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第24話 アメリアの乾杯

 王都の冒険者ギルドの一角で、マルファさんが怒っていました。


「結局、私らはありもしねー噂に踊らされていたってことかよ!」


 ゴクゴクとジョッキに入った酒を飲み干し、テーブルへ叩きつけました。流石にお行儀が悪いので、私が注意をしていると、エイリスさんは笑いだします。


「え、エイリスさん!?」

「この古魔具オタク、ついに現実を受け止めきれなくなったのか……?」

「違うよ。あの部屋に行くまでの道中を思い出したら、なんだかおかしくなってね」


 道中。

 私も思い出してみることにしました。とんでもない罠の数でした。それでも私達は力を合わせて、なんだかんだ乗り越えて、それで最後にはあのオチでしたね。

 ……あぁ、なるほど。エイリスさんの笑った意味が分かりました。


「ふふ。確かにおかしいですね」

「間抜けなわたしらのことがか?」

「違いますよ。だけど私達、結局力を合わせて乗り越えられたんだなって」


 もちろんあの遺跡に挑む前も、それなりに連携は取れていたと思います。ですが、最後の部屋に着く頃には、その何倍もチームワークが良かったように思えました。

 マルファさんもそのことを振り返ったのか、徐々に怒りがしぼんでいきます。


「……まぁ、それなりにやれてたよな、わたしら。アメリアなんか後半、何でも爆破させようとしていたしな」

「! ちょ、ちょっと! 人に聞かれたらどうするんですか!? 私、そういうのが好きだと思われるじゃないですか!」

「事実だろーが! なあエイリス!」

「違いますよねエイリスさん!?」


 エイリスさんは非常に気まずそうに顔を背けました。


「扉を爆破させていた時、アメリアは嬉しそうだったよ……」

「裏切り者ー!」


 そんなことを言い合う私達ですが、みんな笑顔でした。

 今回の冒険に報酬はなかった? そんなことはありません。あの時間がこそが私達にとっての報酬。こうして笑い合えている今だからこそ、そう思えるようになりました。


「あー笑った笑った。喉乾いたからまた酒飲むかー」

「今さらですけど、マルファさんって、お酒飲むんですね」

「え? ほんっとに今さらだな」


 今さらかもしれませんが、それはそうでしょう。なんせ華奢で可愛い見た目だし、声もとっても甘いマルファさんがジョッキを持っているのですよ。何なら、一気飲みとかするんですよ。

 ギャップを感じるなというのが難しい話だと思います。


「マルファ。君、見た目は良いんだから、もう少しこう……無いのかい?」

「何が言いてーんだよ! 酒飲むさ! めっちゃ好きなんだから! 言っておくが、酒はお前の古魔具好きや、アメリアのメイドの仕事好きと同じくらい好きなんだぞ」

「うっ……! メイドの仕事と同じレベルの好きなら、何も言えません」


 マルファさんは相当お酒が好きなのだな、ということが分かってしまいました。これ以上、私は飲酒について突っ込まないことにしました。

 ですが、エイリスさんはジトーっとした目になります。


「いや、僕達は不健康にならない方の好きだから。というか、君は何か誤解しているようだけど、ボクは君の飲み方を心配しているんだよ。その飲み方は確実に身体を壊すよ?」

「かーっ! 母親かよ!」

「そういうわけじゃないよ。ただ、仲間として、君が心配なだけだよ」

「~っ! エイリスお前、ホントたまに恥ずかしーこと言うよな」

「なっ! ボクだって言いたくて言っているわけじゃないよ。ボクは心の底から君のことを考えているだけだよ!」

「それを恥ずかしいって言ってんだよ!」


 私は経験上、ここから更に泥沼の口論になることを予想できました。

 故に私は立ち上がり、二人の肩に手を置きました。


「これ以上言い争うようなら、お外に出ますよ?」


 マルファさんは口をパクパクと動かしますが、やがて諦めてくれたのか、シュンとなりました。


「……まだ飲みたい」

「分かりました。だけど飲む量は自分の限界を考えてくださいね? お酒に飲まれるのはとってもかっこ悪いですよ?」

「……了解です」


 そこからマルファさんは騒ぐことはせず、ゴクゴクと美味しそうにお酒を飲み始めました。

 私はエイリスさんの耳元に顔を寄せます。


「ありがとうございましたエイリスさん。そして、憎まれ役にさせてしまってごめんなさい」

「良いんだ。ボクはボクの言いたいようにさせてもらっただけなんだから」


 「それに」とエイリスさんは続けます。


「ボクの方こそごめんね。マルファのフォローをしてくれてありがとう。……最近自覚してきたんだけど、どうやらボクは君がフォローしてくれるかなと思って、マルファへ強く当たっているきらいがあるようだ」

「えっ、そうなんですか?」

「本当はそんなこと駄目だとは分かっているんだけどね。どうやら無意識に甘えてしまっていたようだ。だから改めて言うよ、ありがとうアメリア」


 なんと、なんと、嬉しいお言葉でしょうか。

 元より人のお手伝いをしたくてメイドになった私は、そういう感謝の言葉を聞くだけで、更に頑張ろうと思えるのです。


「いえ! 私は皆のために、これからも働きます!」

「お~いアメリア、エイリス。乾杯しようぜ~」


 いい具合に酔っているのか、マルファさんが顔を赤らめながら、ジョッキを掲げます。

 私達もノンアルコールのドリンクを頼み、ジョッキを掲げます。


「……アメリア、乾杯の挨拶は?」


 マルファさんがコテンと首を傾げます。仕草の可愛らしさで、うっかり言葉を聞き漏らしそうになってしまいました。


「えっ! 私ですか!? こういうのはエイリスさんとかの方が良いんじゃ」

「どうしてもというのならやるけど、ボクはアメリアの言葉が聞きたいな」


 突然の目立つイベントです。メイドは主の側にいる、いわば影の存在。そんな私がいきなり陽の当たる方に立てと言われても……。

 エイリスさんとマルファさんが期待の眼差しで私を見ています。うぅ、今さらエイリスさんにお願いできる雰囲気ではありません。

 ……そうか、期待ですか。誰かの期待に応える、これもある意味メイドの仕事ですね。

 腹を決めた私は精一杯、言葉を選びます。


「私達は正直、かなり凸凹でこぼこ――こほん、個性的だと思います。メイドだし、古魔具が大好きだし、魔法が大好きだし。けど、私は今の状況がとても楽しいし、嬉しいです。これからも三人で色んなことを乗り越えられたら良いなって思います。これからもよろしくお願いします。乾杯!」


 三つのジョッキがコツンとぶつかります。

 私達の会話は長時間に続き、そしてとても盛り上がりました。

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