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第67話 ヒートアップ

 翌日、私達は早速ライテムへ向かっていました。

 ヴェノムスネークの情報は真実だったようで、馬車を斡旋する業者さんからは「危険だ」と止められましたが、なんとか馬車を出してもらいました。


「はーやっぱ馬車旅は良いよなぁ。これで目的が毒蛇退治じゃなかったら、もっと良かったんだけどな」


 マルファさんは元々遠出するのが好きなようで、口では悪態をつきながらも上機嫌そうでした。

 そんなルンルン気分のマルファさんとは真逆で、エイリスさんは何やら考え込んでいる様子でした。


「もしかして具合が悪いんですか?」

「ん? あぁ、心配してくれてありがとう。けど、体調は万全だよ。……ちょっとヴェノムスネークのことを考えていたんだ」

「対策とかですか?」

「それならもう考えている。そうだ、先に渡しておこうか」


 すると、エイリスさんは足元に置いていた袋から、お面のようなものを取り出しました。

 顔全体を覆うような大きさで、口元には筒のようなパーツが取り付けられています。着用する、というのは分かるのですが、これが何を意味しているのか、全く分かりません。


「これは〈浄化マスク〉という。ボクの行きつけの魔具商店から購入したものだよ。筒の先端には魔力を流せば、浄化の魔法が発動する魔力石が仕込まれているんだ」

「へぇ! これがありゃヴェノムスネークなんて楽勝だな!」


 私もマルファさんに同意見でしたが、エイリスさんは首を横に振りました。


「あくまで毒の霧対策だけ、というのを覚えておいて欲しい。ヴェノムスネークの放つ毒の霧のせいで、ボク達は戦いの舞台にすら立てないのだから」

「マイナスからゼロにしたってだけか。まぁでも十分だわな」

「着用するタイミングはあとで話し合おう。いきなりこのマスクを着用して村に入るわけにはいかないしね」


 それから雑談したり、少し仮眠を取っているうちに、私達はライテムに到着しました。

 登山を覚悟していましたが、道が整備されていたので、直通で村に着くことが出来ました。後から聞けば、農作物を運搬する都合上、道の整備は村の最重要事業だったそうです。

 馬車から降りると、おじいさんが近づいてきました。


「おぉ、ようこそライテムへ。久々の客人だ」

「初めまして。ボク達は訳あってこの村へやってきました。この村の長へご挨拶をしたいのですが、どちらへ行けば良いでしょうか?」


 こういう時、私は緊張してしまうので、エイリスさんは本当に頼りになります。


「私が村長だ。改めて歓迎しよう旅の者たちよ。それで、訳とは?」

「最近、毒を放つ魔物が現れたという話を聞き、ボク達でなんとか出来ないかと思い、参りました」

「何と……すると、君たちが彼の言っていた者達か」


 彼、という単語に思わず私達は顔を見合わせました。


「あ、あの村長さん。その彼というのはもしかしてオレンジ髪の男性ですか?」

「その通りです。彼は私達にこう言いました。『もうすぐこの村を照らす者達がやってくる。彼女らに協力してくれ』と」

「あいつ、そんな気持ち悪い態度だったのかよ」


 マルファさんは舌をべーっと出し、顔を歪めます。乙女のする顔ではなかったので、私は思わず村長さんからマルファさんが見えないように立ち位置を変えます。


「マルファさん、はしたないですよ……」

「だって、あんな偉そうな奴がする態度じゃねーだろ。うげー」

「もう、マルファさんったら」

「……こほん。身内が失礼しました村長。もしよろしければ、もう少し詳しい話を聞かせてもらえないでしょうか」


 場所を変え、私達は村長の家へと上がらせてもらえることになりました。

 出されたお茶で喉を潤しつつ、私達は村長の話に耳を傾けます。


「あの蛇が現れたのはそう、二週間前くらいだった」


 違和感は二週間前の早朝とのことでした。最初の違和感は収穫した農作物の様子がおかしいこと。いつものサイズではなく、やせ細り、色も悪かったようです。何かの病気を疑い、全て収穫してみると、全て同じような状態になっていたそうです。

 土に変わったところはないようでしたが、明確におかしいことがありました。


 それが、空気です。どこか鼻につくような匂い。吸っていると、だんだん気分が悪くなっていきます。

 明らかにおかしな状況だと思い、すぐに村は調査隊を結成しました。


 畑の周辺を見回っても、おかしなところはなく、調査隊は最後に村から離れたところにある礼拝堂へと向かいました。

 すると、いたのです。大きな身体をのっそりと動かしながら、毒の霧を吐き出すあの毒蛇の姿を。


 血気盛んな村の若い人たちもいました。ですが、村長さんが必死に止めたそうです。明らかに勝てない相手だ。無駄に命を散らすことはない。その一心で。


 それからのライテムは苦しい時期を迎えたそうです。毒の霧によって農作物が上手く育たず、収入にも、自分たちの食糧にもならないのだから当然でしょう。


「相当、我慢なされたのですね」


 エイリスさんの言葉で、村長が涙を流し、崩折くずおれました。

 今回の件を災害と認識し、村はすぐに備蓄を放出しました。しかし、もはや余裕はありません。

 一刻も早くヴェノムスネークをなんとかしなければなりません。


 状況を認識した私達は早速ヴェノムスネークがいるとされる礼拝堂へ向かうことにしました。


「ありがとう……ありがとう……。君達に太陽の祝福がありますように」

「つーかさぁ」


 村長の家を出る寸前、マルファさんが立ち止まります。


「なんでもっと早く軍に相談しなかったんだよ」

「そ、それは……」

「マルファさん、そういう言い方は良くないと思います」

「いーや、言わせろアメリア。おかしいだろう。二週間だぞ二週間。んな危険な魔物を認識してんならさっさと軍に助けを求めるのが筋だろうがよ」

「私達にも事情があってだな……」

「事情……事情だぁ? 農作物なんだろ? この村の生命線が脅かされてんのに、もう二週間経ってんだぞ。その事情とやらはこんな悠長を許すほどなのか?」

「うぅ……」


 私はエイリスさんの方を見ましたが、意外なことに、口を出すつもりはなかったようです。エイリスさんも同じことを思っているのでしょうか、もしくはもっと大きな目線で物事を見ているのでしょうか。


「いや、悪い。だんだん村長の言う事が不自然に思えてきたわ」


 マルファさんがヒートアップします。

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