「行くぞ! 準備急げ!」
時田の鉄砲隊より、十数名の鉄砲隊が騎馬に乗る。
そして、大須賀康高を先頭に騎馬隊が突っ込んでいく。
「おらおら! この大須賀康高に続け!」
「よし! 概ね想定通りだ! 大須賀殿に続け!」
そして、それを追うように両翼の騎馬隊もそれを追いかける。
最初に突撃した大須賀康高の騎馬隊、それを追うように両翼の騎馬隊が突撃する。
「な……これは、まるで魚鱗の陣!? 戦の最中にここまで迅速に陣を変えるとは!?」
時田、明智連合軍の動きに斎藤軍は驚くしか無かった。
通常、陣を変えるという行いはその軍の規模が大きければ大きい程難しくなり、時間もかかる。
それを、一瞬で済ませたのである。
「小次郎。我々は方円の陣を」
「は! 方円陣! 急げ!」
小次郎の掛け声で、時田の鉄砲隊も丸い陣形を取る。
方円陣とは、防御力に優れた陣形である。
「我々は相応の訓練を重ね、数も少ないので容易です。それに、魚鱗の陣は流れによって、そういう形になるように戦を進めたのです。まぁ、数が少ないから出来たという所はありますが」
「流石です。時田殿」
すると、陣形の変換で近づいた孫次郎が時田に語りかける。
「時田殿の采配、お見事でございます! 平松様も見習ってほしいですが……」
「孫次郎! 聞こえているぞ!」
すると、平松も近付いてくる。
「しかし、その知略に遠く及ばないのもまた事実。これを糧に、自分自身も研鑽を重ねるとしよう」
「……それ程の采配でもないと思いますが」
すると、敵の陣形が崩れていく様子が見えた。
「……ま、予想通り、ですね」
騎馬隊は壊滅状態に陥った敵軍中央を破り、敵陣の向こう側まで行った。
後は、斎藤軍がどのように動くかで、時田の策は変わってくるのだが、斎藤軍は時田の鉄砲隊を殲滅すべく、残った両翼で鉄砲隊を挟撃する。
「陣の変更を。三段ではなく二段を背中合わせに配置し、敵両翼に対して横陣を敷く体勢で」
「は!」
小次郎は、すぐさまそれを平松と孫次郎に伝える。
実は孫次郎は平松にその指揮能力を認められ、部隊指揮官として活躍していた。
今回が部隊指揮官としては初陣であったが、何の心配も無く、こなしていた。
「陣の変更、完了致しました!」
「では、用意ができ次第撃ち始めてください」
「は!」
すると、すぐさま銃撃が始まる。
しかし先程とは違い、射撃間隔も空き、銃弾も先程に比べれば少なくなった。
斎藤軍の攻撃の手は緩まらなかった。
「はっ! ここまでだ! 我等に挟み撃ちされた時点で貴様らの運は尽きたのよ!」
斎藤軍の将が意気揚々と迫る。
しかし、時田は慌てなかった。
「……残念、騎馬隊の突撃を許した時点で、貴方がたの負けは決まっていました」
すると、斎藤軍両翼は背後から強襲を受ける。
「な、何!?」
「俺達のことを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
敵陣中央を突破した騎馬隊は再度二部隊に分かれ、斎藤軍両翼の背後に回った。
そして、時田の鉄砲隊と騎馬隊とで挟み撃ちにしたのである。
「騎馬隊の突破を許した時点で城に引き上げていれば助かったのに……ま、仕方が無いです。殲滅してください」
「……は」
後は、簡単な戦であった。
混乱し、潰走する敵を一つずつ潰して行く『作業』であった。
背後からは騎馬隊が、前からは銃撃をあびせられ。
もはや斎藤軍になすすべは一つも残されてはいなかったのである。
取り敢えず、初戦は勝ちを収めたのであった。