「豪華絢爛」という言葉がある。めちゃくちゃ贅沢で派手だ──みたいな感じだけど、今までその言葉を使う機会はまるでなかった。
んだけど、マジでこれだわ!
「ようこそ、コンフォーコギルドへ。歓迎しますわ、一応お客様ですし」
「一応は余計だろ! まあ、逆の立場だったら私もそう思うけどな!」
マリーのギルドは、床から壁から天井までピカピカのキラキラだった。何十年と手入れされていなかった私のギルドとは違い、きちんと手入れされているのだろう内装は、貴族の屋敷にいる気分だった。
こう考えると、エルサさんの屋敷は、けっこう質素だったんだな。あのときは人酔いに任務にと忙しくして疲れ切っていたから、よくよく屋敷を見ていなかったのもあるけど。
マリーはきっと赤色が好きなんだろう。魔法も炎の魔法を使っていたし、だからギルドも赤を基調した造りになっていて、床にはなんとレッドカーペットまで引いている。実用性皆無のインテリアまであって、なんと天井には無駄に豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。
……うん、一応注意しておこうかな。
「グレース。いい? くれぐれもモノを壊したりしたらダメだからね?」
聞こえていないのかわかっていないのか、グレースは首を傾げた。かわいいけど、頼むから大人しくしておいてくれ。
「あら、心配しなくても結構ですわよ。壊したり傷がつけば、また新しいのに買い換えればいいのですから。まあ、建物ごと壊されたらさすがに困りますけれどね」
「壊さないよ! いや、壊せないよ!」
今は、化物二人はいないからな。
「冗談ですわ。さて、そうしましたら、応接室は空いていたかしら?」
マリーは髪をかき上げると受付の女性に声をかけた。うわっ、きれいな人だな~この人。髪がトゥルトゥル!!
「マリー様。応接室は、現在2部屋とも来客で使われております」
「ほかに、空いている部屋はございませんか?」
「そうですね──広間に訓練場、食堂に図書室、休憩場、宿舎、申し訳ございません、どこも使用中です」
え゛っ……。いったい何部屋あるっていうんだ……。屋敷みたいだと思ったけど、本当に屋敷じゃねぇか!!
「いえ、問題ないわ。そしたら、少し準備があるのできっかり10分後に私の部屋にお通しして」
「承知しました。えっと、お客様のお名前をお伺いしても?」
「サラよ。サラ・マンデリン。あのアビシニア村のギルド長、それにギルド員のグレース」
「あーアビシニア村の……わかりました。サラ・マンデリン様。少々、こちらおかけになってお待ちいただけますか?」
「へ? あっ、はい──あの、お構いなく?」
今まで受けたことのない、なんとも丁寧な対応に居心地悪ささえ感じてしまう。
……いや? いやいやいやいや!! 吞まれてはいけないぞサラ! 私は商売の話をしにきたんだ! 心強くあらねば!!
「それでは、またのちほどお会いしましょう」
そう言うと、マリーは早足で螺旋階段を上っていった。……何階まであるんだろうな?
「サラ・マンデリン様。こちらへ。今、お飲み物も用意いたしますので」
「あっ、いえ、本当にお構いなく。名前も長ったらしいので、サラでいいです」
「お心遣いありがとうございます。では、サラ様とお呼びいたしますね」
事務員の人が受付の前にあるソファに案内してくれる。私とグレースはそこへ並んで座ると、3分もたたないうちに温かい紅茶とミルクが運ばれてきてしまった。
「どうぞ。お口に合うといいのですが」
「いや~合います! 絶対! ありがとうございます!」
お構いなくとは言ったが、出されたものは全力でいただく! ふわりと香る紅茶は、甘味やら苦味やらさわやかさや、とにかく複雑な味がして超絶美味だった。
「……この紅茶はマリーが?」
「その通りでございます。このギルドのモノはどれもが全てマリー様が自分で足を運び、自分の目で見て用意されたもの。失礼、紅茶の場合は味わってですね」
ふふっ、と事務員さんは上品に微笑む。どこかの誰かとは大違いだ。
「それにしましても──。やはり、アビシニア村のサラ様。噂通りの方ですね」
「へ? ……噂?」
「ええ。マリー様が毎日のように話していらっしゃるんです。チハヤ様とサラ様のお話を。それに──」
事務員さんは頬に手を当てると、なぜかため息をついた。
「私ども事務員の間では、あのトーヴァさんを受け入れたギルドとして有名なんですよ」
ああ──。なるほど、事務員はギルドセンターからの派遣。そりゃ、噂にもなるかもしれない。トーヴァだし。
「まあまあ、仲良くさせてもらっていますよ。ウチのギルドには必要な存在ですし」
事務員さんはにこやかに微笑んだ。
「ふふ。そう言っていただいてよかったです。トーヴァさんは、口はあれですが真面目でいい方ですからね。……さて、そろそろマリー様の私室へご案内いたしますね」
「ん、よろしくお願いします」
私たちはマリーが上っていった螺旋階段を上る。それにしても、いい情報を手に入れたな。
あの性格からそうじゃないかと思っていたけど、マリーのこだわりは相当だ。つまりは一度気に入れば長く愛用するということ。コーヒー作戦が上手くいけば、予想した通りいいお客さんになってくれるかもしれない。
「着きました。こちらです」
最上階である4階のさらに一番奥の部屋の扉を事務員さんはノックする。中からマリーの返事が聞こえ、私たちはマリーの部屋へと入っていった。
これまた赤色が目立つ派手な配色の部屋。剣を持った大きな甲冑を背にしたマリーは、立ち上がると部屋の中央にある机へと座った。
「サラ様とグレース様をお連れしました」
「ありがとう。いいわ。あとは私が直接話を聞きます」
「失礼いたします」
事務員さんが部屋の外へ出ていくと、そっと扉が閉められた。
「さて、お待たせしましたわ。話というのはいったいなんですの?」