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第21話 襲い来る罠

 遺跡の中は明るかったです。人間三人が余裕で並んで歩ける幅の通路、左右の壁には人の気配で点灯する魔具が備え付けられているようです。

 エイリスさんはまず、人の気配で点灯する魔具へ注目しました。


「これは古魔具というわけではないが、かなり精密な造りだね。製造年は分からないけど、使っている素材からして、おそらくそれなりに昔。このときから気配感知の魔法と照明魔法の連動発動が出来たのか……。これはかなり興味深いぞ……!」

「おーいエイリス! 進まないからいい加減こっちに来い!」


 マルファさんがとうとう痺れを切らしたようです。エイリスさんは泣く泣くこちらにやってきましたが、チラチラと照明魔具の方を見ている限り、未練はかなりあるようです。


「エイリスさん、帰るときにまた見ましょう」

「そうだね、うん、そうするよ」


 何とか説得に成功し、私達は遺跡を進みます。


 カチリ。


 私は何かを踏んでいました。サーッと背中に冷たい汗が流れ落ちました。

 後ろから何か音がします。マルファさんがすぐにその正体に気づきました。


「岩だ!」


 なんと、大きな岩が転がって来たではありませんか! 私達は後ろを振り向かず、ひたすら走り続けます。ランスディアーに追われていた時を思い出してしまいます。


「そうだ! 魔法で破壊をすれば!」


 エイリスさんが立ち止まり、岩へと向き直りました。エイリスさんは人差し指を天に掲げ、こう叫びます。


「敵を貫き穿て、いかづちの剣よ!」


 強烈な稲妻が岩へと襲いかかります。しかし、岩はビクともしません。

 失敗を悟ったエイリスさんは即、撤退を選択しました。


「ま、こういうこともあるよね」

「時間稼ぎにすらなってねーじゃねーか!」

「あっ! あそこ! 右に曲がれそうです!」


 もうちょっと走ったところに、壁の切れ目があります。右折できるはずなので、そこに逃げ込めれば何とか……!

 息も絶え絶えになりつつ、私は全力で足を動かします。

 大岩がどんどん距離を縮めていきます。絶体絶命のピンチです。ですが、間に合いました。


「跳べー!」


 私達は右の通路へ飛び込みました。ほぼ同時に大岩がすれ違っていきました。あと数秒遅ければどうなっていたことか……。私は想像しただけで気持ちが落ち込みます。

 お互いの無事を確認し合ったところで、今いる場所の把握に移ります。

 先ほどと同じような歩きやすい通路です。ですが、今度は正面に像のようなものが鎮座していました。遠目から見る質感は石で造られた像を思わせます。デザインは斧を持った人型の像ですが、頭の部分だけ豚になっています。非常に嫌な予感がしています。

 マルファさんが真っ先にその可能性について言及しました。


「うわ、なんだよあれ。『これから僕と戦ってもらうね。死ね』って雰囲気がにじみ出てるぞアレ」

「マルファの言葉遣いには少々物言いがあるところだが、概ね間違っていないだろうね」

「こ、こっちから先制攻撃してみるのはいかがでしょうか」

「お、アメリアも意外とワルくなってきたな。もしかしたらわたし達を助けてくれる奴かもしれねーぜ?」

「ええ!? そうだったのですか!? 私、なんということを……!」


 またポンコツメイドぶりを発揮してしまいました、と落ち込む前に、エイリスさんが助けてくれました。


「そんなわけないだろう。マルファ、あまりアメリアをいじめないでやってくれ」

「ごめんって」

「謝るくらいならまずは攻撃してみてくれ。アレが何なのかを確定させたい」

「はいよー。そうら炎弾の魔法」


 マルファさんの右手に炎が現れました。するとマルファさんは殴るような動作をして、その炎弾を放ちました。

 真っ直ぐ飛び、見事命中。さて、豚頭の像の反応はどんなものでしょうか。


 結果は静寂。像が動き出すことも、壊れることもありませんでした。


 念の為、もう二、三発撃ち込んで見ましたが、これも反応はありません。


「特に何もなさそうですね。では私が先行してみます!」

「アメリアが? 危険じゃないかな?」


 私は返答の代わりに、力こぶを作るような動作をしてみせます。

 私だって冒険者の端くれです。さっきからマルファさんとエイリスさんだけが活躍しているので、これくらいはさせてほしいのです。

 念の為、カサブレードを出し、ゆっくりと豚頭の像へ近づきます。

 一歩進んでも何も起きません。五歩進んでも何も起きません。ならば十歩はどうでしょうか。

 私が一定の地点まで進んだ時、何か冷気を感じました。

 ――ヤバい。

 私がそう感じたのと、豚頭の像が動き出したのは、ほぼ同時でした。


「アメリア!」

「ひぃっ!」


 カサブレードと斧がぶつかります。その瞬間、私は重さを感じ取ります。体格、というよりそもそもの素材の質量があるのでしょう。カサブレードで少しでも身体能力を強化していなかったら、私の両腕なんて、簡単にへし折られていたことでしょう。

 カサブレードを少し傾けて斧を逃がし、がら空きの胴体を叩きます。はい、まるで手応えがありません。文字通り、岩を叩いているような感覚でした。

 私の攻撃を意にも介せず、豚頭の像は再度、斧を振り上げました。


「下がってろアメリア!」


 マルファさんが私と豚頭の像の間に入り、防御魔法を発動します。マルファさんの前方に出現した円形の盾は斧をしっかりと受け止めました。

 その隙に、エイリスさんが攻撃用魔具〈魔力剣〉で豚頭の像へ攻撃をしました。一瞬、刃が食い込んだように見えましたが、すぐに魔力剣は弾かれました。


「見た目通りの硬さだね。これは斬りがいがありそうだ」


 私達は一度距離を取ります。豚頭の像はそこから一歩も動くことはなく、斧をグルグルと回転させます。すると、竜巻が生まれ、私達を更に後方へ吹き飛ばしてしまいます。


「きゃあー!」

「くっ! なんという勢いだ」

「お前ら大丈夫か!?」


 地面に身体を打ち付けます。痛みに耐えながら、私達は追撃に備えようとしますが、一向に仕掛けてくる気配がありません。


「――――」


 豚頭の像は追撃することなく、再び最初に見た姿勢に戻ってしまいました。

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