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第71話 ディートファーレ直伝

 ファイアールの体から球体が飛び出し、マルファさんへ襲いかかります。


「ってぇなぁ!」


 球体はマルファさんの腹部に直撃し、悶絶していました。

 マルファさんが放ったのは氷弾魔法です。少し大きめに、少し多めに魔力を込めてみた結果、この有り様でした。

 これはエイリスさんの指示です。どういう攻撃をしたら、どれくらいの威力で返ってくるかの見極めです。

 じっと見つめていたエイリスさんはファイアールの反撃・・を分析しているようです。


「二秒後にあの球体は飛び出てくるようだ。けどどれくらいの威力で返ってくるのかはまだわからない。……いや、この際、威力は置いておこう。どの道、強い攻撃は必須なのだから」


 エイリスさんが問題としているのは、攻撃というよりも、その後・・・のようでした。

 確かにどれだけ強い攻撃が出来ても、自分が死ぬかもしれないと考えると、身長にならざるを得ません。

 私の個人的な理想は、こちらが死にかけて、向こうが倒れる。……ですが、そのギリギリは一体どうやって見極めたら良いのかという話です。

 何となくカサバスターならイケそうな気がします。けど、威力のコントロールが出来ないので、盛大な自殺になる可能性が大いにあります。


「あとは物理的な攻撃というのが中々辛いね。確実にボク達の体へダメージを積み重ねてくるから、そう何度も実験は出来ない」


 そうしている間にもファイアールはひたすら女神像を締め上げていました。今はなんらかの障壁が遮っているのでしょうが、いつかは壊れるような気がしてなりません。

 それに、ファイアールの目的はあの女神像の破壊と言っていました。なら、その目的を達成してしまったら?

 本格的に私達へ襲いかかってきそうな予感がするので、悠長にしていられません。


「わたしが防御魔法でも使うか?」

「マルファの防御魔法は有効だと思っている。だけど、ボクはなんだか容易く突破してきそうな気がしてならないんだ」

「まぁ……言いたいことは分かる」

「うーん……もっと強力な防御手段があれば良いんだけど」

「あ」


 思わず声を上げてしまいました。エイリスさんとマルファさんが怪訝そうな顔でこちらを見ています。

 しかし、それもつかの間のことでした。すぐに二人は察したのか、表情が一変しました。


「そういや、そうだよな。アメリア、お前がいたよな」

「見事な気づきだね、アメリア。おかげでぼんやりと浮かんでいた作戦が固まったよ」


 言葉通り、エイリスさんはすぐに私達へ作戦を共有してくれました。

 なんともシンプルな作戦でした。ですが、それ以上の作戦はないように思えます。


 私達はその作戦でいくことを決め、早速準備に取り掛かります。


「アメリア、マルファ、準備は良いかい?」

「オーライ」

「いけます!」


 ファイアールは私達が何か大きな動きをしようと感づいたようです。


「愚かな。ワシの反撃をあれだけ受けてもなお、挑もうとするのか。哀れなり人間よ」

「そんな哀れな人間にしてやられんだから、お前はもっと哀れだよな!」


 マルファさんが魔力を高めます。それに続くように、私もカサブレードの先端をファイアールへ向けます。


「アメリア、チャンスは一回きりだ! 気合入れろよ!」

「はい!」


 マルファさんの背後に巨大な魔法陣が出現します。これはディートファーレさんから教えてもらったとっておきの攻撃魔法だそうです。

 そんな必殺魔法に私のカサバスターの力を乗せ、一撃でファイアールを倒す。これが私達のプランです。

 当然、そんな攻撃をすればファイアールの反撃はとんでもないことになります。ですが、それに対しての答えはすでに用意しています。


「くらえ! ディートファーレ軍団長直伝のぉ! 〈魔力炸裂砲〉!」

「カサバスター!!!」


 私は魔法陣から解き放たれたモノに目を疑いました。放たれたのは細い光だったのです。あれで、どうやってファイアールを倒すのでしょうか?

 ですが、私は信じるだけです。カサブレードに最大限の力を込め、カサバスターを撃ちました。

 先にカサバスターがファイアールに直撃します。ここまでは予定通りです。


「ぬぅ……! これがカサブレードの力か!」


 流石のファイアールもカサブレードの攻撃は効いているようです。


「だが、足りぬな! ワシはこの程度では滅びぬぞ!」



「そうかい。なら、この程度以上・・をプレゼントしてやるよ!」



 カサバスターの後に、マルファさんの光が到達しました。




 次の瞬間、音が消え、ファイアールの体がどんどん膨れ上がっていきます。




「何だ! ワシの身に何が起きている!?」

「お前には教えねーよ。滅びな」


 ファイアールの体に亀裂が入ります。そこからどんどんカサブレードの力が流れ込み、やがて、ファイアールの体が崩れ落ちていきます。


「そうか、魔力を極限まで凝縮し、魔力の粒一つ一つに増殖魔法を仕込んだのだな」

「せーかい。けど正確には複製魔法も込みだ。それでお前の体が限界を迎えるまで魔力を流し込んだ」

「ワシは滅びゆく。だが、一人はもらっていくぞ」


 ファイアールの体から球体が飛び出しました。


「さらばだ、そして誰かは知らぬが、待っているぞ」


 これが最後にして、最大の反撃です。直撃すれば、死確定。

 そんな死の具現化を相手に、私はみんなの前に立ちました。


「カサプロテクトォ!」


 ファイアールの反撃に対する回答。それは絶対防御であるカサプロテクトを使用することでした。

 球体がカサブレードに直撃します。瞬間、衝撃が私の手を伝わり、脳にまで響いてきます。


「うぅぅッ!!」

「アメリア! 頑張れ!」


 エイリスさんが私の背中を押してくれます。


「歯ぁ食いしばれよアメリア! 気合い入れろ!」


 マルファさんも私を押してくれます。二人の体温が伝わってきます。

 これで失敗したら、申し訳が立ちません。ここはメイド時代に教わった気合の入れ方を実行するときです。



「メイド魂ィー!!!」



 静かになった礼拝堂に残ったのは、私達三人だけでした。

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