《紗和side》
この間、琴葉に街中でばったり会った。私は思わず琴葉の姿に息を飲んだ。
だって……あまりにもやつれた表情をしていたから。八重桜家が壊れていたことは知っていたがここまで琴葉がやつれているとは思わなかった。
本人は気づいていないみたいだったが、表情や仕草で分かりやすかった。いつもなら私を見つけると嫌味たっぷりな表情をするが、今回は睨むだけ。
心做しか以前見た時よりもやせ細っていたような気がして。余程お父様のことに応えているんだと思ってしまった。
「……はぁ」
「紗和様。いかがなさいました?疲れたなら、少し休憩を取りますけど」
無意識にため息をつくと、私の目の前にお世話係の神谷結愛さんが心配そうに覗き込む。
「あ、い、いえ!全然、疲れてはないんですけど……」
今は縁結びの儀に向けての舞の稽古中。といっても、八重桜家に連れ去られ、お義母様とやった鬼のような稽古とは違う。
私の体調に合わせた稽古スケジュールになっており、一日に二時間程の軽いもの。
縁結びの儀が近づいているというのにこんな軽くていいのだろうか……と思ってしまったが心の中はとても気楽で舞を楽しんでいた。
「そうですか?」
「は、はい!もう一度、通しでお願いします!」
神谷さんは私の返事にあまり納得していないようだった。だけど私は稽古の中断をしてはいけないと立ち上がる。
せっかく重要な役目をいただいたんだもの。
しっかりやり遂げなきゃ。
「……やはり休憩を取りましょう。今の紗和様、全然笑顔になれてません。きっと疲れと悩み事が溜まっていますよね?このまま稽古をして本番前に体調を崩されては元も子もありません。少し休みましょう」
私の反応を見て、ずいっと顔を近づける。有無を言わさない言い方で、私が何かを言う前に神谷さんはお茶の準備に入ってしまった。
その姿に圧倒され、私はその場で立ち尽くす。
……ほとんど歳が変わらないのにしっかりと意見言えるの、すごいな……などと思いながら神谷さんを見ていた。
神谷さんは確か今年で20になると言っていた。私と近い年齢なのにどうしてこうも違うのだろう……。
「はい。準備出来ました。切羽詰まったまま稽古をしても身になりません。一緒にお茶しましょう」
そう言いながら、私を稽古場の隣にある休憩室へと連れていった。
「……心配かけてすみません……。お茶まで入れてもらってありがとうございます」
ここは神谷さんに従った方が良さそうだと思った私は素直にお礼を言った。神谷さんはお茶のセットを机に置くとにっこり微笑む。
その表情はとても可愛らしくて。
何故か胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「いえいえ。さぁさ、どうぞ」
湯のみに暖かい緑茶が注がれ、私に渡される。その暖かさにほっと一息着いたら、少し心が軽くなった。
「私はまだまだ頼りない世話人ですが、紗和様に使えて幸せです」
「……え?」
お茶を飲んでいると突然そんなことを言われ、驚いた。
私に使えて幸せ……?
