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第30話 三人の力

「マルファさんに何をしているんですか!」


 私はカサブレードを構え、エンスさんと思わしき眼鏡の男性を怒鳴りつけました。

 エンスさんは私の顔を見るよりも先に、カサブレードを見ました。


「傘のような剣、だと。まさかそれは!?」

「な、なんですか!?」

「なんたる幸運だ。まさかあの伝説の聖剣を目撃できるとは……!」


 エンスさんは私に手を差し伸べます。だけどその視線はずっとカサブレードに向けられています。あの人は、私の顔を一切見ていません。


「知らない人よ。私と手を組まないか? 君なら私の研究を理解し、良き関係となれるだろう」

「嫌です。そういうことを言うなら、まずは私の目を見てから話すのが礼儀だと思います」

「今そう思ったよォ!!」


 エンスが地面に両手をつけると、再び無から土が生み出され、そこから騎士のような形になっていきました。

 騎士が手に持っていた剣を構えます。


「私の最高傑作〈土騎士〉。私を守る最高の騎士だ」


 騎士が私目掛けて迫ってきました。


「行け土騎士! あのカサブレードの使い手を殺せ!」


 土騎士が上段に構えた剣を振り下ろします。今までの経験から、なんとか剣を水平に構え、受け止めることが出来ました。

 反撃するために意識を切り替えようとしました。だけど、土騎士はタックルをしてきます。避けることの出来なかった私はそのままふっ飛ばされます。


「アメリア! ボケっとすんな!」


 マルファさんが土騎士の横っ腹目掛け、氷の塊を撃ち込みました。通常よりも巨大な氷塊だったので、土騎士が踏みとどまることなく、壁に叩きつけられます。

 そのままバラバラになってくれたら良かったのですが、そうはいきません。

 土騎士は動かなったので、カサブレードを握りしめ、追撃に向かいます。


 ですが、私の足に何か違和感がありました。


「これって……!」

「私のことを忘れてはいないかね?」


 私の両足が土で固められてしまっていました。全く気づきませんでした。走ろうとした勢いがあったので、前のめりになりました。

 思わず両手を地面につけてしまい、完全に身動きが取れません。

 その隙を見逃さなかった土騎士が飛びかかります。剣を逆手にし、串刺しにしようとしています。


「アメリア! いま助け――」

「君もだよ。さっきの腹いせに邪魔してあげよう」


 マルファさんの目の前に土の壁がせり上がりました。あれじゃ魔法が通らないです。


「ざけんなぁ!」


 すぐにマルファさんが土壁を破壊しました。一瞬で壊れたのを見るに、ただの時間稼ぎだったのでしょう。

 けど、それが今この瞬間においては、効果的でした。


「まずい……! アメリア、死ぬ気で防御しろ! いま! もう少し! わたしが魔法を撃つまで!」


 土騎士はもう目の前です。けど、防御が間に合わない……!

 もう、駄目なのでしょうか……!



「おまたせマルファ、アメリア」



 土騎士に雷の槍が突き刺さります。土騎士は雷に包まれながら、撃ち落とされました。

 続いてエイリスさんが入室。そのまま魔力剣を振るい、土騎士の右腕を切り落としました。


「次から次へと! なんだお前は!?」

「ボクかい? 颯爽と現れた古魔具オタクさ」


 エイリスさんが私の側に来てくれると、土の足枷を切り払ってくれました。

 ようやく動けるようになった私はすぐに立ち上がり、カサブレードを握り直します。


「これで三人また揃ったね」

「ふん。随分来るの遅かったじゃねーか」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫だよアメリア。遅いと言うことは、ボク達が来ることは前提だったらしい」

