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第81話 商売はやっぱり侮れない

 ランクアップ? ギルド戦? 明らかに不吉な予感を漂わせている羊皮紙に目を落とす。


 そこには──。


────


 アビシニア村のモンスター討伐により、貴ギルドのランクアップを認めます。よって、貴ギルドはランク1からランク2へとランクアップを果たしました。


 ランク2のギルドは、一人前のギルドです。多くの依頼を引き受けることができるようになりますが、そのためには多くのギルド員を引き受ける器が必要です。


~ランク3へのランクアップ条件~


・ギルドに宿泊施設の設置


・他ギルドとの合同任務


────


 あんのセンター長! まためんどくさい条件を突きつけやがって!!


 ……で、まだ続きがあると……。


~ランク2の特典~


・新たな職員の派遣


・ギルド同士の交流


 ギルド同士の交流……ギルド同士の交流?


 マリーを見ると不敵な笑みでこちらを見返した。


「ギルド同士の交流とは、協力して依頼に臨むだけではなく、ギルド員の交換や研修なども含みます」


 なるほど、つまりはたとえばクリスさんがマリーのギルドに行ったり、逆にヤマトさんが私のギルドに来たりするということか。そして、たぶん、その仕組みを利用してチハヤを自分のギルドに連れて行こうという算段──だけど。


「残念だけどマリー、チハヤはギルド員じゃないんだ」


 たとえ、ギルド員だとしても出て行ってもらっちゃ困る。どんなことがあってもお断りだけどね。


 マリーは今一度立ち上がると腕を組んだ。偉そうな姿勢は崩さない。


「そんなことは百も承知ですわ。ですから、ギルド戦の提案をしているのです。ギルド戦はギルド同士の模擬戦。ただし、殺し合う以外はルール無用です」


 ルール無用? えっと、なに? マリーがなにを考えているのか、まるでわからなかった。


「なので、このギルド戦、ちょっとした報酬を提案します。ギルド戦で私が勝てば、チハヤを私のギルドに引き抜きます」


「えっ? はぁ? なに言ってんだ? そんな意味のない戦い受けるわけが──」


「同時に、私が勝った場合、コーヒー豆の取引からも手を引かせていただきます」


「なっ──」


 こ、こいつ!! 最低な条件を突き付けてきやがった!!


「そんなこと認められない! 今、契約したばっかじゃねぇか!!」


 マリーは、わざとらしく肩をすくめた。


「サラ。契約とは、書類にサインしてから始まるのですわ。あなたもギルドを引き継ぐときにサインしていますわよね?」


 そうだったー!! あのとき、私がサインしたばっかりに……じゃない!!


「そんなでたらめな話があるか!! フランチェスカさん! こんなのずるいですよね!!」


「まあ、でもサインしないと契約は始まらないのは常識だよね。それに、ギルド戦も問題ない。マリー様はこの間と違って、ちゃんと問題の内容にやってるね。……人の道は外れてるかもしれないけど」


 まるで我関せずと空気のように酒場のお客になっていたフランチェスカさんは、覇気のない顔でそう言ってのけやがった。


「ぐっ……じ、じゃあ、こっちが勝ったらどうなるんだよ?」


「もちろん、コーヒーを買わせていただきますわ。それも、1万リディアに倍の値段をつけてもいいでしょう。そうですわね、それから、今後、あなたのギルドへの協力も無償でしてさしあげますわ。そして、チハヤのことはきっぱり諦めると誓いますわ」


「そ、そういう条件なら──」


 いや……待て待て待て。血迷うな、サラ。マリーのギルドと言えば、ヤマトさんやフランチェスカさんを始めとした強力なギルド員が何人もいる。対してウチのギルドは、戦えるようになったばかりのエルサさん、クリスさん、グレース。


 さすがに戦力が違い過ぎるだろ! なに考えてんだ! ダメだダメだ!! なし!


 私は人目もはばからず頭を抱えた。


 待って。断ったら、1万リディアがなくなる! 取引もパーになる!! エルサパパ&ママとか他に買ってくれる人はいるかもしれないけど、ダメになっちまうかもしれない!!


 正直、1万リディアはほしい! しかも勝てばそれが倍になるんだ! だって、1万リディアがあれば当面、毎月の借金返済は気にしないで済むんだぞ!? 断るのはあまりにも惜しい!


 だけど……ああ!! けれど──うぁああああ!!!


 マリーのやつ! なんていやらしい提案をしてくるんだ!!


 奇声を上げそうな勢いで頭をかきむしると、ドンっとテーブルが叩かれた。


「黙って聞いていたら人の店で偉そうに──」


 ク、クリスさん!? 


 テーブルを叩いたのはクリスさんだった。黒いクマだらけのその目は据わっていた。


 マズい。ただでさえ寝不足なのに、朝早くから起こされて、好き勝手言われて頭に血が上っている!


「そのケンカ買ってやるよ!! なあ、サラ!!」


「えっ? う、うん……」


 私はクリスさんのあまりの迫力に、思わずうなずいてしまった。しまった、と気づいたのはすぐ後のことで──。


「言いましたわね!! 間違いありません! ヤマト、フランチェスカ、あなた二人も聞きましたわね!?」


「はい!」「う~ん、まあ、ね」


 ヤバい!!


「ちょっと待って!! 今のは弾みで! ほら! サインしてないから! 契約にはサインが必要なんでしょ!?」


「いいえ! サラ! ギルド戦はルール無用!! 今ので約束を交わしたことにしますわ!!」


「しますわじゃねぇーんだよ!! おい!! チハヤ!! クリスさん!!」


 チハヤは小さく首を振り、クリスさんは人の話なんて聞かずに拳を鳴らしている。


「それでは、ギルド戦の戦い方を決めましょう。さすがに人数は不利なので──」


「おい! こらぁ!! サインさせろ!! サインさせろってぇええええ!!!!!」


 まんまと罠にはめられた私は、ただわめくことしかできなかった。

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