王都の冒険者ギルドの一角で、マルファさんが怒っていました。
「結局、私らはありもしねー噂に踊らされていたってことかよ!」
ゴクゴクとジョッキに入った酒を飲み干し、テーブルへ叩きつけました。流石にお行儀が悪いので、私が注意をしていると、エイリスさんは笑いだします。
「え、エイリスさん!?」
「この古魔具オタク、ついに現実を受け止めきれなくなったのか……?」
「違うよ。あの部屋に行くまでの道中を思い出したら、なんだかおかしくなってね」
道中。
私も思い出してみることにしました。とんでもない罠の数でした。それでも私達は力を合わせて、なんだかんだ乗り越えて、それで最後にはあのオチでしたね。
……あぁ、なるほど。エイリスさんの笑った意味が分かりました。
「ふふ。確かにおかしいですね」
「間抜けなわたしらのことがか?」
「違いますよ。だけど私達、結局力を合わせて乗り越えられたんだなって」
もちろんあの遺跡に挑む前も、それなりに連携は取れていたと思います。ですが、最後の部屋に着く頃には、その何倍もチームワークが良かったように思えました。
マルファさんもそのことを振り返ったのか、徐々に怒りがしぼんでいきます。
「……まぁ、それなりにやれてたよな、わたしら。アメリアなんか後半、何でも爆破させようとしていたしな」
「! ちょ、ちょっと! 人に聞かれたらどうするんですか!? 私、そういうのが好きだと思われるじゃないですか!」
「事実だろーが! なあエイリス!」
「違いますよねエイリスさん!?」
エイリスさんは非常に気まずそうに顔を背けました。
「扉を爆破させていた時、アメリアは嬉しそうだったよ……」
「裏切り者ー!」
そんなことを言い合う私達ですが、みんな笑顔でした。
今回の冒険に報酬はなかった? そんなことはありません。あの時間がこそが私達にとっての報酬。こうして笑い合えている今だからこそ、そう思えるようになりました。
「あー笑った笑った。喉乾いたからまた酒飲むかー」
「今さらですけど、マルファさんって、お酒飲むんですね」
「え? ほんっとに今さらだな」
今さらかもしれませんが、それはそうでしょう。なんせ華奢で可愛い見た目だし、声もとっても甘いマルファさんがジョッキを持っているのですよ。何なら、一気飲みとかするんですよ。
ギャップを感じるなというのが難しい話だと思います。
「マルファ。君、見た目は良いんだから、もう少しこう……無いのかい?」
「何が言いてーんだよ! 酒飲むさ! めっちゃ好きなんだから! 言っておくが、酒はお前の古魔具好きや、アメリアのメイドの仕事好きと同じくらい好きなんだぞ」
「うっ……! メイドの仕事と同じレベルの好きなら、何も言えません」
マルファさんは相当お酒が好きなのだな、ということが分かってしまいました。これ以上、私は飲酒について突っ込まないことにしました。
ですが、エイリスさんはジトーっとした目になります。
「いや、僕達は不健康にならない方の好きだから。というか、君は何か誤解しているようだけど、ボクは君の飲み方を心配しているんだよ。その飲み方は確実に身体を壊すよ?」
「かーっ! 母親かよ!」
「そういうわけじゃないよ。ただ、仲間として、君が心配なだけだよ」
「~っ! エイリスお前、ホントたまに恥ずかしーこと言うよな」
「なっ! ボクだって言いたくて言っているわけじゃないよ。ボクは心の底から君のことを考えているだけだよ!」
「それを恥ずかしいって言ってんだよ!」
私は経験上、ここから更に泥沼の口論になることを予想できました。
故に私は立ち上がり、二人の肩に手を置きました。
「これ以上言い争うようなら、お外に出ますよ?」
マルファさんは口をパクパクと動かしますが、やがて諦めてくれたのか、シュンとなりました。
「……まだ飲みたい」
「分かりました。だけど飲む量は自分の限界を考えてくださいね? お酒に飲まれるのはとってもかっこ悪いですよ?」
「……了解です」
そこからマルファさんは騒ぐことはせず、ゴクゴクと美味しそうにお酒を飲み始めました。
私はエイリスさんの耳元に顔を寄せます。
「ありがとうございましたエイリスさん。そして、憎まれ役にさせてしまってごめんなさい」
「良いんだ。ボクはボクの言いたいようにさせてもらっただけなんだから」
「それに」とエイリスさんは続けます。
「ボクの方こそごめんね。マルファのフォローをしてくれてありがとう。……最近自覚してきたんだけど、どうやらボクは君がフォローしてくれるかなと思って、マルファへ強く当たっているきらいがあるようだ」
「えっ、そうなんですか?」
「本当はそんなこと駄目だとは分かっているんだけどね。どうやら無意識に甘えてしまっていたようだ。だから改めて言うよ、ありがとうアメリア」
なんと、なんと、嬉しいお言葉でしょうか。
元より人のお手伝いをしたくてメイドになった私は、そういう感謝の言葉を聞くだけで、更に頑張ろうと思えるのです。
「いえ! 私は皆のために、これからも働きます!」
「お~いアメリア、エイリス。乾杯しようぜ~」
いい具合に酔っているのか、マルファさんが顔を赤らめながら、ジョッキを掲げます。
私達もノンアルコールのドリンクを頼み、ジョッキを掲げます。
「……アメリア、乾杯の挨拶は?」
マルファさんがコテンと首を傾げます。仕草の可愛らしさで、うっかり言葉を聞き漏らしそうになってしまいました。
「えっ! 私ですか!? こういうのはエイリスさんとかの方が良いんじゃ」
「どうしてもというのならやるけど、ボクはアメリアの言葉が聞きたいな」
突然の目立つイベントです。メイドは主の側にいる、いわば影の存在。そんな私がいきなり陽の当たる方に立てと言われても……。
エイリスさんとマルファさんが期待の眼差しで私を見ています。うぅ、今さらエイリスさんにお願いできる雰囲気ではありません。
……そうか、期待ですか。誰かの期待に応える、これもある意味メイドの仕事ですね。
腹を決めた私は精一杯、言葉を選びます。
「私達は正直、かなり
三つのジョッキがコツンとぶつかります。
私達の会話は長時間に続き、そしてとても盛り上がりました。