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第69話 エルダークラス

 口ではイヤイヤな感じでしたが、マルファさんはすぐに魔法行使の準備を始めました。

 マルファさんは合理的なので、エイリスさんの提案をすぐに呑んだのも、色々と納得してのことでしょう。


「んじゃあ、行くぞ。わたしがぶっ放したらすぐにやれよ」

「はいっ」

「頼むよマルファ」


 マルファさんの後方に巨大な魔法陣が現れ、そこから無数の炎の塊が飛び出します。


炎弾幕えんだんまく魔法! ぶっとべ!」


 炎弾が次々とヴェノムスネークへ降り注ぎます。

 いきなりの高威力魔法に、ヴェノムスネークは驚き、のたうち回ります。初撃の効果は十分すぎます。

 カサブレードの力で能力を底上げした私は一気にヴェノムスネークの頭部まで近づきます。

 ヴェノムスネークが反撃するよりも早く、私はカサブレードを頭部目掛けて振り下ろしました。

 すると、一瞬だけヴェノムスネークの頭部が光ったような気がしました。



『いったぁ!!!』



 どこかから、声が聞こえました。私達は一度下がり、周囲を見回しますが、特に何もありません。


「二人共、今の声、聞いたかい?」

「あぁ……今の声、どっから聞こえたんだ?」

「! あれを見てください」


 ヴェノムスネークが眠りから覚めたのか、ゆっくりと動き出します。私達の方を向きますが、すぐに動き出す気配はありません。


『あんなぁ。蛇が眠っている間に攻撃かますとかルール違反やないか?』


 先程聞こえてきた声と一緒でした。つまり、ヴェノムスネークが言葉を発したということです。

 攻撃を仕掛けてこないせいもあり、私達はしばらく呆けてしまいました。だって、言葉を発する魔物なんて、見たことがなかったのですから。


『お、無視か? 魔物とは会話をする気がないってことか?』

「し、失礼。ボクはエイリス、君はその、ヴェノムスネークかい?」

『は~綺麗な銀髪やなぁ。エイリス言うんやな。確かにワイはヴェノムスネークや。ただし、頭にエルダーが付くけどな』


 その瞬間、エイリスさんとマルファさんが大声をあげました。


「え、エルダークラスだって!?」

「マジかよ……なんでこんなところに数百年ものの魔物がいんだよ」

『金髪の嬢ちゃん、なんでワイのことをワインみたいな言い方したんや?』

「あの、エルダークラスってなんですか?」

「あぁ、アメリアは知らないんだね。エルダークラスっていうのはね――」


 魔物にも人間と同じく寿命というのがあります。ただその長さは当然違うのですが、稀にその中でも更に寿命が長い個体が発生します。

 長い時を過ごすということは、それだけ世界に満ちる魔力を取り入れられるということです。ゆっくり、かつ、長時間力を蓄えた個体は強力な力と知性を持つ事があるとされ、そういった魔物をエルダークラスと呼ぶのだそうです。


「そ、そんなすごい存在だったんですね……」

『おーそこのメイドの嬢ちゃんはワイのことを知らんかったんか。お勉強になってよかったなぁ』

「じゃーなくて! なんで、ほのぼのしてんだよ!」


 マルファさんが魔法を発動しようとしています。


「わたし達はこいつを倒しに来たんだろうが!」

『はぁー!? なんでや!?』

「散々毒霧撒いて農作物を殺してたんだろう。速やかにお引き取り願うんだよ」

『なんやそういうことか。今の状態・・・・なら、引っ込められるからええで』


 すると、ヴェノムスネークから放たれている毒霧が徐々に薄くなっていき、やがて消えてしまいました。


「はぁ!? んだ、その聞き分けの良さは!?」

『いやぁ助かったで。実はさっきまで体の言う事聞かなかったんや。でも、メイドの嬢ちゃんが頭殴ってくれたおかげで、ようやく解放されたで』


 ヴェノムスネークが舌を出し、私の持つカサブレードを指しました。


『それ、カサブレードやろ? それでワイが自由になったってことは、やっぱ太陽の魔神絡みやったんやな』

「カサブレードを知っているんですか!?」

『もちろんやないか。ワイがどんだけ生きていると思ってるんや』

「す、すいません」

『ええってええって。謝らんといて。ちなみにメイドの嬢ちゃん、名前は?』

「アメリア・クライハーツです」

『はぁ~アメリアちゃんか。かわええ名前やなぁ』


 話をしていると、マルファさんがヴェノムスネークの前に立ちはだかりました。


「顔がニヤけてんぞ、毒蛇」

『だ、だだだ~れもニヤけてないやろがい! 失礼な金髪やなぁ』

「で、なんでここにいるんだよ。聞いている感じ、ここに住みたくて住んでいるわけじゃないだろ」

『そぉ~なんよ! 聞いてくれや金髪嬢ちゃん!』


 ヴェノムスネークから色々と衝撃的な話が飛び出しました。その中でも衝撃的だったのは最初の一言です。


『ワイ、そもそも農作物以前に人様に迷惑かけたくなかったんや』


 そもそも、エルダークラスのヴェノムスネークが放つ毒霧は農作物だけでは済まないようです。本気の毒霧なら三十分かからないで村を全滅させてしまうとのことでした。

 農作物だけで済んでいるのは、ヴェノムスネークが抑えに抑え込んでいるからだそうです。


『いつもなら寄り付かんこの村に来たのだって、なーんかあの礼拝堂から嫌な気配がするからやし』


 どちらかというと村に住む人間が気になり、礼拝堂の様子を見に来ただけとのことでした。


『到着すると現れたんや、太陽の化身と名乗る奴がな』

「! 太陽の化身……!」


 太陽の化身から強力な思念波を受けた直後から、体が言うことを聞かなくなったそうです。

 幸いにも、エルダークラスになるまで力を付けていたヴェノムスネークにとって、完全に支配を受けるほど強力なものではなかったおかげで、今に至るというわけです。

 この手口は、太陽の魔神と全く同じでした。フレデリックさんのときと状況が似ています。


『あんたらにお願いがあるんや。礼拝堂にいる太陽の化身を何とかぶっ飛ばしてくれんか? 毒霧は出さないようにコントロール出来るようになったんやけど、あのちょこざいな思念波のせいで、この礼拝堂の前から動けないように命じられているんや』

「そいつを倒せば、お前はいなくなるんだな」

『もちろんや。ワイ的には人間を襲うメリットなんて、なーんもあらへんしな。むしろ、娯楽代わりに、たまに人の会話を聞かせてもろてるから、ワイにとってはデメリットしかあらへん』


 今までの話を聞いていて思いましたが、なんという人間味溢れる魔物でしょうか。もしかしたら人間より人間らしいかもしれません。

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