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第29話 合流、反撃開始(マルファ視点)

「! この、ガキが!」

「ッ!」


 右頬に鈍い痛みが走った。気づいたときには、わたしは地面に転がっていた。受け身を取ることも出来なかったので、全身が痛ぇ。

 だけど、わたしはエンスにバレないよう、魔力ナイフを動かし続ける。


「ガキが! ガキが! ガキが! 汚ねぇモノ吐き出しやがって! クソが!」


 豹変したエンスがわたしに蹴りを入れ続ける。腹、顔、脚など自分の気が済むまで蹴りやがった。

 こんな沸点低い奴がよくも魔法の研究なんて抜かしやがったな。わたしなら魔法の研究が出来るなら、ツバ吐かれようがなんだろうが、すぐ実験に取り掛かるけどな。

 全身が痛む中、そんなことを考えていると、だんだん笑えてきてしまった。


「何がおかしいんだこらぁ!」

「笑うしか、ねえだろうが。こんな感情ブレッブレの奴が出来る実験って何なんだろうなって思って」

「貴様ァ!」

「わたしならこの程度、何にも思わねぇんだけどな! つーか、早いところ本性出してくれてありがとうな! おかげさまでわたしの中で格付けが完了しちまったよ!」


 鎖があと少しで切れそうだ。だけど、どうせやるなら不意を突きたい。それも、最高のタイミングで。

 だからわたしは口を動かし続ける。あのエセ魔法研究者が頭のてっぺんまで血が上るように。


「わたしが上だ! お前はわたしの足元にも及ばねぇよ!」

「よーく分かった! そして気が変わったよ! お前はさっさと解剖して、使い潰してやる!」

「そんな怒ってんなら、解剖も出来るわけねーさ!」


 わたしは魔力ナイフに力を込め、完全に鎖を切断した。すかさずエンスの腹目掛け、殴りつけるように腕を振るった。


「火球魔法!」

「ぐ、お!」


 人の頭くらいの大きさの火球はエンスの腹を捉え、爆発と熱をプレゼントしてやった。殺すつもりはない。だけど、半殺しにはする。

 わたしの闘志に火がついちまったよ。


「お前はとりあえずぶっ飛ばす。そんで、魔法で誰かを釣ろうとしたことを後悔させてやる」

「ふ、ははは。私に魔法勝負を挑むか」


 エンスはゆらりと立ち上がると、片手を軽く挙げた。

 すると、エンスの足元に土が広がり、そこからどんどん土人形が生まれてきた。あれも土生成魔法の一種だ。違いは魔力の使い方だ。

 土人形がゆっくりと歩いてくる。エンスが命令を出しているわけじゃなさそうだ。

 そうなると、だいぶあの土人形の詳細が分かってきた。


「簡単な命令だけで動かしているんだな。歩行と捕獲、もしくは攻撃くらいか。防御行動は仕込んでるのか?」

「歩行だけでそこまで分かるとは。やはり君の頭脳は良い。早くいじくり回してみたいものだよ」

「合ってんのか? 合ってないのか? わたしはそこに興味津々だよ」

「合っている。ついでに言えば、防御行動は仕込んでいない。あまり複雑にしても維持するための消費魔力が大きくてね。まぁ、試行錯誤の結果だよ」

「その試行錯誤、一人暮らしにも生かしてみ? めっちゃ金貯まりそうだ」

「機会があったら試してみよう。それではさっさと倒そう」


 ここからは消耗戦だった。

 わたしがいくら火球で土人形をぶっ飛ばしても、すぐにエンスの足元にある土から復活しやがる。エンスは汗一つかいていない。きっと作るために必要な魔力が少ないんだろうな。

 土人形がとうとうわたしの腕を掴んだ。多少力は強いが、思い切り振り払えば、離れることは出来る。


「元気そうだな。だが、いつまで続くかな」

「日頃から肉食ってるから、体力はまだまだあるっての」


 軽口を叩いてみるが、わたしはこの後の展開をなんとなく予想できていた。

 魔力、体力ともに消耗し、土人形によって完全に拘束される未来。はたまたエンスが別の魔法を駆使して、わたしを殺しに来る未来。どのみちわたしにとっては、どんなルートになろうが、死は免れない。


 わたしの手持ちのカードで、一番省エネなのが火球魔法だ。他にも低燃費な魔法はあるけど、威力が足りなさそうな気がする。

 いっそ、広範囲高威力の魔法でも使ってみるか? チマチマ叩くよりも、一気に押しつぶすような感じだ。


(そんなんやったら、魔力切れ起こすだろうが!)


 自分の中でツッコミを入れる。いくらぶっ飛ばしても、土人形がまた生まれておしまいに決まっている。

 こうしている間にも土人形が迫ってくる。撃ち漏らしが目立つようになってきた。どんどん即対応しなければならない数が増えていく。


 アメリアとエイリスの顔が浮かぶ。あいつらならどうしたのだろうか。どういう打開策が出たのだろうか。

 わたしは思った以上に、あいつらといた時間に慣れてしまっていたようだ。


 だからだろうか。わたしはとある一手を思いついた。

 たぶん一回限りの手品だ。だけど、この状況を打開できるのなら、わたしはいくらでも手品師になってやる。


「まずはこいつだ!」


 わたしがまず選んだのは水噴射の魔法だ。不自然にならないよう、様々な方向へ噴射してやった。

 エンスはわたしの抵抗を笑いやがった。


「ほう、考えたな。土に対して、水は効果的だと考えたか。だが浅い。その程度で土人形は止まらない」

「そいつはどうかな」

「何……!?」

「氷結魔法!!」


 どんどん土人形が凍っていく。そればかりか、エンスの足元に湧いた土すら凍りついた。

 わたしの読み通り、土人形はそれ以上生まれてこなかった。無限に土から生まれてくるのなら、そもそもその土を押さえれば終わりだということに、私は気づいたんだ。

 これも全部、あいつらが考えそうなことを考えたからだ。口にするのはこっ恥ずかしいが、感謝しかない。


「魔法のコンビネーション、こいつはいささか困った!」

「そのまま困ってろ!」


 わたしはエンスの元まで走り、左の頬に一発拳を叩き込んでやった。石生成魔法で生み出した石を握り込んだから、いつもの倍は効いただろう。

 エンスが倒れると、土人形達は一斉に崩れ落ちていった。これで終わりだ。さっさとエンスを縛り付けるために、わたしは一瞬よそ見をしてしまった。


「ン~~~~効くねぇ」


 エンスが何か薬を飲んでいた。その瞬間、エンスの魔力が暴風のように吹き荒れた。


「ぐぁっ! なんだ!?」

「まさか私に奥の手を使わせるとは思わなかったよ」

「何飲みやがった!」

「魔力を一時的に増大させる薬だ。試したことはなかったが、今試せて良かったよ」


 いよいよまずかった。もしあれ以上に土人形や他の魔法が出てきたら――。

 だけどわたしはそれを表情に出さない。出してしまったら、エンスの思い通りになってしまうから。

 わたしは魔力ナイフを突きつけながら、啖呵を切った。


「ならお前の身体が限界を迎えるまでチキンレースだこんにゃろー!」

「ははは! 往生際が悪い! 早くその身体と脳を渡せ!」

「誰が簡単に渡すかよバカヤロー!」


 その瞬間、鈍い音がしたと思ったら、鉄扉が吹き飛んでいた。



「マルファさん! 助けに来ました!」



 へっ。なんでわたしは驚かねーんだろうな。

 きっと、絶対に来ると思ってたからかな。

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