なんでそんなことを思えるのだろう。
「私は、まだ結婚をしていません。恋がどんなものか分かりません。幸せというのが、正直言ってよく分からないのです」
私の反応を見て話し始める神谷さん。神谷さんの年齢を考えるとどこかに嫁いでもおかしくないはず。
でも、旦那様の屋敷で働いているとなると、婚約はしていないというのは本当のことだろう。
「そう、なんですか……」
私はなんて答えていいかわからず、曖昧な相槌を返した。
「はい。ですが……千隼様と紗和様を見ていたら、とても幸せな気持ちになるんです。2人とも、何度も大きな壁を乗り越えて。それでも愛し合って、幸せな道を歩んでいる。そんなふたりを見ていると幸せを分けて貰っているみたいで。この仕事をしていて良かったなと思うんです」
……大きな、壁……。
神谷さんの話を黙って聞いていたけど。思わぬ言葉達に胸いっぱいになってしまった。
そのせいか自然と涙が溢れ、こぼれ落ちる。私は、こんな嬉しくて幸せなことを生まれて初めて言われた。
こんな私でも、誰かに幸せを分けているということになっているのだろうか。でも、この幸せは旦那様がいてこその幸せ。
旦那様がいなければ、今頃私はどうなっていたか分からない。
「……神谷さん。ありがとうございます」
流れ落ちる涙を拭いながら神谷さんに頭を下げる。私は幸せになってはいけないと思っていた。
目の前にある幸せも信じてはいけないのだと心の中で思っていたのかもしれない。
自分の幸せを信じきれていなかったけど……私は今、この幸せを信じられる気がした。
「お礼を言うのは私の方です。やりがいのある仕事をさせていただいて、ありがとうございます。紗和様……どうか、私にも頼ってください。微力ながら、喜んでお手伝いさせていただきます」
神谷さんは私の手を握りながらそう宣言してくれた。
その言葉が頼もしくて、私は何度も何度も頷く。
「ありがとうございます」
胸いっぱいになった私はお礼を言うことしか出来なかった。こんなことを言われて、嬉しくないわけがない。
突然きた私を受け入れ、身の回りの事を任せられて。私は、本当に恵まれていると思えた。神谷さんに琴葉のことを話そうかと思ったけど今日はやめておいた。
上手く言葉に出来る自信がなかったし、今はこの話は重たいと思ってしまったから。
「神谷さん、これからもよろしくお願いいたします」
歳の近い友達ができたような気分になった。これからこの先も神谷さんと過ごすことが出来れば嬉しいなと思った。
***
その翌日。
私は旦那様に話があるからと書斎に呼び出された。呼び出しなんて珍しいなと思いながら書斎の部屋のドアをノックする。
いつも話なら私の部屋か食事の時などが多い。ここ最近はお互い忙しくしており、あまり話すことはなかった。
久しぶりに旦那様と向き合って話が出来る。嬉しいやら恥ずかしいやらで緊張してきた。
「旦那様。紗和です」
ドアをノックしたあと名前を名乗る。私だったら、名乗らずに入ってもいいと言われていたがそれはなんか嫌だったのでいつも名乗っていた。
しばらくするとドアが開き、私の大好きな旦那様が出迎えた。
「いらっしゃい。わざわざ悪いな、書斎まで来てもらって」
「いえ。ちょうどお稽古も一段落したので」
久しぶりに見た旦那様の笑顔に胸がぎゅっと締め付けられた。
それと同時に今まで感じたことの無い“好き”という気持ちが溢れ出す。
「……ん?どうした?」
旦那様を見つめたまま突っ立っている私を見て不思議そうに首を傾げている。
「な、なんでもありません!は、話というのはなんでしょうか!?」
焦りすぎて早口でまくし立ててしまった。旦那様と話し合いをするのは未だに慣れない。この前は何ともなかったのに……。
「そんなに焦るな。中に入ってまずはくつろげ」
そんな私を見て笑いをこらえる旦那様。私は旦那様に促され、ソファに座った。
恥ずかしくて今にも消えてしまいたい。顔を赤くしながら、私は黙り込んでしまった。
「……紗和。顔を上げてくれ。今日の話というのは縁結びの儀についての変更とお前の“本当の母親”についてだ」
「……え?私の、本当の……?」
旦那様に単刀直入に言われてほぼ反射的に顔を上げる。縁結びの儀についてならわかるが、なんで今更私の“本当の母親”の話が出るのだろうか。
「そうだ。まずは縁結びの儀について。話が長くなるから、落ち着いて聞いて欲しい」
驚く私を他所に旦那様は落ち着いた表情で話し始める。
私はどう反応していいか分からず、顔を上げたまま固まった。
落ち着いて聞いて欲しいと言われても……。
「実はこの前、八重桜当主に会ってきた」
「え!?旦那様がお父様に会ったのですか!?」
最初から驚いた。落ち着いて聞いて欲しいと言われたがそれは無理だと悟った。
いつの間にか旦那様はお父様に会っていた。おそらくこの間琴葉に会って、私が八重桜家の事の相談をしたから。
まさかこんな早々に八重桜家に行くとは思わなかったけど……旦那様の行動が早くて、目が点になる。
お、恐るべし、旦那様。
「そうだ。縁結びの儀について話をつけてきた。このまま八重桜家を放っておくこともできないしな。お前も悩んでいただろう?」
……旦那様。
私の悩みを無くそうと、動いてくださったの……?
