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第19話 「園遊会1」

《琴葉side》


 一時期、どうなる事かと思った縁結びの儀が無事に終わり、次の舞台の準備が慌ただしく始まった。


 それはご子息様の婚約をお祝いするための園遊会。


 皇帝様この結果にあまり納得していないようだけど意思の強いご子息様に勝てることができず、このまま大人しく受け入れていた。


 「琴葉。この後の園遊会なんだけど一緒に出ない?」


 堅苦しい巫女の衣装から、自分の着慣れた着物へと着替え終わったあと。


 お義姉様に園遊会の出席を誘われた。


 少し遠慮しながらも私を誘うお義姉様はもう前のおどおどしたお義姉様とは違う。その姿はとても大きく見えて、成長していた。


 「ごめんなさい。もう戻らないと。縁結びの儀が終わったら八重桜家に戻るって皇帝様と華月千隼との約束なのよ」


 私はお義姉様からの誘いを断った。最初から園遊会には出ない約束で縁結びの儀で巫女の舞を披露した。


 だから、これ以上皇帝様から叱責を受ける前に帰らないといけない。


 まぁ、元々こういう気位高い感じの集まりは苦手だったからちょうど良かったけど。


 はぁ、とため息をつきながら片付けを進める。


 私が断った瞬間、お義姉様が明らかに落ち込んだのを感じた。お義姉様って、なんで今までいじめてきた妹をここまで許せるのかしら。


 とことんお人好し過ぎて逆にこっちが呆れてしまう。


 「そうなのね。……今度、また実家の方に顔を出すから、お父様とお義母様によろしく言っておいてね」


 皇帝様絡みの約束だとこれ以上誘えないと思ったのかしょんぼりしながらそう話すお義姉様。


 ……お父様、か。


 これからいったい八重桜家はどうなってしまうのだろう。


 お父様は私がこの縁結びの儀をやり遂げたあと当主を引退し、私の婚約者と交代することになっている。


 そして、私は八重桜家の当主を支える妻となり、共に成長していかないといけない。


 今まで女学校に行ったり、たくさんの習い事を経験してしてきたけど本当に私は、大丈夫なのかしら。


 ーコンコン。


 お義姉様と話をしているとふと部屋の扉がなった。


 「は、はい!どうぞ」


 それにびっくりしながらもお義姉様は返事をする。いったい誰だろう、と2人で顔を見合わせた。


 「お疲れのところすみません。おふたりに挨拶したいという方が見えてます」


 扉の隙間から顔を覗かせたのは華月千隼の側近である風神凪砂だった。


 風神凪砂は私と目が合うと明らかに嫌な表情をし視線をそらす。その行動に思わず苦笑いしてしまう私。


 そんな行動を取られてもしょうがないとは思っているけど。


 あからさま過ぎない?


