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第80話 真価

「かかれ! 敵は小勢だ! 突っ込め!」


 まず、動いたのは斎藤軍。

 斎藤軍は歩兵を中心とした編成であり、鶴翼の陣を敷いていた。

 全軍が足並みも揃えず、突っ込んでくる。


「成る程。やはりそう来ましたか。では、策の通りにお願いします。構え」

「は!」


 時田の隣にいた小次郎が手を挙げる。

 時田勢の布陣は、時田勢四百五十の鉄砲隊がやや突出し、両翼に明智勢、時田勢の騎馬隊が百五十ずつ配置されている。

 平松商会からも騎兵を出し、明智勢二百五十の騎兵を三百とし、両翼に配置したのである。


「構え!」


 時田は敵の接近を待つ。


「……」


 小次郎は時田の合図を待ち、手を下ろす準備をしている。

 そして、その時は訪れた。


「放て!」

「放てぇ!」


 時田の一声で小次郎が手を下ろし、その合図を確認して銃撃が放たれる。

 密集した鉄砲隊の銃撃は前方の斎藤勢に少なく無い被害を与え、足並みを崩すことに成功する。


「怯むな! 弾込めまでの時間がまだある! 怯まずに進め!」


 斎藤軍の将の一声により、止まること無く進み続ける。

 しかし。


「放て!」


 再度、銃撃が放たれる。


「な……」


 その二度目の銃撃で、将は銃弾に倒れた。


「な、何故こんなにも早く……」

「放て!」


 他の将が状況を掴めずにいると、また銃撃が放たれる。

 その様子を見た康高が口を開く。


「いやぁ、にしても、こんな戦術良く思いついたな?」


 その康高の言葉を聞き、時田は呟く。


「まぁ、元ネタはあるんですけどね……」


 時田勢の鉄砲隊は三列になっていた。

 時田は、フリントロック式ライフルで、三段撃ちをしていたのだ。

 しかし、それは長篠の戦いで行われたという三段撃ちとは少し違っていた。


「本当なら撃ち終わった人は下がって次の列と交代、ってやりたかったんですけどね……戦場のど真ん中、それも銃撃の音と煙で視界も悪くなった所でやるのは相当な訓練が必要です」

「まぁ、陣形の変換だけでも時間がかかるからな。だから、変換しなくて済むように、一列目は伏せさせたのか」


 そう、時田は一列目を伏せ撃ちさせたのである。

 二列目は膝撃ちで、三列目は立ったまま撃たせた。

 これで、入れ替わらせる必要を無くさせたのである。


「この為に徹底した訓練させてたからな。ようやくって感じだ」

「ええ。さて、絶え間なく銃撃を浴び、敵陣中央は壊滅寸前です。混乱にも陥ってますね。では、次の策を始めましょう」


 すると、康高が馬に乗る。


「おう! ここから先は騎馬隊の出番だな!」


 すると、その様子を確認した小次郎が鏑矢を射る。

 その音は、騎馬隊に突撃の合図を知らせる音であった。


「よっしゃ! 大須賀康高、騎馬隊出陣だ!」

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