マルファさんがわざと村長さんの近くまで歩いていき、視線をしっかりと合わせます。
「わたしの言っていること、そんなに変か?」
「い、いや、滅相もない……」
「マルファさん、言い方がキツイですよ」
私は思わず村長さんの味方になりました。マルファさんの言い方は
ですが、マルファさんは真剣な表情のままです。
「悪いなアメリア。だが、今回ばかりはキツくもなるさ。だからエイリスも黙ってんだろ」
「ノーコメントで」
口ではそう言っていますが、エイリスさんも許容していることがわかりました。
「あの、村長さん。私達に何か隠し事をしているとか……あるんですか?」
「そ、そそそんなものはない」
嫌な――返しでした。ここは淀みなく「ない」と答える瞬間だったはずです。
メイド経験の長い私から見ても、今のは
方針を変えることにしました。少しでもマルファさんがもっとキツイ言い方をする前に、全てを話してもらうことにしました。
「もしかしてわたし達のことを生贄かなんかにして、被害を食い止めようとしてんじゃないのか?」
「な! なんてことを!?」
村長さんは驚きのあまり言葉を失っていました。
このリアクションがアタリなのかハズレなのか、分かりません。
しかし、マルファさんは村長さんをじっと見るだけです。
「……ちっ。もう良い。アメリア、エイリス、とりあえずその蛇ぶっ飛ばしに行こうぜ」
思ったよりも早く、マルファさんは会話を切り上げました。
礼拝堂までの道を聞くと、マルファさんはさっさと村長さんの家を出ていきました。
私が今までの会話の感想を聞くと、マルファさんは舌打ちでもするかのように顔を歪めました。
「どーもこーもねーだろ。明らかに何かあるだろ、あの村長。なぁエイリスはどうなんだよ」
「何かあるね。確実に何かあるだろう」
「エイリスさんも思っていたんですか?」
「うん。けど、村長が主導している訳じゃない。あの感じはそうだね……誰かの言う事を聞いている感じだ」
「た、確かに」
村長さんはずっと何かに怯えているようでした。それが何なのかは分かりませんが、きっと今回の案件に関係があるのでしょう。
「あれ以上、あの爺さんを追求しても何も出ねぇ。わたし達が出来ることはさっさと毒蛇を倒して、いろんなことをはっきりさせることだけだ」
マルファさんのその男らしい結論に頷いた私達は、早速当初の目標であるヴェノムスネークがいる礼拝堂へ向かうのでした。
◆ ◆ ◆
礼拝堂までの道はきちんと整備されており、非常に歩きやすい道でした。すごく簡単な登山をしているような感覚です。
その間、私達はエイリスさんからもらった浄化マスクを着用していました。
ここは既にヴェノムスネークの縄張り。対策もなしに踏み込んで、全滅だけは避けたいのです。
「しっかし、出てこないな蛇」
対策を万全に歩いてはいますが、ヴェノムスネークの気配は何もありません。私含め、突然の奇襲にも対応できるように、周囲を警戒しながら歩いているのですが、平和そのものです。
「見た感じ、動物もいるっぽいし、この浄化マスク外しても良いんじゃね?」
「油断禁物だよマルファ。そうやって死にかけた軍の人間を何人も知っているボクから言わせてもらうと、危機感が足りないよ」
「はいはいわーってるよ。流石にわたしも毒で動けなくなって食われるなんてオチ、嫌だからね」
道を歩いているうちに、何だか周囲の気配が重く感じてきました。
いつの間にかカサブレードが私の右手に現れています。
「アメリア、カサブレードが反応しているのかい?」
「エイリスさんの言う通りだと思います。無意識に出てくるくらいだから、何かがあるんでしょうが……」
「また太陽の化身じゃねーの?」
「うーん、確かにカサブレードが反応するのは太陽の化身とか、太陽の魔神に影響された存在ですが……」
しかし、今回の相手はヴェノムスネークです。
エイリスさんとマルファさんいわく、ただの魔物とのこと。太陽の化身が絡むような魔物ではないとのことです。
全ては行ってみるしかありません。
頂上が見えたので、私達は物陰に隠れながら、礼拝堂まで到着します。
「あれが、ヴェノムスネーク?」
礼拝堂と思わしき建物の前に、大きな蛇がいました。三角形の頭に緑色の巨大な体格、そして何より鋭い牙。明らかに戦闘経験がなければ、あっという間に食い殺されるであろう相手だということが分かります。
私はどちらかというと恐ろしさというより、驚きのほうが勝っています。どうしたらこれほどまでに巨大になれるのでしょうか。
「んん? おいアメリア、エイリス。あれ、寝てるんじゃねえか?」
「……確かに、寝ているみたいだね」
私も観察してみますが、ヴェノムスネークは動く気配を見せません。というより、目を閉じており、確かに寝ているように見えます。
起きる気配はなさそうなので、一旦、作戦会議に入りました。
「見るからに毒蛇だな」
「そうだね。とはいえ、相手は魔物だ。何をしてくるか分からない以上、速やかに倒すのが得策だろうね」
「エイリスさんの意見に賛成です。この浄化マスクがいつまでも出続ける毒の霧にどこまで耐えられるか分からないので、早めに決着を付けられるのなら付けた方がいいはずです」
私の発現を聞き、マルファさんがニヤリと笑います。
「なんだよアメリア~。すっかりいっちょ前の冒険者じゃねーか」
「な、ななな! からかわないでくださいよう!」
「マルファ、おふざけはなしだ。相手の聴力がどこまで鋭いのか分からないのに、無駄話は厳禁だよ」
「へいへい。じゃあわたしは魔法の準備をするから、二人は適当に引き付けてくれよな」
こうしている間にも方針は決まっていました。
私とエイリスさんでヴェノムスネークを足止め、マルファさんの魔法で仕留めるという算段です。
私はカサブレードを出現させ、戦闘準備完了です。
「最初はどうする? アメリア突っ込むか?」
「頑張りますっ」
「ま、待とうか! あれは寝ているから、わざわざ姿を晒すメリットはないよ」
エイリスさんの視線はマルファさんに向きます。
「こうしよう。開幕はマルファ、トドメもマルファだ」
「全部わたしじゃねーか!!」
エイリスさんがたまにやる、気軽にマルファに全てをぶん投げるスタイルです。正直、私は笑顔で見ることが出来ます。