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第64話 豪華絢爛っていう言葉、使うときがあったんだ

 「豪華絢爛」という言葉がある。めちゃくちゃ贅沢で派手だ──みたいな感じだけど、今までその言葉を使う機会はまるでなかった。


 んだけど、マジでこれだわ!


「ようこそ、コンフォーコギルドへ。歓迎しますわ、一応お客様ですし」


「一応は余計だろ! まあ、逆の立場だったら私もそう思うけどな!」


 マリーのギルドは、床から壁から天井までピカピカのキラキラだった。何十年と手入れされていなかった私のギルドとは違い、きちんと手入れされているのだろう内装は、貴族の屋敷にいる気分だった。


 こう考えると、エルサさんの屋敷は、けっこう質素だったんだな。あのときは人酔いに任務にと忙しくして疲れ切っていたから、よくよく屋敷を見ていなかったのもあるけど。


 マリーはきっと赤色が好きなんだろう。魔法も炎の魔法を使っていたし、だからギルドも赤を基調した造りになっていて、床にはなんとレッドカーペットまで引いている。実用性皆無のインテリアまであって、なんと天井には無駄に豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。


 ……うん、一応注意しておこうかな。


「グレース。いい? くれぐれもモノを壊したりしたらダメだからね?」


 聞こえていないのかわかっていないのか、グレースは首を傾げた。かわいいけど、頼むから大人しくしておいてくれ。


「あら、心配しなくても結構ですわよ。壊したり傷がつけば、また新しいのに買い換えればいいのですから。まあ、建物ごと壊されたらさすがに困りますけれどね」


「壊さないよ! いや、壊せないよ!」


 今は、化物二人はいないからな。


「冗談ですわ。さて、そうしましたら、応接室は空いていたかしら?」


 マリーは髪をかき上げると受付の女性に声をかけた。うわっ、きれいな人だな~この人。髪がトゥルトゥル!!


「マリー様。応接室は、現在2部屋とも来客で使われております」


「ほかに、空いている部屋はございませんか?」


「そうですね──広間に訓練場、食堂に図書室、休憩場、宿舎、申し訳ございません、どこも使用中です」


 え゛っ……。いったい何部屋あるっていうんだ……。屋敷みたいだと思ったけど、本当に屋敷じゃねぇか!!


「いえ、問題ないわ。そしたら、少し準備があるのできっかり10分後に私の部屋にお通しして」


「承知しました。えっと、お客様のお名前をお伺いしても?」


「サラよ。サラ・マンデリン。あのアビシニア村のギルド長、それにギルド員のグレース」


「あーアビシニア村の……わかりました。サラ・マンデリン様。少々、こちらおかけになってお待ちいただけますか?」


「へ? あっ、はい──あの、お構いなく?」


 今まで受けたことのない、なんとも丁寧な対応に居心地悪ささえ感じてしまう。


 ……いや? いやいやいやいや!! 吞まれてはいけないぞサラ! 私は商売の話をしにきたんだ! 心強くあらねば!!


「それでは、またのちほどお会いしましょう」


 そう言うと、マリーは早足で螺旋階段を上っていった。……何階まであるんだろうな?


「サラ・マンデリン様。こちらへ。今、お飲み物も用意いたしますので」


「あっ、いえ、本当にお構いなく。名前も長ったらしいので、サラでいいです」


「お心遣いありがとうございます。では、サラ様とお呼びいたしますね」


 事務員の人が受付の前にあるソファに案内してくれる。私とグレースはそこへ並んで座ると、3分もたたないうちに温かい紅茶とミルクが運ばれてきてしまった。


「どうぞ。お口に合うといいのですが」


「いや~合います! 絶対! ありがとうございます!」


 お構いなくとは言ったが、出されたものは全力でいただく! ふわりと香る紅茶は、甘味やら苦味やらさわやかさや、とにかく複雑な味がして超絶美味だった。


「……この紅茶はマリーが?」


「その通りでございます。このギルドのモノはどれもが全てマリー様が自分で足を運び、自分の目で見て用意されたもの。失礼、紅茶の場合は味わってですね」


 ふふっ、と事務員さんは上品に微笑む。どこかの誰かとは大違いだ。


「それにしましても──。やはり、アビシニア村のサラ様。噂通りの方ですね」


「へ? ……噂?」


「ええ。マリー様が毎日のように話していらっしゃるんです。チハヤ様とサラ様のお話を。それに──」


 事務員さんは頬に手を当てると、なぜかため息をついた。


「私ども事務員の間では、あのトーヴァさんを受け入れたギルドとして有名なんですよ」


 ああ──。なるほど、事務員はギルドセンターからの派遣。そりゃ、噂にもなるかもしれない。トーヴァだし。


「まあまあ、仲良くさせてもらっていますよ。ウチのギルドには必要な存在ですし」


 事務員さんはにこやかに微笑んだ。


「ふふ。そう言っていただいてよかったです。トーヴァさんは、口はあれですが真面目でいい方ですからね。……さて、そろそろマリー様の私室へご案内いたしますね」


「ん、よろしくお願いします」


 私たちはマリーが上っていった螺旋階段を上る。それにしても、いい情報を手に入れたな。


 あの性格からそうじゃないかと思っていたけど、マリーのこだわりは相当だ。つまりは一度気に入れば長く愛用するということ。コーヒー作戦が上手くいけば、予想した通りいいお客さんになってくれるかもしれない。


「着きました。こちらです」


 最上階である4階のさらに一番奥の部屋の扉を事務員さんはノックする。中からマリーの返事が聞こえ、私たちはマリーの部屋へと入っていった。


 これまた赤色が目立つ派手な配色の部屋。剣を持った大きな甲冑を背にしたマリーは、立ち上がると部屋の中央にある机へと座った。


「サラ様とグレース様をお連れしました」


「ありがとう。いいわ。あとは私が直接話を聞きます」


「失礼いたします」


 事務員さんが部屋の外へ出ていくと、そっと扉が閉められた。


「さて、お待たせしましたわ。話というのはいったいなんですの?」

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