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第179話 イーグルと茜

【22:30】

「それじゃ視聴者(アミーゴ)のみんな!…と、初めてアミの配信を見に来てくれた皆さん。今夜はこの辺にしようと思います。乙アミーゴ♪」


✱「乙アミーゴ」

✱「チャンネル登録したよ」

✱「また来るよ」

✱「楽しかった」

✱「お疲れ様」

✱「おつアミ」



「くはぁ…つ、疲れたよぉ…」


ロミータを除いて、初対面(オリビアも除く)の人たち数人と約90分話し続けたのは亜沙美にとって初めての体験だった。まだまだコミュ障気味の彼女にとって、それがどれだけツライ事だったのかは、机に突っ伏している姿を見れば一目瞭然だ


「ガチャ」

「お疲れ様亜沙美!」


「ロミータちゃ〜ん…私、頑張ったよぉぉぉ…」


「ウンウン。良く頑張ったわね。はい、ケーキと紅茶を用意したわ。取り敢えずひと息入れましょう」


亜沙美の配信終了を見守ってから自分の配信を閉じて、1階に降りて用意しておいたケーキとペットボトルの紅茶を持ってきたロミータ


……………………………………………


「美味しかったわね♪改めておめでとう亜沙美」


「うん!ありがとうロミータちゃん♪私、無事に配信終了できたよぉ…」


「ん?ソレだけじゃないわよ?チャンネル登録2万人突破おめでとう!なのよ?」


「(◍꒪꒳꒪◍)えっ!嘘?私、登録者2万人超えてたの?ええっ!!!」


5月から配信活動を始めた亜沙美。想定外のラッキーなどがあり、個人勢としては好調に半年で12000人に達していた亜沙美


平均して見て1ヶ月で2000人ずつ登録者を増やしていたのだが…今夜のコラボ配信だけで、イッキに8000人の登録者が増えていたのだから驚いて当然だろう


VTuber業界で5番手に位置している【コンサート・プリンセス】だが、ベテランライバー達とのコラボ効果で沢山の人がアミの配信を見に来てくれていたので、登録者がイッキに増えた事に気が付いていなかった亜沙美は、その事を教えられて凄く驚いていた


「呆れた…オリビアさん達とのコラボに緊張し過ぎて、自分のチャンネル登録者が爆伸びしてた事に気が付かなかったのね」


「えへへ…半分頭の中真っ白だったから…全然気が付いてなかったよ(笑)」


ケーキと紅茶を食べ終えた亜沙美とロミータは、手短に風呂を済ませようとした。明日からまた学校に行かなくてはならないからだ


だが、何気なくスマホを手に取ったロミータが食い入るようにその画面を見ていた


「どうかしたのロミータちゃん?そんなにジックリ見ちゃってさ?」


「服部さんからメール来てたわ…なになに…亜沙美殿チャンネル登録2万人突破おめでとうございます。それと、かねてから頼まれていた防音室への改装工事の段取りがつきましたので、今週末の土日にお邪魔させてください…だってさ」


どうやら1年先輩で、政府のVIPたちを相手に闇の仕事を請け負っている服部からのメールのようだが…


「うん、それは全然良いし、むしろ有り難いんだけど…どうしてロミータちゃん、そんな難しい顔をしてるのぉ?」


「2万人突破のお祝いに彼の地元の伊賀市にある温泉旅館を予約したから、是非ともご利用ください。だってさ…」


「ほえぇ!ソレは嬉しいねぇ♪でも、ソレじゃ難しい顔はしないよね?何かあるの?」


「2人が温泉旅行に出掛けている間に工事は終わらせておきますが、その旅行に妹の茜も同行させて欲しいでござる。って…」


「妹?…良いんじゃないかなぁ?」


つまり今度の土日、服部が手配してくれた温泉旅行に出掛けて留守にしている間に、カラオケ配信が出来る防音工事をしてくれるらしいのだが、彼の妹の茜ちゃんの世話もお願いしたい。との事だった




【月曜日の学校】

翌日、いつもの様に投稿した亜沙美とロミータは、昼休みに服部に呼び出され校舎裏に来ていた


「亜沙美殿。チャンネル登録者2万人おめでとうでござる」


「ありがとう服部さん。今度の土日で防音工事してもらえて嬉しいです。それにお祝いに温泉旅行までプレゼントしてもらって、何だか申し訳ないよぉ」


「ちょっと亜沙美。服部さんにそんな事言ったら…」


「えっ!?」


以前、竹取家に侵入し盗聴などをした引っ越し業者を捕まえ制裁してくれた服部。どの様な処置をしたか?は彼女たちには伝えられていないが、その時に得た何かのおこぼれとして「何か要求は無いでござるか?」と聞かれて亜沙美は、防音設備をお願いしていたのだ。だが、そこまでしてもらう事に少し遠慮して下手(したて)な物言いをしたのだが…


「で、では亜沙美殿。防音工事をする代償として【アミー水】を再びお願いしても良いのでごさるか?」


「えっ!?えぇぇェェェ!そ、ソレは駄目だよぉ。絶対にダメぇ!!」


「そ、そうでござるか…では、妹の茜の面倒だけでも宜しくお願いするでござる。何しろまだ中学生の茜に、時折拙者の仕事のサポートをさせているので、たまには労(ねぎら)いをしてやりたかったのでござる」


