そこからの私は防戦一方でした。そもそも、攻撃を防げているのが奇跡に近いです。
縦振り、横振り、斜め、突き。あらゆる角度からカサブレードが飛んできます。カサブレードの力によって、ギリギリのところで防御出来ていました。今のところ反撃は考えられません。
エイリスさんとマルファさんの安否が気になります。死んでいないと信じてはいますが、自分の目で見て、確かめたいです。
「よそ見か? よそ見は力ある者だけが出来る行動だぞ」
「かっ……!」
私のみぞおちにカサブレードが突き刺さります。肺の中の空気が一気になくなり、目がチカチカします。立っているのも辛く、思わず膝をついてしまいました。
フレデリックさんを相手に集中していないなど、なんという傲慢だったのでしょう。ただでさえ手加減されているのに、挑戦者である私が更に弱いことをして、どうなるのでしょうか。
「……カサブレード使い、お前はもう少しやる人間だと思っていたのだがな」
「けほ……ごほっ」
「カサブレードに選ばれる条件は色々あるらしいが、お前は一体どんな条件に当てはまって選ばれたのだろうな」
そんなこと言われても分かりませんし、私だって知りたいですよ。
苦痛、痛み、焦り、絶望。負の感情が私の心に満たされていきます。
そして、私はとうとう感情の糸が切れてしまいました。
「分かりません、よ。なんでカサブレードが私のことを選んだのか、全然分かりません。太陽の化身なんて変な存在から襲われるし、それだけじゃなくて悪い人たちにも狙われてしまうし、もう訳が分かりませんよ」
頬に涙が伝います。喋っている内に、泣いていたんです。
勝てないし、このまま死ぬのかもしれない。怖い、怖い、怖いんです。
もう全てを投げ出して、この場から消えてしまいたい。
そんな私の姿に、フレデリックさんはため息をつきました。
「……その問いに答えることは出来ない。だが、終わらせることは出来る」
そう言って、フレデリックさんはカサブレードを頭上高く掲げました。
「カサブレード使い。まずは、お前を殺す。そして、イーリス王女とそこの金髪の娘を殺す。それで終わりだ」
「――だからと言って! 二人が殺されると分かっていて! 私は倒れてなんかいられません!」
私はカサブレードを強く握りしめ、フレデリックさんの懐に入り込みました。
そのままカサブレードを振り上げると、フレデリックさんの頬にクリーンヒットしました。そのまま腕や身体を叩きまくります。
私の行動にフレデリックさんは大きく飛び退きました。
「……心が折れたのではないのか?」
「折れました! 折れましたが、そんなものは直せば良いんです」
いくら負の感情が心を満たしたところで、今までのメイド業務に比べれば、何ていうことはありません。
「そうです。私はいつもこうしてきました。落ち込んだら、立ち上がる。何かが壊れたら、直す。駄目だったら、改善する。それが私なんです。それが! アメリア・クライハーツのメイド魂なんです!」
フレデリックさんに叩かれまくって、身体も服もボロボロです。ですが、折れていない、負けていない、こんなものメイド業務に比べたら全然です。
私は、まだやれます。
その瞬間、私のカサブレードが暖かな光に包まれました。
優しくて、力強い。心なしか、痛みが和らいでいるような気がします。
「その輝き、カサブレードとの同調率が更に上がったというのか……!」
「やぁ!」
カサブレード同士がぶつかります。軽い。手応えが軽くて、少し力を込めるだけで、押し込むことが出来ました。
「くっ……!」
フレデリックさんを吹き飛ばし、岩壁に激突させます。フレデリックさんが吹き飛んだとの同時に走っていた私は、再びフレデリックさんの身体にカサブレードを叩きつけました。
岩壁にクレーターが出来ます。今の私がなんでこれだけの力が出せるのかは分かりません。ですが、これはチャンスです。
今までやられていた分を叩き返し、私は一度離脱します。
「はぁ……! はぁ……!」
「俺が一方的にやられた、か。カサブレードの出力はそれほどのものなのだな。――だが、それだけだ」
「――っ!!」
気を抜いた瞬間、身体に激痛が走ります。身体がバラバラになりそうな感覚です。意識を研ぎ澄ませると、身体の痛みが徐々に消えていきます。
原因不明の激痛。理由次第では戦闘継続が困難になります。必死に頭を働かせていると、フレデリックさんがその原因を教えてくれました。
「激痛に包まれているだろう。そのはずだ、カサブレードの出力に対し、お前の身体が受け止めきれていないのだ」
「な……!」
「もう良いだろう。休め」
フレデリックさんの声が
咄嗟に振り返り、カサブレードを盾のように構えます。直後、強烈な突きが私のカサブレードに襲いかかりました。
「休めません! それに、この身体の痛みがそれだけなら、
「くっ……! その執念はどこから来る!? 何度打たれても立ち向かってくるその執念、どこで培った!?」
「メイドです!!」
そこからは気合いの勝負でした。互いにノーガードの殴り合い。私は防御を捨て、フレデリックさんを叩き続けます。
元より小手先の技で勝負なんて不可能。ならば、絶対に攻撃が当たるこの距離で戦うしかありません!
何故フレデリックさんがそれに付き合ってくれるのかは分かりませんが、今はこのチャンスを掴みきるだけです。
何十回打ち合ったかは分かりませんが、ある時、フレデリックさんの方から離れました。
「カサブレード使い、お前の覚悟は俺の身体に響いた。ならば、俺も相応の力で完勝させてもらう」
フレデリックさんの纏うオーラが更に増大します。
ですが、私は今、フレデリックさんをあまり見ていません。じりじりと位置を変えるマルファさんとエイリスさんに夢中です。
マルファさんが手に持っている物を見て、私は本当の最後の作戦を悟ります。