目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第20話 「園遊会2」

《千隼side》


 「それでは縁結びの儀が無事に終わりましたので園遊会に移りたいと思います」


 先程まで騒がしかった解除が静まり、そんな司会者の声が聞こえた。


 無事に終わったかどうかさておき、ご子息様が納得したなら、このまま園遊会を進めるしか無さそうだ。


 皇帝様は相変わらずこの結果に納得していないようだったが紗和と琴葉に釘を刺され、大きく反論はしなかった。


 最初こそご子息様に向かってなにか怒鳴ったり拒否することをしていたが、選ばれた神谷結愛とご子息様の気持ちが本物だということに気づいたらしい。


 それ以上は特に何も言わず押し黙っていた。


 この後も園遊会があったり婚約の儀式があったりと忙しいためそんな暇もないだろう。


 私はとりあえず縁結びの儀が終わり、ほっとした。紗和と琴葉はしっかりと運命の相手を導き出し、ご子息様を納得させた。


 これ以上の最高の仕事はないだろう。


 今すぐに紗和に会いに行き、お疲れ様と抱きしめたい。


 だが、今日は皇帝様の側近という仕事があるためそうそうに会いにはいけない。


 ここから去った後何事も無ければいいのだが。


 それだけが不安だった。


 「……おい、千隼」


 「はい。なんでございましょう」


 皇帝様の隣でぼんやりと紗和のことを考えていたら名前を呼ばれた。


さすがにしっかりしないといけないと思った私は背筋を伸ばし、皇帝様と視線を合わせる。


 「お前の婚約者の力、信じても良いのだな?」


 「……信じて良いと思います」


 一瞬、何を聞かれたのか分からなかったがすぐに紗和のことだと分かり、答えた。


 紗和の力は本物だ。この私が証明する。


 紗和の力もあってこそ、私たちは出会えた。


 「そうか。私の息子が、あんなに幸せそうに笑うなら本物なんだろうな。あんな顔、見たことない」


 ポツリポツリと皇帝様は話し出す。ずっとご子息様を家から出したことがなかった皇帝様は。


 ご子息様の本当の気持ちに気づけなかったのだろう。


 ちらっと皇帝様と同じところに視線を向けると、そこには神谷結愛とご子息様が幸せそうに話して、笑っている姿があった。


 確かに私もあんな表情を見たことが無い。


 紗和が儀式です神谷結愛の名前を出さなければ幸せそうに笑う表情を見ることは出来なかっただろう。


 「そうですね。ここは、ご子息様の思うままに物事を進めて見てはいかがでしょうか。私たちが思っているより、いい方向に進むかもしれませんよ」


 皇帝様にやんわりとそう伝えてみる。今まで自由な道などなかったご子息様。


 そろそろ国の仕事や皇帝様に関することなど少しづつでいいから任せてみてもいいのかもしれない。


 ご子息様は私と皇帝様が思っているよりも逞しく、賢く、そして優しく育っていると思えるのだから。


 「……そうか。お前の言うことも一理あるな。そろそろ息子に色んな仕事を与えてみるか」


 親心としては複雑な部分もあると思うが子供の成長は早いもの。私もそっと頷き、前を見た。


 「ところで、お前の婚約者披露はしなくて良いのか?このまま園遊会に入ってしまうぞ?」


 話が一段落した頃。


 皇帝様に紗和との婚約披露のことを言われ、はっとする。


 「今日はやめときます。紗和もきっと疲れているでしょうし……。婚約は私の書斎でひっそりと行います」


 本当はこの会場で婚約披露するつもりだったがそれはやめた。色んな出来事が重なり、紗和も疲れているだろう。


 そもそも目立つことが苦手な紗和にとってはあまりいい行いとは言えない。


 今回ばかりは私も身を引くことにした。


 「そうなのか。それは残念だな。……そろそろ交代の時間だ。婚約者の元へ行くといい」


 「……え?交代までもう少しありますが」


 苦笑いする私に驚くような言葉をかける皇帝様。


 もう少ししたら凪砂と交代なのはわかるが、少し時間が早い。


 「構わん。お前の婚約者も寂しがっているだろう。ほら、行っていいと言ってるんだ。ここは素直に甘えんか」


 ぶっきらぼうに話す皇帝様は照れくさそうにそっぽをむく。私はまた驚いたがここまで言われたなら甘える他ないだろう。


 「ありがとうございます。それでは……お言葉に甘えて、行ってきます」


 「最初からそうしろ。全く、千隼は本当に甘えるのが下手だな」


 お辞儀をしてこの場を去る前に皇帝様はブツブツとなにかを言っていたが聞こえない振りをした。


 正直、私はもう紗和に会いたくてしょうがなかった。


 皇帝様からの意外な提案だったが、私としてはありがたい。


 「……紗和、今行くからな」


 誰もいない道でポツリと独り言を話す私。紗和に会いたくていつの間にか早歩きになっていた。


 おそらく紗和はまだ控え室にいるだろう。


 そこに行けば会える。


 琴葉は園遊会に出ない約束で縁結びの儀に参加したのだからもう帰っているだろう。


 「紗和、いるか?」


 誰にも会うことなく紗和のいるであろう控え室にたどり着く。


 私は迷いなく扉を開けた。


 「旦那様?!ど、どうしたんですか?」


