私は再びフレデリックさんに接近します。フレデリックさんも向かってきます。
ですが私はカサブレードを振るわず、フレデリックさんに抱きつきました。
フレデリックさんが振りほどこうとしますが、今の私ならそう簡単に力負けしません。
「エイリスさん! マルファさん!!」
エイリスさんが片手を突き出すと、フレデリックさんの四肢に雷の鎖が絡みつきます。
何かを悟ったフレデリックさんが膝で、私を蹴り飛ばします。
そうしている間にマルファさんがフレデリックさんのがら空きの背中へ、ディートファーレさんの小筒を向けます。
「ぶっ飛びな!」
小筒からディートファーレさんの魔力砲撃が放たれました。
身をよじらせ、その砲撃を見たフレデリックさんが表情を曇らせます。
「あれは我が姉の……! ちぃ!」
フレデリックさんはなんとカサブレードを持っている腕を無理やり動かしていました。なんという剛力でしょう。雷の鎖が悲鳴をあげています。
(あれ?)
私はディートファーレさんの砲撃を見て、何かの鍵が開いたような感覚を覚えました。
無意識にカサブレードの石突部をフレデリックさんへ向けていました。
「カサプロテクト……! これでも我が姉の魔力砲撃を食い止めるので精一杯か!」
フレデリックさんの視線が一瞬、私の方に移ります。そして、私のカサブレードを見て、驚きました。
「カサブレード使い、それは……!」
「これは皆の力です。皆がいたから、私はこの光に辿り着きました」
カサブレードの先端に魔力が集まり、巨大な球状になっています。しっかりと狙いをつけ、私はカサブレードに力を込めます。
カサブレードが教えてくれたので、私はこの形態を
これはカサブレードの砲撃形態。先端に私と周囲の魔力を集め、解き放つ。そう、その名は――!
「カサバスタァァァー!!」
カサブレードから魔力が解き放たれました。少しのズレもなく、魔力砲がフレデリックさんに襲いかかります。
負けじとフレデリックさんも空いた手で防御魔法を使います。
「ぐぅぅぅぅ! ここに来て、カサブレードの力を解放するとは……!」
「負けない! 私はここで全力を出し切る! 出し切るんだぁー!」
「カサブレード使い! お前と俺の根比べだ! どちらが尽きるか!」
そこでマルファさんが叫びます。
「アメリア! ここで気合い入れないで何がメイドだ! 頑張れ!」
エイリスさんも叫びます。
「そうだよアメリア! それに君は一人じゃない! ボク達がいるんだ!」
そうです。そうなんです。
フレデリックさん、その発言は間違っていますよ。何故なら――!
「フレデリックさん! 貴方の言葉を否定します! 貴方と私
全身の力をカサブレードに注ぎ込みます。視界がクラクラとしてきました。魔力が尽きそうになっているのでしょう。
魔力とはこの世界の大気と、個人の精神力と生命力が混ざりあった存在。それがなくなれば、きっと私は危ないでしょう。
ですが、今は!
「アァァァ!!」
全ての魔力を絞りきり、魔力砲は一段と大きさを増します。
「よくこの戦況を覆した! そして認めよう! 俺の敗北を!!」
フレデリックさんが光に包まれます。
ディートファーレさんと私の魔力砲撃は周囲を抉り、岩壁を貫き、大穴を作り出しました。
魔力砲撃が完全に通り過ぎた後には、フレデリックさんが片膝をつき、カサブレードを支えにしていました。
「はぁ……はぁ……! か、身体に力が入らない……」
「アメリア! 魔力の使いすぎだ! ほら、飲め。魔力の再生産をしやすくする薬だ」
私はそこで明確に死の影を見ました。心臓がバクバクし、呼吸が苦しいです。頭痛や吐き気もしてきました。
そのときマルファさんが私の口を無理やり開け、液体を流し込みました。その味の酷さに、思わず吐き出しそうになりました。甘さと苦さが共存した、嫌な味となっています。
ですが、その効果は絶大で、完全回復とはいきませんが、身体の不調がいくらか和らぎました。
「ありがとう、ございます……」
「限界以上に魔力を振り絞ったんだ。もう少し消耗していたら、本当にやばかったぞ」
「アメリア、無事かい?」
エイリスさんも駆けつけてくれました。三人揃ったところで、私はゆっくりと立ち上がり、フレデリックさんのところへ歩いていきます。
「フレデリックさん、私達の勝ちです」
「あぁ、そのようだ」
フレデリックさんが自分のカサブレードを放り投げると、光の粒子となり、溶けて消えていきました。
「フレデリック軍団長、君には色々と聞きたいことがある。抵抗はしないでほしい」
「抵抗はしない。勝者の言うことに従おう」
エイリスさんとフレデリックさんとのやり取りを聞き、戦闘終了を確認した私は、意識の糸がぷっつりと切れてしまいました。
倒れこそしませんでしたが、地面に膝をついてしまいます。
マルファさんとエイリスさんが心配して駆けつけてくれましたが、頭がぼーっとして上手く返事が出来ません。
「勝負はついたようね」
声の主はディートファーレさんでした。
ディートファーレさんは真っ直ぐフレデリックさんの元へと向かいます。
「フレデリック、来てもらうわよ。逃げるつもりなら、それ相応の対応はさせてもらうけどね」
「抵抗するつもりはない。……もっとも、姉さんの拘束魔法を掻い潜って逃げようとは思わないがな」
「分かっているじゃない。ようやくフレデリックと話した感じがするわ。その辺も含めて説明してくれるんでしょうね」
「無論。そこのカサブレード使いも知らなければならないことだ」
二人の間には険悪な雰囲気はもうありませんでした。というより、フレデリックさんの表情が少しだけ優しくなっているような気がします。
全てが終わったのです。
ディートファーレさんが用意してくれた馬車に乗り込み、私達は王都へ帰ることになりました。
死闘だっただけに、何だか久々に帰るような錯覚に陥りました。