翌日、今日は特に依頼もない日。
私たちは冒険者ギルドのいつもの席で、それぞれ昨日起きた出来事について報告し合っていました。
「つーわけでさ、とんでもねー掘り出しもん見つけちまったんだよ! それに司書さんも魔法のことについて色々知っていてさぁ! 今度また図書館に行くことになったんだよ!」
「マルファさんは本当に魔法が好きですね。一日も図書館にいられるのはすごいです」
「魔法関係のことを調べようと思ったら、まじで一日中いられるからな、わたし。というか時間がいつの間に吹っ飛んでいるというのが正しい気もするけど」
「前にも言ったけど、君の魔法の知識は傾聴に値すると思っている。だから今度、ボクの持っている魔具について意見をもらえるかな」
「お安い御用だっつーの。魔具と言えば、エイリスの方はどうだったんだ? 新しいオモチャでも見つけたか?」
するとエイリスさんは待っていましたとばかりに机の下から袋を取り出しました。
そこから次々と魔具が出てきます。パッと見て、使い道が分かるものは少なかったです。
私は唯一、使い道が分かりそうな物を指差しました。
「エイリスさん、これはなんですか? なんだか爪切りのように見えるのですが」
「正解だよアメリア。これはね、爪をちょうど良く切ることが出来る魔具なんだ」
「うっっわ地味」
エイリスさんの目の色が変わりました。
「地味? 何を言っているのかな? これは切断の魔法と研磨の魔法、あとついでに潤いを与える魔法が作動するようになっているすごいものなんだよ」
「こんなちっさいやつにか? なら魔力回路かなり複雑になってんじゃねーの?」
「ふふふ。そう言うと思ったよマルファ。この爪切り型魔具はかなり画期的でね。普通なら各魔法ごとに回路を作って、それを統合させる作業があるんだけど、これは思い切って三種の魔法が同時に出るように一本の回路になっているんだ」
「出来んのか、そんな事!?」
「出来たのさ。もともと各魔法の相性が良かったのもあったし、出力を調整することによって、なんとか回路を爆発させずに共存させることが出来たんだ。お陰様でその分のコストダウンが可能になったみたいで、ゆくゆくはもっと安く販売されるようになるらしい」
エイリスさんとマルファさんが良く分からない言葉で喋っています。同じ言葉を使っているはずなのに、意味を読み取ることが出来ません。
んー? 昨日の微風が出る箒も同じような感じなのでしょうか。そもそもの仕組みがよく分かっていないので、考えても仕方のないことでしょう。
しばらく魔法と魔具の話が続き、二人は満足したようです。
ついに私の番になりました。
「えっと、私はですね……」
「まー買い物しただけだから、特に面白い話もなかったか?」
きっと私が困っていると思ったのでしょうか、マルファさんが助け舟を出してくれました。
ですが、今回に限ってはそうじゃなかったのです。二人にびっくりされず、昨日の出来事を話すにはどうしたらいいか。
知恵を振り絞った末に、私は完璧な流れを導き出しました。
「へぇ、紅茶が美味しい店かぁ。今度行ってみたいな。アメリアが言うなら間違いなさそー」
「そうだね。ボクも興味があるよ。そこのマスターともぜひ話してみたいな」
まずは美味しい紅茶を飲める場所をお勧めしてくれた人がいたという話をします。念のためディートファーレさんの名前は出しませんでした。マスターがきっとディートファーレさんに配慮しているのは分かっています。
まずは第一段階クリアです。
そうなると、次に聞かれるのはこのことでしょう。
「んで、その人とはどこで会ったんだ?」
「えっとですね、前の空き地で私達を見ていた人が接触してきて――」
マルファさんとエイリスさんが立ち上がります。
「はぁ!?」
「……アメリア、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「は、はい。それで――」
カサブレードを渡せと言われたこと、そしてもう少しで危ない目に遭っていたかもしれないこと、そこでちょうど通りかかった人が喫茶店を紹介してくれたこと。それらを話し終えると、二人は椅子にゆっくりと座り直しました。
「アメリア、ほんとお前は……」
「アメリア、そういう重要な話は真っ先に教えてくれないかな……?」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
完璧な流れとは一体なんだったのか。私はしっかりと二人に叱られました。
うぅ、やはり最初から言うべきでした。私はポンコツメイドです。
「アメリアについてはこれ以上の追求はしないでおくよ。問題は、アメリアに接触してきた男だね」
「だな。でもただの物盗りじゃなさそうだけどな」
「どうしてそう思うんですか?」
「いやいや良く考えてみろよ。そいつはお前にカサブレードの気配を感じたんだろ? なんで伝説の古魔具であるカサブレードの気配が分かるんだよ」
「そうだね。それはボクも思っていた。古魔具オタクたちでも伝聞や書物でしか知らない存在だ。それが分かるというのはどうにも引っかかりを覚えたね」
言われてみると、確かにそうです。
あの男の人はどうしてカサブレードを知っていたのでしょう。それと同時に、私はあの時違和感を覚えていました。
頭の整理をする意味でも、私はその違和感を口にします。
「あの男の人、なんだか心が籠もっていないように思いました。私、人の声を聞けば、その日の体調とか気持ちが何となく分かるほうなんです。だけど、あの人にはそれがありませんでした。なんというかこう、喜怒哀楽に寄らず、中心にいるような感じです」
魔法仕掛けの人形と話しているような気分だったのです。振り向いていたら、本当に人間の姿をしていたのか、自信がありません。
沈黙が流れます。思考を吐き出しきり、一時の休憩に入ったのです。
「よし、行くか」
「どこへ行く気だいマルファ?」
「現場だよ。わたしがこの前読んだ小説いわく、犯人は現場に戻るらしいからな」
「私も行ってみたいです。三人なら、怖くありません」
「……分かったよ。何もなかったら例の喫茶店にお邪魔しよう」
全員の意見がまとまり、私は再びあの場所へ向かうこととなりました。