本当なら私が動かなきゃいけないのに。結局、旦那様に任せっぱなしになってしまった。
「そうですが……申し訳ありません。旦那様の負担になるようなことをさせてしまって……」
ただでさえ旦那様の仕事量は多いはずなのに私のせいで負担を増やしてしまった。
「気にするな。前に言っただろう?私にもっと頼れと。甘えろと。お前から相談を受けて勝手に動いたのは私だ。気にする必要無い」
謝る私の頭を優しく撫でる旦那様。
心做しか旦那様は嬉しそうな表情をしているように見えた。
この言葉を信じてもいいの?
「ありがとうございます」
「ああ。……で、話を戻すが。縁結びの儀について急遽琴葉も参加することになった。話が二転三転してしまって申し訳ない。このことは皇帝様も了承済みだ」
「琴葉も参加、ですか……?」
旦那様は私をどこまで驚かせれば気が済むのだろう。縁結びの儀に琴葉も参加となれば確かにお父様は文句は言わないだろう。
私もいるし、琴葉もいれば確実にその儀式は成功すると思われているのだから。
そしてそれが全国に広まれば八重桜家の名誉は回復する。
「そうだ。紗和と共に舞をし、成功を収めればあの当主も落ち着くだろう。この方法が確実だと思ったからな」
「皇帝様は、本当にそれでいいと仰ったのですか?」
旦那様の言葉を疑う訳じゃないが少し不安だった。琴葉の事を外したあの皇帝様が素直に賛成するとは思えない。
「確かに賛成された。ただ、八重桜当主にひとつの条件をつけ、それを受け入れてもらったがな」
「条件?」
どういう条件なのだろうか。
あのお父様が受け入れる条件って……。
「舞が成功した暁には八重桜当主は引退し、琴葉に婿養子をつけること。それを条件にした」
「お父様が引退……ですか?」
旦那様は私をまっすぐ見て話してくれた。まさかの条件すぎてなんて話したらいいか分からない。
お父様が引退なんて……考えたこともなかった。
「せっかく八重桜家の名誉を回復させても当主が変わらなければ意味がない。きっとあの当主も薄々考えていたのだろう。この条件は反論せず静かに受け入れていた」
黙って聞いていると信じられない言葉達が出てきて、もう私は何も言えなかった。
お父様が納得しているなら……私が口出しすることじゃないわね。
「そうですか。本人が納得してれば、私は何も言いません。これが琴葉とお義母さまのためになるなら、受け入れます」
壊れた八重桜家を直すなら、この方法しかないだろう。
旦那様に任せっきりになってしまったが……。
いい方向に持って行けると思う。
「そうか。紗和に相談もなしに決めて悪かったな。琴葉も今稽古をつけてもらっている。2人で、縁結びの儀を楽しむといい」
「はい。本当に、何もかもありがとうございます」
もう私は旦那様には頭が上がらない。何もかも手配してもらって。これからは、しっかりと琴葉と向き合おうと決めた。
「まぁまぁ、私は軽く手伝いをしたまでだ。これからの事は琴葉に任せればいい。紗和は自分の幸せのことだけ考えろ」
……私は、もう幸せでいっぱいです。
旦那様に出会えてから、自分の人生の運を使い果たしたと思うほど。
私は恵まれてしまったのです。
「……私はもう幸せでいっぱいですよ、旦那様」
気づいたら私はそう言って涙を流していた。旦那様に伝えたいことはたくさんあるのに言葉が詰まって上手く出てこない。
こんな時に言葉が出ないなんて……。
なんて思ったがこの時間でさえ愛おしい。
「そうか。だが、このくらいで満足されたら困る。紗和はもっともっと幸せにならねばな。お前の本当の母親もそれを願っているのだから」
「……え?」
旦那様は私の涙を指で脱ぐうと意味深な言い方をされた。そういえば、もうひとつの話って確か、私の本当の母親について。
