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第56話 驚くポイントは人によって違う

 えっえぇえええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!


「チハヤ! チハヤ! 大変だ!!!!」


 急いでギルドの外へ飛び出すと、性懲りもなく地面をこがしたり凍らせているクリスさんとチハヤの元へとダッシュ。


「どうかされましたか、サラ様?」


「どうかされたよ! モンスターが出たんだって!! このアビシニア村に!」


 チハヤは涼しい顔で首を傾げた。


「どこででしょうか? モンスターが出る要素など平和なこの村にはないのでは──」


「それが出ちまったんだよ! 悪魔の森の奥! 未踏の島から!」


「悪魔の森の奥!? もしかして──」


 それって、開拓したのがよくなかったのでは?


 不安になってチハヤの目を見れば、そこにはなんの焦りの色も見られなかった。


「この島にモンスターが生息していれば、とっくに襲われていたはずです。それがないということは、なにか別の要因でモンスターが現れたか、あるいは見間違いか」


 いつも通りの冷静なチハヤの姿に安心する。もし、コーヒーのための開拓が原因だったら、さすがにギルドの責任問題。コーヒー豆で世界と交易を、なんて言えなくなってしまうかもしれない。


「とにかく現場へ行ってみましょう。もしかしたら、エルサさんたちが戦闘中かもしれません」


「あっ!」


 そうだった。あの二人は木の伐採に向かっていたんだった。


「よし、そしたらチハヤとクリスさんと、それから──」


 後ろから走ってきたグレースが私に抱きついてくる。そのかわいらしい顔を見れば、どこか寂しそうに唇をとがらせている。か、かわいい……。


 そう言えば、昨日クリスさん家に泊まったからな。グレースはトーヴァと二人きりで夜を過ごしたことになる。トーヴァと二人きり……恐ろしい。と、そうなったら!


「うん、わかった! グレースも一緒に行こう!!」



 悪魔の森の入口には村のみんながワラワラと集まっていた。というよりもなにかにおびえて身を寄せ合っていると言った方がいいかもしれない。なにかってのは、まあ、モンスターなんだろうけど。


「なんじゃあれは……怪物級じゃ……」「あの剣さばき! 私たちの知っているエルサさんじゃないわ!!」


 違ったわ。おびえているのはエルサさんに対してだった。


 その恐れられている本人は、近くに見えないから森の奥で戦っているのかな?


「みんな! なにがあったの? モンスターが出たって……?」


「ああっ! サラちゃん、それにチハヤさんもちょうどいいところに」


 村長の姿は見えないが、代わりに掃除屋のシーラさんがみんなをまとめているようだった。


「そう、モンスターが出たのよ! チハヤさんの出してくれたゴーレムが森の木を伐採していったの。バッサバッサッて」


 伐採だけにバッサバッサ? いやいや、そんなくだらないダジャレを思いついている場合じゃないでしょ、サラ!


「そうしたら、森のはるか下、海を隔てた向こうの島にモンスターの影が見えたのよ! 私たちみんなそれで逃げ出したの!」


 モンスターの影? でも、影だけじゃ本当にモンスターなのかどうか。


「それで、シーラさん。エルサたちはどうしたんだ? こっちは戦っているかもと思って急いで来たんだけど」


 クリスさんは腰に手を当てて聞いた。眉間にしわが寄っているあたり、仕事モードになっていることがうかがえる。


「エルサちゃんは、ゴーレムと一緒に木を斬ってるわ。剣で。ねぇ、エルサちゃん急にどうしちゃったのかしら、王都に行ってから乱暴になっちゃって……」


 いやいやいや、今はそっちの驚きじゃないんだわ。そりゃあ、まあ? 間近でエルサさんの変化を見ていないとびっくりするだろうけどさ。


「チハヤ!」


 チハヤは「ええ」と低い声でうなずいた。


「とにかく確かめましょう。本当にモンスターが出たのか」


 森の奥へと走っていく。鬱蒼と茂っていたはずの木々はキレイに根元だけを残して刈られていた。そのさらに奥から妙に甲高い雄たけびが聞こえてくる。


「とぉっ!」


「やぁっ!」


 エルサさんだ! モンスターが近くにいるの!?


「エルサさん!」


 そこにいたのはたくさんのゴーレムとエルサさんにトーヴァ。モンスターの影は見当たらなかった。どころか、さらに森の開拓を進めているように見える。


「モンスターはどこなんだ! エルサ!」


 クリスさんの呼びかけにエルサさんはのんびりと振り返った。まるでなにごともなかったかのようにふーっ、と息を吐いて額の汗を手で拭っている。


「クリス? それにみんなも、どうしたの~?」


 あ~じれったい! エルサさんの口調好きだけど、今は緊急事態!!


「どうしたもこうしたもないですよ! モンスターが出たって聞いて飛んできたんです!! トーヴァ、モンスターはいるの!? いないの?」


 隣で同じように大木を斬っていたトーヴァは大剣を肩に乗っけて、怪訝そうにこっちを見る。


「モンスター? そういや、さっき村人がみんな村の方に走っていったな。なんかあったのか?」


 ウ、ウソだろ、この二人まさか……。


「──モンスターはこの森を抜けた先の小さな島で目撃されたそうです」


 結論を言うと、エルサさんとトーヴァは騒動にまったく気がついていなかった。周りの木々を伐採するのに夢中になって気がつかなかったらしい。


「とにかく向かいましょう。今、みなさんを空に飛ばします」


「空に飛ばす!? そんなこと──わわわっ!!」


 足が勝手に地面から離れていく。なんだ!? 変な感じだ!? ヤバい、体が! 飛ぶ!!


 強い空気の抵抗を受けながら、一気に体が上空へ浮かび上がった。足元になにもない不安定感と体を突き抜ける浮遊感が感覚をおかしくさせる。……っていうかあれだ。これまた吐き気が……ウェッ……。


「サラ様。大丈夫です。もう着陸しますから」


 チハヤに導かれるように体が勝手に移動し、海を渡るとその島へと降り立った。


 よ、よかった。これ以上は危ないところだった。


「……なるほど。この洞窟になにかありそうですね」


 洞、窟? まだ感覚が戻ってこない体を起こすと、チハヤの言うとおり、木々に隠れた洞窟らしき謎の空洞が見つかった。


「もしかしてだけど、行くの? これ……」


 ジメジメだよ、きっと。ジメジメでコケだらけで、コウモリがわぁって。絶対に入りたくない場所トップ3に入るのが、洞窟だよ。つまり、絶対に入りたくない。


「行くしかないでしょうね。村のためです。モンスターが出た原因を突き止めなければ、コーヒー・プロジェクトはここで頓挫してしまうかもしれません。サラ様、ご覚悟を」


「……お、おう」


「仕方ねぇ、行くか。逆にどんな理由であれモンスターが出るんなら、簡単にランクアップできそうだ」


 人の村だからって、ポジティブすぎんかその発言。


 まあ、でもしかたない。行くしかないか!


「チハヤ、トーヴァ。なにか出てきたら頼んだよ!」


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