「う、うん。ソレは任せておいてねぇ」


迂闊な言葉から再び【アミー水】をお願いされそうになった亜沙美だが、今回はキッチリと断ることに成功した


それから毎日、学業とともに配信活動をこなしながら週末を迎えた亜沙美とロミータ




【土曜日の朝】

亜沙美とロミータは鈴鹿市の駅前に来ていた


「それでロミータちゃん。この前私がコラボしたデザート・イーグルさんも、今回の旅行に付いて来るんだね?」


「ごめんね亜沙美。せっかくの旅行だから2人でノンビリしたかったんだけど…事務所に「旅行に行くから1日配信を休みます」って連絡入れたらさ、ソレを聞いたイーグルが自分も一緒に行きたい!って聞かなくってさ…」


「良いんじゃないかなぁ?どの道、服部さんの妹さんが来るんだから、もう1人増えた方が楽しい温泉旅行になるんじゃない?」


ロミータは茜という子を適当に相手して、なるべく亜沙美とイチャイチャする旅行にしようと考えていたようだが…同じ配信者がもう1人増えてはプライベート旅行では済まなくなってしまったのだ


ロミータとは違い、温泉旅行を手配してくれた服部の妹の面倒をシッカリ見なければ!と考えていた亜沙美とは、大きく考えが違っていた。そんな話をしていた時…


「もしもし、こんにちわ。貴女たちが亜沙美さんとロミータさんでしょうか?」


「はい!そうですけど…あ!可愛い♪」


後ろから声を掛けられた亜沙美とロミータが振り向くと、おとなしそうな中学生くらいの女の子が立っていた


「ワタシ、鈴鹿中学に通う2年生の服部 茜と言います。今回は旅行の案内をするようにと兄に頼まれて来ました。どうぞ宜しくお願いします」


「あらあら、凄く丁寧な子ね。ヤンチャな子だったらどうしようか?と思ってたけど安心したわ。ロミーは亜沙美の家に居候させてもらっているロミータよ、よろしくね茜ちゃん♪」


もの凄く丁寧でシッカリしてそうな感じの女の子が現れたので、別の意味で安心した亜沙美とロミータだが…


「あのぅ…ごめんね茜ちゃん。今回は急にもう1人行かせてもらう事になっちゃったんだけどぉ…」


「はい大丈夫ですよ。亜沙美さんやロミータさんと同じ会社のVTuberさんの方が、もう1人お見えになるんですよね?」


「へぇ、本当にシッカリしてる子ね…なんだか中学生時代の梨香を見ているようだわ♪」


自分たちより年下とは思えないほど、予想以上に丁寧で落ち着いた態度で話す茜を見て、中学生時代の梨香の事を思い出したロミータ



「そう言えばロミータちゃん。イーグルさんは、もう着きそうなの?」


「イーグルは愛知県出身だから三重県にも何回か来てたって言ってたわ。もう駅に着いたって、さっきメール来てたんだけど…」


今回の亜沙美とロミータの旅行休暇の話を聞きつけて、急遽同行したいと名乗り出たイーグルを待つ3人に正面から近づいてくる少女。彼女が3人の前まで来ると声を掛けてきた


「お、おはようございます…あの、私【ミネア・イーグルス】と言います。今回は突然無理を言ってすみません。よ、よろしくお願いします」


「……え?……えぇ!?イーグルさんなんですかぁ?あの時話したイーグルさん?」


挨拶をされて亜沙美は凄まじく驚いた。なぜなら前回のコラボの時、一人称は「俺」でエルフ軍人だ!と言っていた彼女とは、見た目も話し方も全くの別人にしか見えなかったからだ!


「やっぱりね。イーグルはリアルで会ったら、こんな感じなのよ。ロミーも会うのは2度目なんだけど、配信時の彼女とは全然別人だからビックリしちゃったでしょ?」


どうやらロミータはイーグルと1度リアルで会っているらしく、亜沙美ほど驚いてはいないのだが…配信の【デザート・イーグル】とは何処から見ても全くの別人だった


「ちょっとロミータ。外で会う時は、その名前で呼ばないでって言ったじゃない…」


「そうだったわね。亜沙美、改めて紹介するわ。彼女は【ミネア・イーグルス】よ」


「初めまして亜沙美ちゃんと茜ちゃん。【ミネア】って呼んでくださいね」


「は、はい…ミネアさん…」


「宜しくお願いします。ミネアさん」


まだ動揺している亜沙美と、初対面なのでまるで違和感無く接している茜が、面白いほど対照的に見えていた


「こんな小さな子が私達のエスコートをしてくれるの?」


「はい!任せてくださいミネアさん。兄が段取りをつけた温泉旅館は、私の両親が経営している宿ですので何も問題はありませんよ」


どうやら亜沙美ら3人が泊めさせてもらう温泉旅館は、服部の両親が経営しているようだ。とは言っても、裏稼業をしている一族が世間的にカモフラージュを兼ねて経営しているのだろう


3人は茜の誘導に従い電車に乗り、温泉旅館がある伊賀市へと向かった




続く

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