃撃が放たれる。
その銃弾は、城門を櫓から見張っていた敵兵に命中し、敵は櫓から落ちた。
「弾込め!」
テキパキと弾込めをする。
二十秒程で用意が完了する。
「放て!」
再度銃撃が放たれるが、敵の反撃は無い。
「これは……行けるな」
忠広は敵が対応しきれていない事を理解する。
それに加えて主だった将兵も陽動に引っかかっていると推測する。
「総員着剣! 城を取るぞ!」
忠広の号令で銃剣をつける。
これも、時田の考案であった。
平松商会の人間は皆、槍の稽古を主にしており、それは銃剣を使って戦うためである。
「弾込めの後突撃! お前達五名はこの場に残り突撃を支援せよ!」
「は!」
総員が手際良く弾込めをする。
平松商会の人間は皆、銃の弾込めの訓練を徹底していた。
火縄銃の頃から平松商会は銃を良く使っており、戦がなかったとしてもいつでも戦えるように準備をしていた。
忠広は総員が弾込めを済ませたことを確認する。
「よし! 突撃!」
忠広が先頭に立ち、城壁へ向かう。
手勢もその後に続く。
「ひっ……」
敵が城壁から顔を出す。
敵が弾込めの間に対応し始めている事を意味していた。
しかし、忠広は足を止めない。
その次の瞬間、轟音が轟き、その敵兵は支援射撃に倒れる。
「がっ……」
「よし! 来い!」
忠広が城壁にとりつき、他の者もそれに続く。
「まず儂が行く。頼む」
「はい!」
一人が忠広の踏み台となり、忠広は城壁を越える。
「て、敵だ!」
「入って来たぞ!」
城壁の向こう側には敵が居た。
まだこちらに駆けつけてきたばかりのようで、戦う準備はできていないようであった。
「六人か……」
「死ね!」
敵の一人が忠広に切りかかる。
しかし忠広は照準を合わせ、引き金を引く。
轟音が轟き、敵は倒れた。
「まだだ! 一斉にかかれ!」
「はっ!」
忠広は銃を投げる。
銃剣が敵の心臓に突き刺さり、倒れる。
「い、今だ! 武器はもうないぞ!」
忠広は腰に刀を差していなかった。
それを理解した敵は一斉に攻めてくる。
「ふ……」
しかし、忠広は動じない。
陣羽織の内側から広忠は単筒を取り出す。
そしてその照準を敵に合わせ、引き金を引く。
「が……」
単筒から放たれた弾は見事に敵の眉間を貫く。
「小型の火縄銃……いや、火縄も使っていないだと……どういう事だ……」
「し、しかし、弾はもう込められていない筈! 今度こそ……」
忠広は敵の油断を理解し、笑みを浮かべながら陣羽織を脱ぐ。
すると、陣羽織の下には三丁の単筒が収められていた。
「な……」
「こいつは確かに弾切れだが……お主らを殺せるだけの銃はまだあるぞ? 因みに、全て弾込め済みだ」
時田はフリントロック式ピストルも考案しており、それ用のホルスターも作らせていた。
時田の指示で忠広はそれを懐に四丁忍ばせていた。
時田曰く、『何かのゲームで見た』とのことである。
「……な、なんとか躱せば……」
「……諦めた方が賢明だと思うがな」
忠広がそう言うと、背後から続々と平松勢が城壁を乗り越えて来る。
「さぁ、どうする? 今川の弱兵共」