小次郎は信長と時田に今川家の内情を報告した。
しかし、半ば幽閉状態にあった小次郎が得られる情報は付近の者が話していた事に聞き耳を立てて得られたものくらいで、信憑性は薄かった。
しかし、信長は平松商会を使いその信憑性を確かめ、尾張の防衛計画等の見直しに役立てた。
そして、一月後。
今川家に大規模な侵攻作戦が無いことを確信した信長は、復活したばかりの平松商会を全力で使い、美濃の情報を集めさせた。
それは、道三を救うためであった。
「うむ。道三殿は今の所は変わらず春に仕掛けるつもりのようだ。時田。明智も道三殿に味方するつもりのようだぞ」
「ええ、そうでしょう。あの方が道三様を裏切るとは到底思えませんので」
信長は頷き、時田に指示を出す。
「時田よ。平松商会を美濃に総動員して道三殿を救え。もし事が起これば俺も兵を出す」
「わかりました。帰るのがいつになるかはわかりませんが、春までにはおわらせます。では……」
「……え。春まで?」
すると、部屋の外で女性の声がする。
今この部屋には時田と信長しかいない。
小次郎や康高は既に美濃入りの為の支度をしており、ここにはいない。
それに帰蝶は別の部屋である。
「誰だ!」
「ひぃっ!」
信長が戸を開けると、それに驚いた声の主は尻もちをつく。
「あなたは……」
その女性は、時田がこの時代に来た時に初めて遭遇した侍女であった。
あの、時田が帰ってきた事に何故か非常に感謝していた侍女である。
「お冬。聞いておったのか」
「も、申し訳ありませぬ!」
お冬と呼ばれた侍女はひたすらに頭を下げる。
「……まぁ、別に極秘の話ではないし、義龍の手の者でなければ問題は無い。……というか、時田がいないのがそんなに嫌なのか? お主と時田に殆ど面識は無いはずだが……」
「そ、それは……」
お冬はモジモジとしていて話したがらない。
そこで、時田が動く。
「じゃあ、何も問題はありませんね」
「うぅ……」
「問題があるのなら言ってくれればなんとか出来るのかもしれませんが……仕方ありませんね」
時田は荷物を持ち、部屋を出ようとする。
「では信長様。行ってきます」
「……うむ」
信長はお冬を気にしつつ頷く。
「ま、待って下さい! ごめんなさい! 正直に言いますぅ!」
お冬は時田の腰に抱きつく。
というか泣いていた。
「な、泣くほどですか……」
「は、はい……」
「成る程。そういう事ですか」
話によると、帰蝶は時田がいなくなってから侍女への当たりが強かったとのことらしい。
「はい……明確には聞いてはおりませぬが、時田様が何でもかんでも完璧にこなすので……他の侍女への期待も高かったのかと……」
「……いや、そうではないと思うぞ」
すると、信長が口を開く。
「それは単にお主が仕事が出来ないからだと思うぞ? 帰蝶が漏らしておったわ。まぁ、時田と比べられていたのは確かだがな」
「……申し訳ありません。原因はやはり私にあったのですか……侍女など向いていないのかもしれません……」
すると、信長はあることを思いつく。
「そうだ。ならばお主も時田とともに美濃へ行くが良い。時田の側で時田が何を考えどう判断するのか、どう動くのかを学ぶのだ。時田もそれで良いか?」
「え」
「まぁ……大丈夫ですよ?」
何故か疑問形であったが、新たな旅の友が増えたのであった。