「ま、でも良いんじゃねーの?」
マルファさんが言葉を続けました。
「今の私達はパーティーだ、そういうのも知っていけばいいだろ」
その言葉を聞いて、私は衝撃を受けました。私は少し、マルファさんを誤解していたかもしれません。
無意識に私は、マルファさんに話しかけていました。
「マルファさん、すいません。マルファさんがこんなにいい人だって分からずに私、マルファさんのことを誤解していました」
「な、なんだよ急に! 気持ちわりーな! んなこと気にすんなよ」
「いいえ! そんなことは出来ません! 私は同じ仲間であるマルファさんのことを誤解していたんですから!」
「だーっ! めんどくせぇ! 良いか、アメリア。それにエイリス! 聞いとけ!」
マルファさんは髪をガシガシとかいていました。照れ隠しでよくある行動です。
「わたしはアメリアとマルファがちーっとばかし信用出来んじゃね? と思ってパーティー組んでるだけだからな! そこ勘違いすんじゃねーぞ!」
私達からプイと顔を背けて、マルファさんはそう言いました。
それがなんだか嬉しくて、私はマルファさんに抱きついていました。
「ばっ! なんだよ急に抱きついてくんな!」
「えへへ! マルファさんって、言葉はキツイですけど私達のこと大事に思ってくれているのが嬉しいなって!」
「思ってねーよ!」
すると、エイリスさんも魔具を握りながらマルファさんへ抱きつきました。
「はぁ!? お前もか!? 頭沸騰したんじゃねーの!?」
「していないよ。別に比べる必要もないが、君がこのパーティーのことを一番大事に思ってくれているんじゃないかって思ってね。信用には行動で返したかっただけだよ」
「まーじでめんどくせぇ! お前ら二人ともどうなってんだよ! もうちょい人を疑うことを覚えろよ! わたしだぞ!? アメリアを騙して小銭を稼ごうとしたわたしだぞ!? むしろもっと警戒しろ!」
そうは言うものの、マルファさんの表情がとても柔らかかったことは見逃していません。
私達のリアクションが気に食わなかったのか、マルファさんは顔を背けて、こう言います。
「……なんだよ、もっとわたしのことを警戒したり、なんか言えよ」
私とエイリスさんはマルファさんのこれまでの境遇を知りません。ですが、今のマルファさんに対して、私達は何も思っていません。それどころか、私ならこう言います。
「マルファさんは、なかま――」
「うおおおい! アメリア、マルファ! 一番反応が強い方向を見つけたよ! さぁ行こうじゃないか! ん、どうしたんだい?」
「いえ、エイリスさんはあと少し我慢してくれたら良かったのになと思っただけです」
「ぼっボクが何かしてしまったのかい!?」
マルファさんが無言でエイリスさんの肩を叩きました。
「良いんだ、忘れろ。それよりも早くいこーぜ。そのポイントが強いってところに」
「そうだね! 善は急げだ。早速行こう」
エイリスさんが言うには、魔具の反応の強さにはいくつかランクがあるようです。先ほどエイリスさんが言っていた方角は棒が高速回転、つまり最強の反応を示したとのことです。
私達はエイリスさんを信じ、ひたすら歩くことにしました。
草木をかき分け続け、辿り着いたのは遺跡のような場所でした。
「棒の反応はまだ続いているどころか更に回転が強まった。つまり、ここがボクたちの目的地ということだが……」
「遺跡、ですかね? それにしては出入口のようなものが見つからないですね」
私は何気なく遺跡に触ってみると、触り慣れた感触がしました。これは石です。
ですが得られた情報はその程度です。出入り口のようなものも、窓もありません。
どうやって遺跡に入るかを考える時間がやってきました。エイリスさんはメモ帳をひたすらめくり、マルファさんは腕を組みながら、周辺をウロウロとしています。
「う~ん……どうやって入るんでしょうかね……?」
私はメイドの仕事しかしたことがないので、遺跡というものに縁がありません。ですが、相手は建物です。私はメイド。広い目で見れば、職場なのです。
私の武器はメイドの視点しかありません。だから少し頭を切り替えて仕事モードで、遺跡を見てみることにしました。
「うん、分かりませんっ」
十数分ほど見て回りましたが、まるで分かりません。これが魔法の力で開くものなのか、特別な魔具で開くものなのか。何もヒントがありませんでした。
こういうときは掃除でもして頭を切り替えたいのですが……。
「あれ?」
そこで気づいたことがありました。一つの壁だけ、埃の付き方が新しいように思えます。時間が経った埃と、そうじゃない埃はすぐに見分けがつきます。
私は思わずその壁を触り、埃の具合を確かめようとしました。
すると、重い音を発し、壁が動き出したではありませんか。
「なんだこれ!? 何やったんだよアメリア!?」
「ボクとマルファがこれだけ考えても分からなかった謎を一瞬でか。すごいなアメリア」
「い、いえいえっ! 違います! ただ埃が気になっただけで、私は何もやっていません!」
本当です! 私には何もなく、ただメイドの経験しかありません!
壁は回転扉だったようで、少しの間の後、私達が通れるくらいの隙間が生まれました。
「アメリアが道を切り開いてくれたね。さぁ、これからが本番だ」
「この奥に伝説の魔法に関する書物があるのか……。楽しみで仕方ないな」
私達は頷き合い、遺跡の中へ突入することにしました。
どんな困難がやってきても、必ずくぐり抜けてみせます。
そう意気込んでいた私達を打ち砕くイベントが、もう少しでやってこようとしています。