旦那様がどうして亡くなったお母様の話をしようとしているのだろう。
旦那様は私の顔を見ると後ろにあった古いアルバムのようなものを出した。
「この写真の女性……紗和の母親だろう?皇帝様からいただいた写真だ」
そう言って旦那様は1ページ、アルバムをめくる。するとそこには私とそっくりな“お母様”の写真があった。
驚きすぎて声が出ないというのはこのことだろう。
「そう、です。この方は私のお母様です。でも、なぜお母様の写真が皇帝様の元に」
お母様の写真は片手で数える程しか見たことがなかった。
しかもそれは全て私が産まれてからの写真のみ。こんな風に若い頃のお母様の写真は見たことがなかった。
写真の中のお母様はとても美しく、輝いて見えて。
とても生き生きとした表情をしていた。
「それはだな……順を追って説明してやる」
少し悩みながら旦那様は皇帝様から聞いた話を事細かに説明してくれた。その話はどれも聞いたことがないような話ばかりで本当かどうか疑ってしまった。
お母様が皇帝様の元婚約候補だったけどお父様に嫁いで縁結びの儀を支えていたなんて……。
話の内容が信じられなくて何度も何度も写真と旦那様を交互に見た。
だけど見れば見るほど懐かしいこの写真は紛れもなくお母様のもの。どうやら旦那様の話は本当らしい。
「少し前に話を聞いたんだが、正直紗和に話すかどうか迷った。だがしかし……家族のために悩む紗和を見て話さないという選択肢はいつの間にかなくなっていたな」
私の顔を見て柔らかに微笑む旦那様。大きな手が私の頭の上に乗り、優しく撫でた。
「こんな貴重な話……教えていただきありがとうございます。久しぶりにお母様の話が出来て嬉しかったです」
自分ひとりだけじゃ到底たどり着けなかった貴重な話。旦那様と出会って、愛し合えたからこそこの話が聞けた。
私は……なんて幸せなのだろう。
何度も思っても足りないほど私は旦那様の愛で溢れていた。
「そうか。紗和を産んでくれた母親に感謝せねばな。生まれてきてくれてありがとう」
旦那様はそう言うと私のくちびるに優しい口付けを落とした。
その口付けは今までの何倍も甘く、甘く……とろけそうな程優しいもの。
私は……この幸せを信じてもいいのだと改めて思えた瞬間でもあった。
「こちらこそありがとうございます。こんな私を見つけてくれた、旦那様のお父様に感謝ですね」
こんな素敵な出会いがあるだろうか。自分の幸せを諦めていた私に突然現れた旦那様は。
とても優しく、一途に愛してくれる御方だった。
「ああ。そうだな」
流れる穏やかな時間は、いつもあっという間にすぎていく。旦那様は笑いながら写真に視線を落としていた。
***
「お義姉様。私の足を引っ張らないでよ」
時は流れ、縁結びの儀当日。
朝から琴葉と打ち合わせやら最終確認の作業をしていた。琴葉は以前見た時よりも表情に輝きが戻って見えていた。
旦那様の話によると琴葉が縁結びの儀に参加することが決まってからお父様の暴力等は落ち着いたらしい。
そのこともあって、琴葉は以前のような態度を取り戻していた。
私を見ながら嫌味ったらしく笑う琴葉を見てほっとする私は少しおかしいのかもしれない。
「わかってる。琴葉の迷惑にならないようにやりきってみせるから」
この縁結びの儀は私の異能によって成功するかどうかがかかっている。それと、八重桜家の今後についても。
琴葉は少しばかり異能が使えるが皇帝様から力を出さないよう命令が下されていた。
よって、私は少しの失敗も許されない。高まる緊張の中、手の震えが止まらなかった。こんな大きな舞台で踊ったことはない。
さらに、縁結びの儀が終わったあとは皇帝様のご子息の祝いも兼ねて園遊会も行われる。
