私達はサンドゥリス王城の前にいます。
私が見た太陽の魔神に関する夢をディートファーレさんに話したほうが良いという意見で一致したのです。
サンドゥリス王城。
普通なら簡単に入ることは出来ません。正門には衛兵がいて、身分確認を行っています。当然ですが、用がなければ立ち入ることは出来ません。
ですが、私達なら大丈夫。なにせ、エイリスさんがいるのですから!
「ボク達はディートファーレ軍団長に呼び出された者だ。通して欲しい」
「え? エイリスさんどうして……?」
そこで私は思い出しました。
エイリスさんが王女だということは最高機密の情報だと、以前ディートファーレさんが言っていました。
きっとここの衛兵もそのことを知らないのでしょう。
衛兵は私達のことを怪しんでいます。当然ですよね、いきなり三人でやってきて、ディートファーレさんに会わせろだなんて、怪しさしかありません。
何か良い手がないか考えていると、奥からディートファーレさんが現れました。
「あら、アメリアたち。
ディートファーレさんが衛兵たちに何かを話すと、すぐに道を譲ってくれました。
ディートファーレさんが手招きしたので、私達はそれに従います。王城の廊下は立派なものでした。掃除が行き届いており、ホコリ一つありません。
ここを掃除している方とお話をしてみたい気持ちでいっぱいです。……それはそれとして。
「ディートファーレ軍団長! お疲れ様です!」
「お疲れ様。貴方の部隊、近々魔物討伐の遠征に行くわよね。国民のため、しっかり槍を振るいなさい」
「はっ! 肝に銘じます!」
「軍団長! お忙しいところ申し訳ございません! 急ぎの決裁がございます!」
「見せてみなさい。……うん、内容は理解した。ここでサインをするから、対応よろしくね」
「ありがとうございます!」
「軍団長!」
「ディートファーレ軍団長!」
「ディートファーレ様!」
ディートファーレさんが歩く先々で軍人と思わしき方々が話しかけてきます。そしてディートファーレさんは次々と解決していき、絶対に案件を後回しにしません。
その後ろ姿を見ていた私はカッコいいなぁ、という気持ちでいっぱいでした。
ようやく人も捌け、ディートファーレさんの執務室にやってきました。
「あぁ~……疲れた。アメリア、紅茶を淹れてくれないかしらぁ……」
椅子に深々と座り、私に紅茶を求めてきます。もちろん奉仕は大好きなので、二つ返事で了承しました。
私にとっての最速で紅茶を淹れ、ディートファーレさんに差し出します。
「っかー! これこれ、効くぅ」
ゴッゴッゴッとまるでジョッキに入った酒を飲むかのように、ディートファーレさんは一煽りで飲み干してしまいました。
そしてまたまたジョッキのように、ドンとカップを置き、一息つきます。
それを見ていたエイリスさんがジトーっとした視線を送ります。
「ディートファーレ、品がない」
「品で紅茶は美味しくならないわ。喉を鳴らして一気に飲み干す。これが淑女の嗜みってやつよ」
「はぁ……ああ言えば、こう言う」
「普段貴方のお父様と語りあっていれば、こうもなるわよ」
「ここにいるのがアメリアとマルファじゃなければ、相当立場が悪くなる発言だよ、それ」
「アメリアとマルファがいるから話しているんですぅ」
エイリスさんとディートファーレさんは昔からこんな感じでやりあっているだなというのが良く分かります。
私がそのやり取りを見ていると、ディートファーレさんは私達とエイリスさんの顔を見比べます。
「で、貴方が
「そういうこと。気になるなら帽子でも脱ごうか?」
「止めてちょうだい。その状態で喋ってくれたほうがまだマシよ」
思わず私はどういう意味か聞いてしまいました。
すると、ディートファーレさんはどこか暗い微笑みを浮かべます。
「イーリス王女の口調でこんなこと言われるのよ? まだこっちのほうがダメージ浅くない?」
私はイーリス様状態で今の発言を振り返ってみます。
――ディートファーレ、品がありませんわ。
――はぁ……ああ言えば、こう言うのね。
――ここにいるのがアメリアとマルファじゃなければ、相当立場が悪くなる発言よ、それ。
あぁ、ダメージがすごそうです。丁寧な分、じっくりと心が痛くなる感じがします。
すると、マルファさんは何を想像していたのか、笑いをこらえていました。
「……マルファ、何だい? 何を想像したんだい?」
「や、お前って窓際を指でツーってなぞって、『埃がありますわよ。とても丁寧な掃除ね』とか言ってそうだなって」
「し、失礼な! そんなことしていません!」
「え、エイリスさん。イーリス様が出ています」
「……こほん。失敬」
でも、マルファさんの言うことも少し分かりました。そういう役でも演じたら、きっとすごく上手に演じるのだろうなと思います。
「それで? 貴方達は一体どんな用で私のところに来たのかしら?」
「そうでした。私達はディートファーレさんに会うために来たんでした」
「何を話に来たのか忘れるところだった。どっかの王女様のせいだぞー」
「なぁ!? なんで、ボクのせいになるんだ!? マルファが余計なことを言わなければ!」
「ディートファーレさん! 代表してこのアメリアが話します! はい!」
私は大声でマルファさんとエイリスさんの会話を遮ります。このまま続けていたら、永遠に終わらないので、無理やり会話を終わらせることにしました。
夢のことをディートファーレさんに話します。
太陽の魔神のこと、フレデリックさんのこと、あのカサブレードのこと等。あの夢で得た情報は全てディートファーレさんに伝えます。
ディートファーレさんは黙って、私の話に耳を傾けてくれました。
話を終えると、ディートファーレさんはおかわりの紅茶が入ったカップを持ち上げ、また一気に飲み干します。
「なるほど。話は分かったわ。ならその話を更に深めることにしましょう。私についてきて」
私達はどういうことか分からず、互いに顔を見合わせました。