 扉を開けるとそこには予想通り紗和が着替えを終えた状態で立っていた。


 紗和は驚いたように目を丸くし私を見つめる。その姿がとても愛おしくて、我慢できなくなった私は勢いよく抱きしめた。


 「ひぇっ?!旦那様?!」


 「紗和。お疲れ様」


 驚く紗和をよそに声をかけながら強く、だけど優しく抱きしめる。


 腕の中にすっぽり収まる紗和はモゾモゾと恥ずかしそうに動いていた。


 「あ、ありがとうございます。旦那様……あの、お仕事の方は……」


 私の突然の行動に追いつけないのか途切れ途切れになりながら聞いてくる。


 自分の方が大きなひと仕事を終えたというのに、人の仕事のことを気にして。紗和らしいなと思った。


 「皇帝様から言われてここに来たのだ。仕事は交代の時間だし心配しなくてもいい。紗和に会いたくてしょうがなかった。紗和、縁結びの儀をよくやりきったな。よく、頑張ったな」


 腕の中で固まる紗和の頭を撫でながらそう褒めた。あの花嫁候補の中から違う人物を選ぶのはかなり勇気がいっただろう。


 それを琴葉とやり遂げるなんて。


 私は皇帝様の隣でただ見ていることしか出来なかった。


 「そ、そんな……。私はただ役目を果たしただけです。どんな結果になろうと運命を見定めるのが私の仕事ですから」


 そう言った紗和は顔は見えないがとても清々しい言い方をしていた。


 私も驚くほど紗和は落ち着いていて、大きく成長していた。やはり、この縁結びの儀の仕事を紗和に任せて良かった。


 そう、心の底から思った。


 「そうか。ありがとう、紗和」


 「いえ。ですが……少し、怖かったところもありました」


 そっと紗和を引き離しながら顔を見ると。ポツリと本音をこぼす紗和。


 私はそう言ってくれたことに何故かほっとして。気づいたら紗和に口付けをしていた。


 「……んんっ。だ、んな様……?」


 紗和のくちびるを欲しがるように、少し強めな口付けを交わすと。


 とろけるような、甘い表情の紗和が目の前にいた。


 「私はお前と婚約できて毎日が幸せだ。きっとあの二人もそう思うだろう。怖い思いをしながら、縁結びの儀を行った自分の花嫁は、最高に美しくて、優しくて、可愛い。もう終わったんだ。思う存分私に甘えるといい」 


 口付けを何度も何度も交わし、愛を確かめるように言葉を並べる。


 もし、私が紗和と出会っていなければ一生誰かに愛を誓ったり、幸せにしたいと思えなかっただろう。


 そんな私を紗和は出会うように導き、幸せにしたのだ。


 「旦那様……ありがとうございます。もう私は十分幸せですよ」


 甘い雰囲気が部屋いっぱいに広がり紗和も幸せそうに笑う。


 この部屋に私と紗和以外誰も居なくて良かった。


 そう思うほど紗和の笑顔はとても可愛らしい。


 「そうか。だが紗和はまだ幸せにならなければならないぞ。私はずっとお前の傍にいるからな」


 ここで満足されちゃあ困る。


 私の紗和への愛はこれで終わらない。もっともっとと欲しがるし、尽くすだろう。今の愛を知ってしまった私ならわかる。


 「……そろそろ戻るか。紗和も園遊会に参加するだろう?まだ始まったばかりだ。幸せな2人を見届けようじゃないか」


 「そうですね。私にも責任はありますから。琴葉は残念ながら帰ってしまいましたけど」


 そろそろ戻らねばならないなと思った私は名残惜しくも紗和から離れる。


 準備は終わったであろう紗和を園遊会にと誘うと琴葉の話をされ、一瞬身体が硬直する。  


 そういえば紗和には琴葉の件は話していなかった。


 縁結びの儀に参加するための条件を。


 だが……琴葉から聞いたのだろう。


 それ以上は何も言うことなく口を閉じた。


 「そうか。悪かった。当日まで琴葉の件を黙っていて。前日辺りにお前に話すべきだったな」


 いくら皇帝様からの命令だったとしても家族のことを話せなかったのは少し罪悪感がある。


 琴葉も改心したみたいだが、まだ油断はできない。そう考えるのが皇帝様と私の仕事。


 人を常に疑うのも良くないとわかっているが仕事上仕方ない。


 「いえ。それは全然構いません。今まで八重桜家がやってきた事実は消えないでしょうし、警戒されるのは当然のことです」


 苦笑いしながら紗和はどこか遠い目をしていた。わかってはいたが紗和にそういう表情をされると心が痛む。


 「琴葉からはちゃんと聞きましたので私は納得してますよ。……園遊会、戻りましょうか」


 私がなんて声をかけたらいいか分からないまま紗和は私の腕を引いて部屋から出ようとする。


 その姿は頼もしく見えたけど寂しくも見えた。これから訪れる未来への不安、期待が垣間見える。


 私は、紗和の夫としてどう支えたらいいのだろう。どんな選択が正解なのだろう。


 「紗和。愛しているぞ」


 本人に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でポツリとつぶやく。今の私はこれくらいしか寄り添うことができない。


 この大きな儀式が終わったら。もっと二人でゆっくりと過ごそう。


 そしてたくさん話をしよう。


 そんなことを考えながら園遊会の席でぼんやりと紗和を見つめた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?