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第44話 束ねた力

 フレデリックさんは鼻を鳴らすと、カサブレードで雷の矢を弾き飛ばしました。

 同時に私はフレデリックさんに接近。まずは作戦の第一段。

 カサブレードを何度も振るいます。弾かれては攻撃をし続けます。剣術のけの字すらありません。私に出来ることは腕を動かし続けることだけです。

 そうしていると、視界の端っこに氷の粒が映ります。


 作戦第二段が始まります。

 なるべくフレデリックさんをその場に釘付けにするため、なんとか背後を取ろうとするフリをします。

 氷の粒が溶け、地面が濡れていきます。まだ……まだ足りません。

 その間、私はフレデリックさんに叩かれ続けます。いよいよ遊びは終わりといったところなのでしょう。

 わざと私の攻撃に合わせて、攻撃をしてきています。このままでは、体力がなくなるまで叩かれることでしょう。


「アメリア! 退け!」

「! はい!」


 マルファさんの声が聞こえてきたのと同時に、私はその場を飛び退きました。

 すると、フレデリックさんの足元に変化が起きます。


「地面を凍らせての拘束か。ここからどうする?」


 あっという間にフレデリックさんの膝上までが凍りつきました。きっとフレデリックさんならすぐに自由になることでしょう。

 その前に、作戦第三段が動き出します。


「そうら食らいな!」


 フレデリックさんが拘束されている間、マルファさんは再び氷の槍を作り出していました。今度は大きく、そして鋭く。

 マルファさんが撃ち出した氷の槍はフレデリックさんの左肩を貫きます。じわりと氷の槍が赤く染まっていきます。

 完全貫通を確認したマルファさんがエイリスさんへ視線を送ります。


「いけエイリス!」

「フレデリック軍団長、殺しはしないが、重傷は与える!」


 エイリスさんの両手には魔法で作られた雷がたっぷりと蓄えられていました。


「これがボク達の力だ!」


 エイリスさんは氷の槍を掴み、たっぷりと蓄えた雷を解き放ちました。

 閃光、そして通電の音。焦げる匂い。押して駄目なら引いてみな、外が駄目なら中を攻撃する。

 フレデリックさんは煙をあげ、立ち尽くしています。ぴくりとも動きません。

 私達の勝利、なのでしょうか。


「やった……と思いたいな。エイリス、念のためもう一発雷撃ち込もうぜ」

「そうだね。前回はこの一押しの意識がなかったから、フレデリック軍団長に負けてしまったんだ」


 エイリスさんは右手に雷を溜め、フレデリックさんへ放ちました。

 同時に、フレデリックさんが握っているカサブレードから気のようなものが放たれました!


「随分良く考えた一撃だった。流石に内部は鍛えようがない」


 フレデリックさんの身体から青白い光が溢れています。その源はカサブレードです。


「俺のカサブレード、〈カサブレード・アナザー〉よ。今、力を解き放つ」


 エイリスさんの雷撃に対し、フレデリックさんはカサブレードを突き出しました。

 そして、カサブレードが開きます・・・・


「カサブレードが開いた!? で、でもエイリスさんの雷ならきっと……!」


 雷撃が開いたカサブレードに直撃します。その結果は圧倒的なものでした。

 一瞬だけ拮抗したと思えば、雷は四方八方に飛び散っていきます。

 フレデリックさんはその状態のカサブレードを、こう呼びました。



「――カサプロテクト。この状態のカサブレードは堅固なる要塞と同義。容易く貫けると思うな」



「あれは確か、カサブレードが使える形態の一つ……!」


 ディートファーレさんから借りていた本が早速役に立ちました。

 あれはカサブレードの防御形態。あの状態のカサブレードは無敵の防御力を持つと言います。


「カサブレードの形態変化、まさか生きて拝めるとはね。眼福だよ」

「相変わらず古魔具オタクだな」

「マルファの憎まれ口も、久しぶりに聞くなら随分と心地良いね。こういう時にこそ古魔具オタクの魂を発揮しなくちゃね」

「エイリスさん、あの状態は防御特化の状態です。私達の攻撃が通用するのかどうか……」


 するとエイリスさんは私に笑顔を向けてくれました。


「おぉ、アメリア。カサブレードについて理解が深まったようだね。古魔具を愛する者として、知識が深まることを確認できるのは嬉しいよ」


 こういう絶体絶命の状況だというのに、エイリスさんはエイリスさんでした。

 フレデリックさんの方へ向き直りながら、エイリスさんは言います。


「カサブレードは万能の聖剣だ。だけど、一度に何でも出来るわけじゃない」

「というと?」

「良くも悪くも特化なんだ。あの状態では攻撃は出来ない。その辺りを上手く突ければ良いのだけど」

「もう一回ぶちかますか?」


 マルファさんは既にやる気です。そんなマルファさんにあてられ、私もやる気を見せました。


「やりましょうエイリスさん。ここで倒せなかったら、どのみち私達の負けです」

「……そうだね、ここは攻め時と見た。みんな、ここでフレデリック軍団長を――」



「勘違いしているようだが、俺は永遠にカサプロテクトを使うとは一言も言っていないぞ」



 次の瞬間、エイリスさんが吹き飛ばされました。マルファさんが防御をしようとしたら、手首を捕まれ、そのまま投げられてしまいます。

 フレデリックさんの視線が私に移りました。フレデリックさんがカサブレードを振り下ろすのに合わせ、私もカサブレードを水平に構えました。


 気づけば私は、地面に倒れていました。


「な、なんで……? 少しは踏ん張ることが出来たはずじゃ……!?」

「それも勘違いしているようだな。それはお前がカサブレードの能力で身体能力の底上げをしていただけだ。……俺がその能力を使っていない状態でな」

「そんな……!」


 確かにその通りでした。フレデリックさんはまだ何もしていなかったのです。カサブレードの力を使っていたわけでもなく、ただ普通に戦っていただけ。

 それでも苦戦しているのに、カサブレードによる身体能力の底上げがされたら……?


「カサブレード使い、いい勝負が出来ていたなどと思うなよ。これからが本番だ」


 絶望。

 この二文字がこれほど適切な場面を私は知りません。

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