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第28話 捜索、突入(マルファ視点)

 わたし、マルファ・マックンリーはかなり怒っていた。

 折角の魔法絡みの実験を受けようとしないばかりか、あろうことに『怪しい』ときたもんだ。そりゃないって。わたしは魔法が大好きで、魔法に絡むことなら何でも知りたいんだ。

 だからわたしはアメリアとエイリスの静止を振り切り、馬車に飛び乗り、王都を飛び出した。


 改めて依頼書の内容を確認した。

 依頼は魔法実験の手伝い。依頼日は今日。場所は王都を出て、歩いて半日くらいの場所にある小さな屋敷。内容は言われた道具を取ってくるだけだ。報酬は馬鹿みたいに高い。

 わたしは一人なのもあってか、無意識にその依頼書にツッコミを入れていた。


「魔法実験の手伝い……はまあ良いか。依頼日は急すぎるよな。なんだよ今日掲載して、今日が依頼日って。場所に至っては確か、人がいないボロ屋敷だったような。報酬と内容はまぁあいつらの言う通りっちゃ言うとおりだな」


 だんだんあいつらに対して、罪悪感のようなものが芽生えてきていた。今ならばまだ、戻れるかもしれない。

 だけど、それと同じくらいに魔法に対しての好奇心も強かった。もしも本当に魔法の実験だったら? もしかしてただ怪しいだけで、全うな内容なのかもしれない。

 そんなことを考えると、わたしは結局向かうことを選択したんだ。


 屋敷に来たわたしはとりあえず呼び鈴を鳴らしてみた。

 これで出なかったらすぐに帰ろう。そんなことを考えながら。


「はい、どちらさまですか?」


 すると、シワだらけの服を着た眼鏡の男が出てきた。見た目はすごく怪しい。正直、これだけで帰りたくなった。

 だけど、こういうのほど、狭く浅い分野を研究している可能性が高い。そう思ったわたしはまず、愛想をふりまいた。


「こんにちは! わたしは依頼書を見てやってきた冒険者です! はいこれ、冒険者登録証です」

「これはこれはご丁寧に。はい、確認できました。私の名はエンス・ヴィクターと言います。では早速入ってください」

「おじゃましまーす」


 あれ? 思ったよりあっさりだな。

 この眼鏡の男がエンスか。さてさてどんな研究をしているのか……。


「とりあえずここにおかけください」


 エンスはまず、私を応接室に案内した。


「まあまずは紅茶でもどうぞ。安心してください、屋敷はボロっちいですが、道具関係はしっかり手入れをしていますので」

「わぁありがとうございます! いただきます!」


 わたしはよく知らん相手から進められたものは口にしないと決めている。

 が、今回は話が少し変わってくる。下手に断って、依頼自体なかったことにされても困るため、わたしは少しだけカップに口をつけることにした。


「おいしいですね!」

「そうだろう。私の自信作でね。一口飲むだけで味わいが分かるというものだ。さて、と本題に移ってもいいかな?」

「はい、よろしくお願いします!」


 エンスがテーブルの上に資料を広げた。

 読むようにジェスチャーをされたので、手に取って読んでみることにした。


「なになに……?」


 ――魔法と脳。

 この資料のタイトルは妙な内容だった。この資料をかいつまんで言うと、こうなる。


「魔力と脳には密接な関係があり、自分には不向きとされる魔法でも、他人の脳の情報を読み取ることで、理論上は使用可能である。えっと……だいぶ、怖い内容ですね」

「一般的に魔法は魔力を用いて、世界に干渉し、説明できない力を引き起こすとされている。ならば君に問おう。魔力というのはどこにあるんだ? 生命力と精神力の混ざりものとされている力は一体どうすれば見えるんだ? 私はその力は脳に蓄えられていると考えている」


 エンスの目つきが変わった。わたしはその時点で、警戒心が最高レベルに上がっていた。正直、今すぐ魔法をぶち込んで帰りたかった。

 ちらりと出入り口を見るが、エンスが邪魔ですぐに抜け出せない。


「だから私はまず、頭を開いてみたいと思う。そこから魔力を感じれば、私の仮説は証明される。あとはどうやってそれを可視化させるかという話もあるが、まあ良いだろう」


 エンスは立ち上がり、わたしに近づいてこようとした。


「小爆発魔法!」

「うぉっ!」


 わたしはエンスの眼前に小爆発を起こし、目くまらしをした。エンスを蹴り飛ばし、出入り口めがけて走った。

 だけど、私の足は思ったように動かなかった。


「は? なんだ、これ……? なんか視界がボヤけてきたような……」


 視界がぐわんぐわんする。二日酔いとはまた違う、この不愉快さ。わたしは走ることはおろか、立っていることすら出来ず、座り込んでしまった。

 ぼんやりしていく思考の中、とある可能性に辿り着いた。


「あの紅茶、か……? けど、ほとんど飲んで、ねぇ……」

「そういう人もいると思ってね。紅茶ではなく、飲み口の方に薬を塗っておいたよ。大丈夫、睡眠薬だ」

「何が大丈夫だよ、嘘つきヤロー、が……」


 わたしは意識が落ちる寸前、エンスへ中指を立て、意識を失った。



「……ぅ」



 どれくらい時間が経ったのか。目を覚ましたわたしは、まず自分の状況を確認した。

 日光はなく、光源は点灯式の魔具のみ。地下室にでも連れてこられたのか? まぁ、良い。そうなれば、わたしの状況に見当がつく。

 椅子に座らされていた。腕と身体それぞれに鎖が巻き付けられ、容易に逃げ出せないようになっていた。


「目覚めたかね。おはよう」

「くたばれ」

「それが君の本性か」

「望むような人間じゃなかったんなら、さっさと解放しろ」


 わたしはエンスに気づかれないよう、袖を動かした。そこから出てきたのは非常時に使う簡易的な魔力ナイフだ。超低出力の魔力刃だけど、鎖を切断するくらいなら十分だろう。


「いや、魔法がちゃんと使えるなら、誰でも良いのだ。いや、いまの言葉は正確ではなかった。高い魔力と私の話を理解できる者なら、誰でも良いのだ」


 エンスは嫌な笑いを浮かべた。この手の吐き気がするような笑顔は数多く見てきた。そして、こういう笑顔を浮かべる奴は、これからろくでもないことをする。わたしにはその確信があった。


「まずは意識のある君に色々と実験をしてから、最後に脳を取り出し、私特製の液体に漬け込む。そうすると、君の脳を自由に使えるようになる」


 エンスが両手を広げて近づいてきた。


「喜びたまえ。君は私の研究のいしずえになるのだ。君の名前はえーと……何だったかな? まぁ良いさ。被検体ナンバーワンとして、私の助手になるといい」

「お断りだバーカ」


 わたしはエンスの顔にツバを吐きかけてやった。

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