そこではただ打ち上げのように楽しめばいいと言われていたけど……。
緊張する気持ちは無くならなかった。期待されているからこそ怖い。
「……お義姉様。リボンが曲がっているわ」
「えっ……あ、ありがとう」
琴葉は震える私を見て、ため息をつきながら巫女の衣装を直してくれた。いつもはしないミスをしてしまい、さらに緊張してしまう。
旦那様から贈られた巫女の衣装はキラキラと輝いているのに私の心は全然輝いていない。
「しっかりしなさい。お義姉様なら、大丈夫よ。ほら、お迎え来てる」
緊張で下を向いていたら、琴葉が急に私の顔を上げた。かと思ったら部屋の襖の奥に視線を動かされた。
そこには心配そうに見つめる旦那様がいつの間にかいて。
目を見開いた。
「だ、旦那様!?なんでここに……。もう会場に入っていたのでは……?」
旦那様は今日一日皇帝様の付き人をすることになっていた。いつもとは少し違う旦那様の格好に一瞬、緊張が吹き飛びそうになる。
「まぁ、な。少し凪砂に任せてきた。お前のことが心配だったから、儀式が始まる前に顔を見ておきたくて」
そう言って旦那様はちらっと琴葉の方に視線をやる。私も釣られるようにして見ると琴葉は精神統一のようなことをしていた。
旦那様はきっと私と琴葉の関係が気になって見に来たのだろう。
「ありがとうございます。ですが、私は大丈夫です」
これ以上旦那様に心配はかけさせられないと平気な表情を装った。
先程まで緊張で死にそうだったけど旦那様が見えてから少し落ち着いたのは事実だから、嘘は言っていない。
私は震える手を隠すように後ろに持っていった。
「……嘘をつくな。お前の手、かなり冷たいぞ。緊張で表情も強ばってる」
「ひぇっ!旦那様!?」
緊張を隠していたつもりだったけど旦那様には隠し通すのは無理だった。
緊張していた手はあっさりと捕まり、旦那様に握られる。私の冷たい手に旦那様の暖かい手が重なると。
私の頬に口付けを落とした。
「緊張するのはわかるが、紗和ならきっと大丈夫だ。縁結びの儀が終わったら……2人でゆっくりしよう。約束だ」
「……はい!自分の力を信じて、儀式に挑みます」
旦那様が私の手を握るとだんだんと温かさを取り戻していく。
旦那様が信じてくれるなら私は大丈夫。そう何度も自分に言い聞かせ、旦那様と別れた。
今日一日を乗り越えれば、この先旦那様ともっと幸せな時間が過ごせる。
「いちゃいちゃは終わったかしら?」
「こ、琴葉!?いつの間に!」
旦那様の後ろ姿を見送っていると横から琴葉の声が聞こえ、驚いてしまう。
「何よ、そこまで驚かなくてもいいでしょう?そろそろ時間よ。行きましょう」
心做しか琴葉から冷ややかな目で見られた。大事な縁結びの儀の前にいちゃつくなんて……と思ってるのかもしれない。
琴葉の思うことは最もだと思った。私は小さくなりながら琴葉の後ろをついて行く。いよいよ、縁結びの儀の本番を迎える。
今まで色んなことがあって、ここまでたどり着くまで大変だった。頼もしくなった琴葉の背中を見ながら、深呼吸をすると私はまっすぐと前を向いた。
緊張する気持ちは変わらないけどもう前の私とは違う。
愛を知らなかった私とは違うのだ。
私のことを信じて待っててくれる人達の期待に応えたい。
何より……旦那様に、成長した姿を見せたい。
こんな私を見つけて愛してくれた旦那様。どうか……これからもそばにいられますように。縁結びの儀の会場に近づくに連れ、ザワザワと騒がしい空気が流れてくる。
この儀式は皇帝様の家族以外に国の偉い方や頂点にたつ方など様々な人が招待されていた。八重桜家の異能者を人目見ようと全国から集まってくるこの儀式。
「お義姉様。行くわよ」
私は前を見据えた琴葉とともに、舞台にと上がっていった。