「そーんな訳ねえだろうが! わたしに夢見んな!」


 そう言ってマルファさんが顔を背けますが、私はすぐにこう言い返しました。


「私は夢見てませんよ? マルファさんにそう思ってもらえて嬉しいです!」

「だぁーもう! 嬉しいねぇ! 嬉しいから、照れ隠しに速攻あいつをぶっ飛ばすぞ!」


 私達の視線はエンスさんに向きました。

 ようやく揃った三人。対するは強大な力を持っていそうな一人。うん、相手にとって、不足なしです。


「あーあーあー。どうしてこう、私の思い通りにならないのだろうか世界は」

「なっ何でも思い通りになるんなら、世界は面白くないと思います」

「何ィ?」

「ひっ! 私はメイドをしているのですが、その日その日で微妙に状況が変わります! だから、そういうことに対応することに、私は面白さを感じていますっ!」


 きっとエンスさんからしてみれば、全く相反する意見だったのだと思います。

 だけど、私はそうなんです。なんでも思い通りになるんなら、世界はもっと色々と上手くいっているはずなんですから。


「だから! エンスさん、私は貴方を倒します。貴方の思い通りにならないことを、私の思い通りにさせていただきます」

「小賢しい奴らがぁ!」


 エンスさんは土騎士の形を変えます。より戦闘に特化した姿に、より自分の意見を具現化した形に。今の土騎士は、元の騎士然とした姿はなく、どちらかというと、花のような姿になっていました。


「あの土騎士の姿はァ! 私が素晴らしいと思う存在の抽象化だ! 太陽の力を浴びて死ね! 私と意見を異にする愚か者どもがぁ!」

「エンスさん、貴方があの形を素晴らしいと思うのならば!」


 私はカサブレードを強く握りしめ、走り出しました。内心、めっちゃくちゃ怖かったです。でも、ここで退いたら何も起こりません。私は私が出来ることを叩きつけるために、前進します。


「私はその太陽を叩きます! その姿は、私が嫌だなって思ったからぁ!」


 私と土騎士は互いに振りかぶります。攻防の駆け引きもない、ただの攻撃のぶつけ合い。どこまでやれるか分かりませんが、私は精一杯カサブレードを振り上げます。


「あっぱれアメリア! ボクがついつい出しゃばらせてもらおうか!」


 雷の剣が土騎士の胸を穿うがちました。一瞬だけ硬直する土騎士。その刹那に、私は千載一遇の好機を見出しました。


「ええぇーーい!!」


 まずは頭に一撃。その後は身体や足、腕など叩けるところ全てにカサブレードを叩きつけました。

 あと一撃といったところで、エンスさんが叫びます。


「ふざけんなよ何も持たぬ者がぁ! 私はこんな結末、認めない!」

「けどお前はゲームオーバーだ。大人しく両手を挙げな。さもなくば命を取る」

「……マルファの言い方には多少、思うところはあるが、エンス・ヴィークタ。お前の危険な魔法実験は今日、ここで終わりになる。出来れば抵抗しないで欲しい」


 マルファさんとエイリスさんがエンスさんを拘束しました。マルファさんは魔力のナイフを首に突きつけ、エイリスさんは魔力剣をエンスさんの利き腕であろう右腕に添えていました。

 エンスさんは歯をギリギリとさせたり、地団駄を踏んでいたりしましたが、やがて落ち着いたのか、抵抗を止めました。


「私は、どこで間違えたのか。こんな奴らに計画を瓦解させられた要因は何なのだ? 止まらない、考察が止まらない……」

「はぁ? そんなの簡単だろうが」


 マルファさんがエンスさんの問いに答えます。


「わたし達を敵に回したことだよ。最初からお前の計画は終わっていたんだよ」


 そんなことを言って大丈夫なのかと思いましたが、エンスさんにも色々と思うところがあったようです。

 エンスさんは諦めの感情を大いに滲ませ、こう言いました。


「その考察への反論はいま用意できていない。私が死ぬ寸前までに答えを用意するので、どうかその時は聞いてくれたまえ」


 その言葉を最後に、エンスさんは抵抗を止めました。

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