「えっと……ここ、本丸だよね?」
時田が康高に聞く。
康高は静かに頷いた。
「つまり……たったの三十名で城を落としたってこと?」
「まぁ……そうなるな。他の者は残敵の掃討に当たらせている」
その忠広の報告を聞き、時田は考える。
「……まぁ、指揮官の不在に士気の低下。奇襲も相成って陥落……って所ですか」
「まぁ、時田殿の考案した新型の銃が大いに活躍したってことだな。こいつは良い。銃身が長い方は弾込めに時間がかかるが、この単筒は弾込めがしやすいしな。乱戦向きだ」
忠広は銃を見つつ続ける。
「乱戦になったらまず長い方は槍として使い、もしこれが使えなくなったら単筒で戦えば良い。この単筒ももっと数を作って皆に使い方を熟知させればかなり良いぞ。改良の余地もありそうだしな」
「……まぁ、取り敢えず小次郎を手当てしましょう。忠広殿。兵には焼き討ちの準備をするように」
「よし、承知した」
忠広は頷くとすぐさま指示を出し、動き始める。
城を陥落させたとは言え、たったの三十名では城を守りきる事は出来ない。
出陣した山口勢が戻ってくれば必ずや負けるからである。
「さて、私達も撤収の準備を。小次郎の手当てが済めばすぐにでも城を出ます。良いですね?」
「おう。無論だ」
その後、時田達は手分けをして撤退の準備を始めた。
手際良く小次郎の手当てをし、忠広に混じって焼き討ちの準備も済ませると、すぐさま城門に皆を集めた。
「では忠広殿。やっちゃって下さい」
「了解した」
忠広は合図を出す。
それを受け取った手の者はすぐさま火を放った。
油等も撒き散らしており、火はすぐに燃え広がった。
「よし、じゃあ火を放った人たちが戻ったらすくに城を出ましょう」
因みにだが、城門にはすべて閂をかけた。
これで山口教継が火の手が回っていないうちに戻って来たとしてもすぐには消火活動には移れない。
鳴海城は城としての機能を失う事となる。
(また歴史が変わった……この時期に鳴海城は陥落したという記録は無いはず。これなら、道三様をお救い出来るかも……)
時田達は速やかに尾張へと帰っていったのであった。
「おお! 時田! 帰ったか!」
「信長様。このように、小次郎も連れ戻しました」
時田は帰ってくると、すぐさま小次郎を部屋に寝かせた。
その部屋に、すぐさま信長が現れ、時田は事の顛末を報告する。
時田の報告に信長は頷く。
「良くやった。それで? 小次郎がなぜ寝返ったか、今川の内情など聞き出せたのか?」
「いえ、鳴海城を脱した後、安心したのか、疲れてたのか、寝てしまいまして。まだ何も話を聞けてません」
そこで、時田は重要な事を思い出した。
「そういえば、平松殿には各地の支部に小次郎が戻ったことを伝えてもらってます。内容としては、小次郎は今川の内情を探る為に元々誘いのあった山口家へ単身乗り込み、諜報活動をしていた。しかしその動きが怪しまれ、幽閉されていた。そして、平松殿が直々に救出した。と言うことにしてあります。まぁ、真実はどうあれ、これで平松商会も纏まりを取り戻すでしょう」
時他の報告に、信長は満足したようであった。
時田の隣に座り、共に小次郎の様子を見る。
「……時田よ。良くやってくれた。これで小次郎も目を覚ませば万事解決だ」
「はい。後は、小次郎の真意を知りたい所ですね。平松殿に頼んだ伝言通りなら一番良いのですが」
「……概ね、その通りです」
すると、小次郎が目を覚ます。
「小次郎。目覚めましたか」
「はい……ご迷惑をおかけしました。因みに、話は聞こえておりました」
「何が迷惑なものか。それよりも、概ねその通りと言ったな? お主の調子が良いのなら、早速聞かせてはもらえぬか?」
信長の問いに小次郎は頷き、体を起こした。
「無理はしないでも良いのですよ?」
「いえ、話させて下さい。今はすぐにでも信長様の……時田殿のお力になりたいので」