「と言うことだ。つまり、お主がちゃんと仕事していればここまでの事態には陥らなかったのだ」
「……すみません」
時田はその後、光秀から何故このような事態に陥ったかの説明を受けた。
時田の記憶と違うのは、平松商会が山口小次郎のせいで動けなくなっており、その問題を解決してからでなければ時田を返すことは難しいと信長に言われたという事だけであった。
そして、信長から小次郎が裏切っていた事などの事情も聞いていた。
「それで? そちらの問題は全て解決したという認識で良いのか?」
「はい。そこにいるのが例の山口小次郎です」
時田は小次郎を指さす。
「そうか。尾張では時田を良く支えてくれたようだな。感謝する」
「……いえ、自分は迷惑ばかりかけていましたので……」
そこで、時田はとある事を思い出し、口を開く。
「そういえば、おさとはどこですか?」
「ん? そういえばまだ帰ってきておらぬな……城下町へ少しお使いに行ってもらったのだが……」
「成る程……」
時田は少し考えると、すぐに動きだした。
「じゃあ、私行きますね」
「もう行くのか? もう少しゆっくりしておけば良かろう。久々に帰ってきたのだからな」
「叔父上の言う通りだ。おさとも少し遅い気もするが、すぐに帰ってくるだろう」
光秀と光安の二人が時田を止めるが、時田は康高と小次郎、お冬に目配せをして動き出す。
「いえ。道三様をお救いするためにも出来るだけ早く動かなくてはなりません。それに、おさとに早く会いたいので、こちらから迎えに行って来ます!」
時田はそう言うとすぐにその場を後にする。
「ふふ……おさとに会えるのがそれほど嬉しいようだな」
「そのようですね……どれ、我々も道三様をお救いするために戦支度を整えておきますか」
「もうか? 道三様は雪解けに動くと聞いたが……」
光秀は軽く笑い、返す。
「ええ。それは義龍も知っているでしょう。恐らく、時田はその裏を突いてこの時期に事を進めようとするはず。いつでも動けるようにしておきましょう」
「この辺かな?」
町民に聞き込みし、現地の平松商会の諜報員の情報から、おさとのいるであろう場所に足を踏み入れた時田一行。
しかし、そこは鬱蒼とした森であった。
「おいおい、こんな森にいるのか?」
「でも、ここだって……」
あたりを見渡すが、人影は無く、気配もない。
「あ、あの……これって……」
すると、お冬が時田に声を掛ける。
「どうしたの?」
「これ、人の足跡では? 複数、向こうに続いているようですが……」
お冬の指さす場所には、確かに複数の足跡が、森の奥へと続いていた。
時田は、途端に不穏な気配を感じ取る。
「……追いかけます。いつでも戦えるようにしておいて下さい」
「……はい」
康高と小次郎も腰の刀を確かめる。
お冬は銃を手に取った。
お冬には道中、すでに使い方を教えていた。
「……私も、覚悟を決めないと、かな」
時田も同じくフリントロック式ピストルを手に取り、弾込めをする。
(おさと……無事で居てね)
時田達は、森の奥へと足を踏み入れるのであった。