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第70話 第四の太陽の化身

 私達は少し話し合うことにしました。


「うん、まぁ……太陽の化身がいるんなら、ぶっ飛ばすのは良いとしてよー」

「マルファさん、納得出来ていなそうですね?」

「なんつーか。肩の力が抜けたというかなんというか」

「マルファの言うことも分かるかな。倒そうと思っていた相手が実は被害者で、本当の敵が別にいたんだからね」


 私達は浄化マスクを脱いでいました。ヴェノムスネークは確かに毒霧を出さないようにしてくれたみたいで、空気がとても美味しいです。

 それだけに、ヴェノムスネークのあの台詞が頭に残ります。


 ――ワイは穏やかに過ごしたいだけなんや。同じ魔物とも、そして人間ともまぁまぁやっていければ、それでええんや。


 私は改めて、太陽の化身と戦うための覚悟を決めます。


「じゃあ、礼拝堂ごとぶっ放すか」

「駄目だよ。礼拝堂が壊れてしまう」

「じゃあ私が行きますね」


 カサブレードを出現させた私はそのまま礼拝堂の扉を開きます。


「太陽の化身、いらっしゃいますか!?」

「アメリア……まるでマルファのような脳筋ぶりじゃないか」

「誰が脳筋だ、誰が」


 外観から想像がついていましたが、礼拝堂は広く。長椅子がたくさんありました。

 奥にはまるで女神様を思わせる女人像がありました。そして、私達は発見してしまいます。

 そこにまとわりつく何か・・を。



「日輪に照らされ、降臨せし。ワシの名はファイアール。この女神像の破壊を命じられた太陽の化身なり」



 ユリを思わせるような頭部、そして蛇のような体躯。

 四体目の太陽の化身でした。


「……んん? 何か妙だな」


 マルファさんが違和感を感じ取ったようです。


「なぁエイリス。今、あの蛇野郎なんて言った?」

「何って、女神像の破壊を命じられたって……あっ、そういうことか」

「カサブレードの破壊じゃないですね」


 今までの太陽の化身は口を揃えて、カサブレードの破壊を目的としていました。

 ですが、このファイアールは違います。カサブレードの破壊を口にはしなかったのです。

 私はファイアールへ呼びかけました。


「私はカサブレードのアメリアです! 貴方を倒しに来ました!」

「カサブレード、そうか。ワシの目的はこの女神像の破壊だ。ちょっかいをかけぬのなら、見逃してやる」


 ファイアールはただ女神像の絡みついているわけではありませんでした。女神像を粉砕しようとしているのでしょう。

 しかし女神像に変化はありません。流石にあの巨体で締め付けられてしまえば、砕けてしまいそうなものなのに……。


「みんな、あれを見てくれ」


 女神像とファイアールの間に何か力場のようなものが発生していました。

 きっとあれが壁のようなものになって、ファイアールの破壊を許していないのでしょう。


 とはいえ、それが分かったところで、この妙な状況の全てが分かったわけではありません。


 今度はマルファさんが呼びかけます。


「うーん? なぁ、お前はカサブレードを破壊しないのかよ!」

「ワシが作られた理由に入っていない。だからワシはお前たちを滅しない。邪魔をするのなら別だがな」

「外のヴェノムスネークが精神操作を受けてたみたいだけど、あれはお前がやったのか!?」

「然り。人間が寄り付くと目障りだ。故に、あのエルダーを壁とした。ついでに人間を殲滅してくれると都合がいい」


 なんて身勝手な理由でしょう。自分だけの都合で、色んな人に迷惑をかけるだなんて!

 私はカサブレードを握りしめ、ファイアールへ駆け出します。

 走った勢いをカサブレードに乗せ、ファイアールの体を叩きました。しかし、ダメージを受けた様子はありません。


「愚かな。カサブレードは確かにワシにも有効だ。だが、それだけだ」


 ファイアールの体から球体が飛び出します。咄嗟にカサブレードで防ぎます。私は一度離れてカサブレードを構え直します。


「次はボクがやってみよう」


 エイリスさんがファイアールへ手のひらを向けます。


「雷撃魔法!」


 手のひらから電撃が放たれました。ファイアールは避ける様子もなく、雷が直撃します。少しだけダメージが入っているようにも見受けられます。しかし、これが決定打にはならないことは感じました。

 再びファイアールの体から球体が飛び出します。今度はエイリスさん目掛けて飛んでいきます。


「おっと」


 エイリスは軽々と避けました。ですが、それで終わりではありません。


「エイリスさん、後ろ!」

「なっ!」


 何と球体は軌道を変え、エイリスさんの背中にぶつかったではありませんか。


「くっ、油断した……!」


 背中を押さえて、立ち上がるには少し時間がかかりそうです。

 そこで私は疑問を持ちました。

 さっきの球体、確かにそこそこ威力は強かったのですが、そこまでの威力だったでしょうか?

 エイリスさんは体力もあるため、あれくらいで動けなくなるというは少し、考えづらかったです。


「……まさかな」


 マルファさんが小さく呟くと、ファイアールの体へ魔力弾を放ちました。

 ファイアールの体に当たると、すぐに消滅してしまいました。再び球体がファイアールの体から飛び出し、マルファさんへ襲いかかります。

 マルファさんは動きません。そのままマルファさんの体へ球体が直撃します。


「なるほどな。やっぱりか」

「マルファさん、大丈夫ですか!?」

「あぁ、心配ねーよ。大丈夫なように威力を抑えたからな」

「何か分かったのかいマルファ?」

「あぁ、どうしてあいつの攻撃の威力に違いがあるのか分かったよ」


 マルファさんの見解としてはこうです。

 ファイアールは受けた攻撃をそのまま、もしくは威力を少し上乗せして返して・・・いるのだと。

 だから私やエイリスさん、マルファさんへの攻撃にバラつきがあったのですね。流石はマルファさん、見るところが違いますね。


「そういうことか。確かにそれなら色々と納得できるよ」

「た、叩くだけで良かったです……」

「みんな、初手で強い攻撃をしなくて良かったな。下手すりゃ全滅していたぞ」

「だからといって、このままで良いわけでもない」

「そういうことだ。だから策を練るか、エイリスが」

「ボクがかい?」


 マルファさんは思いつきで言っているわけではないようで、真剣な表情でした。


「あぁ、お前ならわたしとアメリアを上手く使えるだろ? だから良い策を頼むな」


 マルファさんはニッと笑い、エイリスさんへ丸投げをしました。

 ですが、エイリスさんの口から拒否の言葉は出ませんでした。


「任せてくれ」


 代わりに、力強い承諾が出ました。

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