 「……風神さん!いったいどなたです?」


 そんな風神凪砂の挙動不審な動きに気づいていないのかお義姉様はいつもの笑顔を見せながら聞いた。


 こういう鈍感なところたまに羨ましいと思ってしまうのはおかしいのかしら。


 「紗和様!先程はお疲れ様でした!そしてありがとうございます」


 風神凪砂が少し身体をずらすとその隙間から出てきたのは神谷結愛だった。


 神谷結愛は満面の幸せそうな笑顔を見せながらお義姉様に飛びつく勢いで話しかけていた。


 「か、神谷さん!ありがとうございます。神谷さんの稽古のおかげで無事縁結びの儀が乗り切れました。それとご子息様との婚約、おめでとうございます」


 そんな神谷結愛をお義姉様は笑顔で受け止め祝いの言葉を放つ。もう完全に2人は信用仕切っていていろいろ全開だ。


 お義姉様のお世話係って聞いていたけど……どうやらかなりお茶目な人らしい。


 「そんな……。あの場で紗和様と琴葉様が言って下さらなければこんな幸せな未来はなかったと思います。琴葉様も本当にありがとうございます。お疲れ様でした」


 完全に蚊帳の外の私にいきなり話を振られ、驚いた。まさかこんなふうに感謝されるなんて思ってなくて。


 何を言ったらいいか分からず、視線をキョロキョロと動かすことしか出来ない。


 だけどそんな私でも幸せそうに笑う表情を隠すことはしなかった。


 人に感謝されることがこんなにも嬉しくて幸せだなんて思ってなかった。


 今まではただ見返りを求めて、何も無ければ責めるだけの人生だった。


 「私はほとんど何もしてないわ。雰囲気を少し感じ取っただけ。お義姉様のおかげね」


 「……琴葉」


 自分の思ったことを素直に口にしただけなのに何故かお義姉様は驚いたような表情をしている。


 いつもなら全ての手柄を自分のものにしていた私。お義姉様に譲るなんて今までしなかったから、驚いてるのかしら。


 なんて思いながらふたりを見つめた。


 「それでも、お二人の力で私の人生は大きく変わりました。感謝してもしきれません。おふたりは、この後の園遊会に参加されますよね?」


 神谷結愛はなんの曇りもない瞳を輝かせ私とお義姉様を見つめる。こんなにも純粋で可愛らしい人を今まで見たことあるだろうか。


 私はその真っ直ぐさに胸がぎゅっと苦しくなった。


 「私は旦那様と参加します。ただ、琴葉は……」


 神谷結愛の誘いに笑顔で答えるお義姉様。私のことを申し訳なさそうに断ろうとしていた。


 「申し訳ありません。これは皇帝様との約束でもありますので。私は参加を辞退させていただきます」


 本当は少し……ほんの少しだけ参加してみたいという気持ちはあった。


 でも、これ以上八重桜家を壊す訳にはいかない。この約束を守り、八重桜家が生まれ変わるまで。


 きっと皇帝様は私がした行動を許さないだろう。


 「そうですか……。琴葉様が参加されないのは残念です」


 参加を断った瞬間、明らかに表情を曇らせた神谷結愛。そんなに私の参加断りが残念だったのか。


 「すみません。それでは、私はこれで失礼します」


 荷物をまとめ終わり、帰ろうと頭を下げた。私はここにいてはいけない人間。


 それを許されないことを今までたくさんしてきたのだから当然だ。壊れた八重桜家は必ず私が元に戻してみせる。


 ……いや、それ以上のことも成し遂げてみせる。


 幸せそうに笑うお義姉様と神谷結愛を見て改めて心の中でそう誓う。


「……八重桜琴葉。もう帰るのか?」


 帰ろうと扉を開けた瞬間。


 誰かに名前を呼ばれ、はっと顔を上げる。だけど顔を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。


 だってそこにいたのは……ご子息様だったから。


 「ご、ご子息様……!申し訳ございません!私、よそ見していて……!」


 思わぬ登場人物に思い切り頭を下げる。私って本当に周りを見ないで動いているわね。


 まさかご子息様とぶつかりそうになるなんて。これ以上失態を繰り返してはいけないのに。


 私は……何をやっているのだろう。


 「いや、構わない。私も声をかけるのが遅くなった。すまない」


 勢いよく頭を下げたものの、あっさりと謝られ、驚く私。


 まさかご子息様から謝られるとは思わなかった。


 「あら、どうしたんですか?園遊会までまだ時間はあるはずですが」


 ご子息様をみつけ、嬉しそうに声をかけるのは神谷結愛。私はそんなことを気にする余裕はなく、ただその場で立ち尽くしていた。


 どうしよう、と気持ちばかりが焦る。


 「まぁ、少し八重桜琴葉と紗和に話があってな。今日は本当に感謝する。結愛とこうして結ばれることが出来たのは2人のおかげだ。改めて礼を言う」


 「そ、そんな……!頭をあげてください」


 思わぬ感謝の言葉に私とお義姉様は慌てふためく。こうしてご子息様と面と向かって話すのは初めてで。


 何を話したらいいか分からない。


 というか、私が話をしていい人では無い。


 「琴葉。お前と八重桜家が今までやってきた行いは許すことは出来ない。……だが、今日の舞を見て、お前の覚悟は届いたぞ。今日の恩もある。八重桜家のことは色んな奴らに宣伝しておこうじゃないか」


 「……い、いいんですか……?」


 まさかお褒めのお言葉をもらえると思っていなかった。ご子息様がそんなふうにして私を見ていたなんて。


 なんだか自分のことを認めてくれたみたいで、嬉しくて嬉しくてしょうがない。なんだか目頭が熱くなり、涙が溢れてくる。


 「琴葉。良かったね」


 「ありがとう……ありがとうございます」


 止まらぬ涙を拭いながら深く深く頭を下げる。


 ご子息様の寛大な心に感謝が止まらない。こんな私を認めてくださるなんて。


 未来は、暗いものばかりじゃないと思えた。


 「結愛。そろそろ私たちは会場に向かおう。取っておきの衣装を用意させた。今日は思う存分、楽しむといい。紗和も、千隼が待っているぞ」


 頭を下げた私を見て、満足そうに頷いたあと。神谷結愛の手を取り、この場を去っていった。


 取り残された私とお義姉様は何故かお互いに涙を流し泣きじゃくる。


 お義姉様にはあまり関係ない話だったのに。


 どうしてそこまで泣けるのだろう。私はきっと今日のことを忘れない。


 ……いや、忘れることはないだろう。


 「……琴葉、これからも未来は明るいから。苦しいことばかりじゃないから。私も……琴葉の未来を支えるからね」


 何度も何度も私の背中をさすり、そう言ってくれたお義姉様。


 もう……胸がいっぱいで苦しかった。


 こうして、波乱たっぷりだった縁結びの儀は幕を閉じた。


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