黒田討伐軍、出陣前日。
三郎はとある人物と会っていた。
「三郎殿。お初にお目にかかる。織田信包に御座る。……同じ織田家だと言うのに初めて会うとは……面白い事もあるのだな。」
「織田三郎に御座る。それは私が少々特殊というだけのこと。ですが、まぁ、中々無いでしょうな。」
黒田討伐へ向け、軍備を整える中、三郎は信長の弟、織田信包に会っていた。
関ヶ原の戦いの際は西軍に属し、細川幽斎の籠もる田辺城を攻略していた。
「しかし、関ヶ原におけるご活躍、お聞きしておりますぞ。絶望的な状況から勝利に導く。まるで、我が兄、信長公のようでござるな。」
「……。」
三郎は思った。
(……やりづらい!)
信包を前に、何とか平常心を保ってはいたが、内心、落ち着かない物であった。
(関ヶ原で信吉とか長次に会った時もそうだったが、実の弟か……。一番長く知っているだけあって、気付かれないか気を付けないとならん……。)
「どうかしたか?」
「い、いえ……何でも……。」
信包とはばったり大阪城内で会ってしまい、どちらも織田の家紋が入った服を着ていたので無視するわけには行かなかった。
「さて、此度の黒田討伐。我等も共に行く事となった。」
「……左様ですか。」
信包は頷く。
「うむ。で、我等は寡兵。良ければ、お主の陣に加えては貰えぬか?」
「……ですが、信長公の弟君を陣に加えるなど恐れ多い。信包様の陣に我々を加えていただくというのは……。」
すると、信包は首を横に振る。
「いや、織田宗家はそちらだ。それに……。」
信包は近付き、耳打ちしてくる。
「織田家の再興の為には、お主が力をつける事が必要であろう?」
「っ!?何処でそれを……。」
すると、信包は笑う。
「これでも信長公の弟。それくらいの観察力はある。お主の反応が答えにもなったしな。……恐らく、三成の件もお主がでっち上げたのだろう。……天下を望むか?三郎。」
「……だとすれば、如何致すのですか。」
すると信包は離れる。
「無論、付いていく!」
「……え?」
雰囲気的に反対するものかと思ったが、どうやら違うらしい。
信包は小声で続ける。
「秀吉が天下を握るのには不満を覚えていた。本来ならば、織田家の天下だったのだ。それを横取りした。……残った織田家の人間では能力的にも、豊臣に変わって天下を取ることは不可能。……儂も諦めていた。」
信包は三郎の肩を掴む。
「だが、お主が変えてくれた。徳川家康が死に、次の天下人が分からなくなった。まだ幼い秀頼では天下は治められん。徳川の跡継ぎもまだ定まっておらん。そんな中で織田家が力をつけつつある。」
「……。」
信包は続ける。
「織田家が、関ヶ原の家康になるのだ。家康がやろうとしたように諸将を味方につけろ。そして、天下を握れ。信長公の生まれ変わりとも言える才を持つお主になら出来る。絶望的な状況から一変させたお主になら。」
「……。」
三郎はその言葉を聞き、一瞬焦った。
自分が信長であるとバレたのかと思ったのだ。
「……流石ですな。」
「うむ。」
「先程の件、承知致しました。共に黒田を討ち果たしましょう。ですが、私はまだまだ若輩の身。色々とご教授頂けると。」
三郎は頭を下げる。
「……信長公の生まれ変わりのようだとは言ったが、やはり違うな。我が兄はそのような事は言わぬか。」
すると、二人の話し合う場に、一人の女性が入ってくる。
「失礼、ここが織田殿の……おや、失礼しました。」
三郎はその顔には見覚えがあった。
「高台院様!いきなり入られては……。」
「……あなたが、三郎殿ですか?」
「……はい。」
高台院。
北政所とも呼ばれ、ねねとも呼ばれる豊臣秀吉の正妻。
こちらも、信長とは面識が深い。
「おお、北政所様。こちら、信長公の生まれ変わりとも言える才を持たれる三郎殿にござるぞ。」
「これは信包様。お邪魔しましたか?」
「いえいえ、用は済みましたので。では、儂はこれで。」
信包は頭を下げるとその場を後にした。
「……信長公の生まれ変わり……。」
「……大叔父上も中々面白い事を仰られますな。某、織田秀信が弟、織田三郎に……。」
「信長様?」
その言葉に三郎は固まる。
「……何故、そのような事を?」
「あ、あぁ、いえすみませぬ。何故か、そのように感じてしまった物で……。」
すると、ねねは目の前に座る。
「少し、お話をしても?」
「……勿論。」