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第6章 誰かのために戦うってこと

第84話 金の使い方が違い過ぎる

 ってことでなんやかんや経たあと、私たちはまた王都へ飛んでいた。


 なんかもうチハヤがいるから、ビュンビュン王都と村を行き来できて距離感覚がおかしくなってきている。隣の近所みたいな感じで遠さを全然感じない。憧れだったはずの王都は……どこへ?


 街中に突然現れたからか、近くにいた人たちがぎょっとした顔でこっち見てるけど、こういうのは気にしないのが一番いいんだよね。


「さて、とまずは──」


「まずは酒! エルサの実家に行こうぜ! 景気づけに一杯やらないと」


 能天気にエルサさんの屋敷の方へ足を向けたクリスさんの首根っこをエルサさんがつかむ。


「だ・め・だ・よ~お酒なんて飲んだらクリスまったく役に立たなくなるから~」


 かわいい笑顔だけど、おいおい……片手でクリスさんを持ち上げてるじゃねぇか! トーヴァの修行がこんな形で!?


「エルサ、ご、ごごめんごめんね、冗談だから、離して……」


 苦しそうな声を出すクリスさん。首をつかまれてたらそうなるけど、自業自得は否めない。


 ──でも、正直クリスさんの気持ちはわかる。心が浮ついているというか、落ち着かないというか……私たちは今日、ギルド戦に挑みに来たんだ。


 ギルド戦を申し込まれてから約一週間。いよいよ、決戦のときは来た。エルサさんを始めとしてクリスさん、そしてグレース。この3人はトーヴァとチハヤにみっちりと鍛えられていた。勝ち目があるのかどうかは戦ってみないとわからない。だけど、みんな前とは比べものにならないほど強くなっているのはわかる。


 待ち合わせはギルドセンターだ。クリスさんが茶化したあと、私たちは誰も一言も言葉を発することなく王都特有の人ごみを抜けてギルドセンターの入口まで移動する。


 扉を開ける前に私はチハヤに言っておかないといけないことがある。


「チハヤ」


 後ろを振り向くと、いつもと変わらず覇気のない表情のチハヤが私に視線を向けた。


「──絶対に勝つから。そして、コーヒー豆は2倍で売るし、チハヤは私の執事のまま。いいな?」


 チハヤは、目を細めると微笑みやがった。


「もちろんです。サラ様」


 よ、よし──。なんか恥ずかしいな……。私が前を向くと、ニヤニヤとした顔でみんなが見つめてくる。


「な、なに!?」


「いや、サラも少しは素直になったんだなと思って」


「サラちゃん~チハヤくんは絶対に守ろうね!」


「あうあう!!」


 そっか。そういうことか……。


 ──あ~ギルドになったんだな。


 みんなの言葉を受けて、私はなぜかそう思っていた。クリスさんにグレースに、エルサさん。みんなギルドに入った理由は違うけど、今はもうかけがえのないクローバーギルドの一員だ。


 チハヤも、留守を任せているトーヴァも含めて、私たちはみんな仲間なんだ。


「よし、行こう!」


 前へ出てゆっくりと扉を開けていく。開けた先、真っ白な壁を背に立っていたのはコンフォーコギルドのギルド長──マリーだった。


 マリーは不敵な笑みを浮かべると言った。


「……逃げずに来たこと、まずはほめてあげますわ。絶対に勝ち目のないギルド戦なのですから。それでは、戦いの舞台へ参りましょう」


 私たちはマリーに案内されてギルドセンターの階段を上っていく。2階、3階と進みようやく目的の階にたどり着いたようだった。


「どこへ行くんだマリー?」


 一人、自信満々に前を歩くマリーにたずねる。後ろを振り向くこともせずに、マリーは答えた。


「ギルド戦はルール無用。ですが、わたくしは正々堂々と勝負したいのです」


 なにが正々堂々だよ。断りにくい条件を出してきたくせに。……とは心の中にしまっておき、私は黙ってマリーの話を聞いていた。


「コンフォーコギルドでもギルド戦ができる訓練場はあるのですが、それでは使い慣れたこちら側が有利になってしまう。ですから、あくまでも中立なこの場所を選んだのです」


 まっすぐ奥にやけにデカい扉があった。白い陽の光に包まれるその扉をマリーが開くと、だだっ広い空間が広がっていた。


「ここがその舞台。ギルドセンターの大訓練場ですわ」


 私は天井を見上げた。同じ建物内とは思えないほどの高い天井に一つも窓がない白壁。そして、磨かれた大理石のような床。金持ち! なんつーお金の使い方だ!


「……ん? なんだ? なんかこの部屋変な感じがする」


 私の後から入ってきたクリスさんがキョロキョロと部屋を見回している。


「……なるほど。部屋自体に魔法がかけられている特殊仕様の構造ですね」


 チハヤが感心したようにつぶやいた。……え? そうなの? ぜんぜんそんなこと見てなかったわ。


「さすがね、チハヤ。それに魔法使いのあなたもよく気がつきましたわ。訓練場では、魔法も扱うからどれだけ派手に暴れ回っても建物が壊れないようにあらゆる属性の魔法、そして一流の魔法使いによる防壁魔法、強化魔法、あらゆるコーティングがなされていますわ」


 なっ、なんだその技術! ほしい! うちのギルドにもほしいよ!! エルサさんの剣やクリスさんの魔法でもうボロボロなんだよ!!


 はっ──いや、待て。今はそこじゃない。……どんだけ暴れ回ってもいいということは、マリーのやつ本気を出すつもりだ。マジの本気でマジ本気だ。


 マリーは私の表情を見取って薄ら笑いを浮かべた。


「今日は一日、ここを貸し切りにしていますわ。……さて、サラのクローバーギルドが来たところでわたくしのギルドメンバーも紹介しますわ。……ヤマト!!」


 向かいの扉が静かに開き、ヤマトさんが姿を現す。優しい目がこちらを向いて、思わず目を逸らしてしまった。


 はぁ~やっぱりヤマトさんと戦うのか……。なんだかこう、ヤマトさんがいると変な感じになってしまう自分がいる。落ち着かないというかなんというか。


 そんなことを考えながら床の辺りで視線をさまよわせていると、続いてフランチェスカさんがやる気のない表情で登場する。


 やっぱり、二人目はフランチェスカさん。ここまではみんなで考えた読み通りだ。そして、最後の一人は──。


 フランチェスカさんの後に続いて出てきたのは──おっさんだった。


 え? 思わず二度見、いや三度見くらいしてしまう。いや、おっさんが悪いわけじゃないんだ。


 だけど、ここまでヤマトさんとフランチェスカさんと、いかにも体力あります、「オレ、やれます!」みたいな感じのメンバーだったのに急におっさんが現れて驚いてしまった……と言うのが正直なところ。


 おっさんと言っても白い服に包まれた身なりのいいおっさんで、哀愁漂う姿にどこか色気のあるようなおっさんというよりはおじさまって感じだけど。おっさんはおっさんだよな。


 急に平均年齢が高くなったような気がするが──ま、まあマリーが選んだのなら相当強いギルド員のはず。


 どういうジョブなのか、とかって考えていると、後ろでクリスさんが絶望的な声を発していた。


「お……おい、ウソだろ……お前は──親父?」

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