「や、やってしまいました……」
礼拝堂自体は無事だったのですが、女神像が壊れてしまいました。かろうじて原型を留めていますが、悲惨な姿になっています。あれだけファイアールが密着していたので仕方がないと言えば、仕方がないのですが、良心が痛みます。
突然、エイリスさんが女神像の胸の部分を指差します。
「あれを見てくれ、何か光っていないか?」
言われるがまま見てみると、確かに何かが光っています。
「ありがとうよ。厄介な奴を倒してくれて」
声のした方へ振り向くと、なんとサンハイルさんが立っていました。
エイリスさんとマルファさんはすぐに攻撃準備に入ります。
「……外のヴェノムスネークはどうした?」
「あの蛇か? ちょっと大人しくしてもらったわ」
「なんで君がここにいるんだい? ボク達の戦いをずっと見ていたのかな?」
「ご明察。お前らがきっちりファイアールを滅ぼせたか確認しときたくてね。とはいえ、それはオマケさ」
「? それはどういう――!?」
私達の目の前からサンハイルさんが消えていました。
「アメリア! エイリス! あれ見ろ!」
いつの間にか、女神像の胸の辺りにサンハイルさんがいました。そして、そのままサンハイルさんは先ほど光っていた場所へ腕を突っ込みます。
「本当にありやがった」
サンハイルさんが握っていたのは、太陽の刻印が施されたブレスレットでした。
「サンハイルさん! 貴方の目的は何だったのですか!?」
「こいつさ。このブレスレットはな、太陽の魔神の分体とも言える代物だ」
「何だって!? 何でそんな物がこの村に!?」
「銀髪嬢ちゃんの疑問はもっともだわな。じゃーお礼代わりに教えてやるよ。そもそものこの村の存在理由をな」
すかさずマルファさんが毒を吐きます。
「随分と訳知り顔じゃねーか。そんなに知識マウント取れて嬉しいのか? あ?」
「金髪よぉ……聞ける時は大人しく聞こうな? 社交性ってのは磨き得だからよ」
「……ちっ」
これ以上の挑発は本当に口を閉ざすと考えたのでしょうか? マルファさんは舌打ちをした後は、口を閉ざしました。
「いいねぇ。じゃあこのライテムについて、教えてやろう。一言で言えば、ここは太陽の魔神が己の分体を隠すために作り上げた村だ」
「まさか……! この国の歴史書にはそんなこと、一行も書いていないぞ!」
「そりゃそうだろう。太陽の魔神が自らの手で作り上げるように仕向けたんだからな」
ここまで来ると、私もすぐに察することが出来ます。おそらく太陽の魔神は手当たり次第に精神操作を行い、作らせたのでしょう。
「そしてここに住んでいる者は自然とこの礼拝堂で祈りを捧げることになっている。何でか分かるか?」
エイリスさんが即答しました。
「祈りは力となる。太陽の魔神は人間の信仰力も力の一つとしているんだね」
「そういうことだ。別になくても良いんだろうけどな、まぁそれでも無いよりはあったほうがマシなんだろうさ」
サンハイルさんは女神像から飛び降り、私達の前に着地します。太陽の光に照らされ、ブレスレットは美しく輝いていました。
「さて、と。これでお前たちの役割は終わりだな」
「ちっ。やっぱりそんなことになるよな」
「みんな、戦闘準備だ」
サンハイルさんがブレスレットの着いた腕を空高く掲げます。
「こいつのテストをさせてもらうぞ。ご意見ご要望をくれ」
ブレスレットが光輝いた次の瞬間、サンハイルさんは腕を勢いよく振りました。するとブレスレットは形を変え、巨大な三日月状に変化しました。三日月状のブレスレットは高速で私達に襲いかかります。
私は咄嗟にカサプロテクトを使用し、攻撃を防ぎます。一瞬だけ拮抗しました。ですが、ブレスレットの力は凄まじく、あっという間に私達は礼拝堂の外まで吹き飛ばされてしまいました。
「なんっ……で!? カサプロテクトごとやられちゃいました!」
「その程度か? あ? カサブレードの力、その程度か?」
サンハイルさんはゆっくりと現れます。
「まずい……ちょっと規格外だねこりゃ」
エイリスさんのこめかみから汗が流れていました。
マルファさんも同様の意見のようで、厳しい表情を浮かべていました。
『おいこら、こっち見んかい!』
サンハイルさんの背後からヴェノムスネークが現れました。ヴェノムスネークは口から毒のブレスを吐き出し、そのまま私達の元までやってきます。
『何ちんたらしてるんや! はよワイのどっかに掴まれ!』
言われるがまま、私達はヴェノムスネークの体に掴まりました。すると、一瞬で礼拝堂が遠のきます。なんという速さでしょう。これがヴェノムスネークの機動力なのですね……。
高速で動き、毒のブレスを吐き出し、毒霧も出せる。……私達、良くヴェノムスネークと戦おうと思いましたね。
『ふぅ……ここまで来れば、まぁまぁ安心やろ』
私達が連れてこられたのは洞窟でした。しかし、流れる空気が澄んでいるような気がします。ただの洞窟ではないのでしょうか。
『間に合って良かったわぁ』
「あの、ここはどこなんですか?」
『ワイの領域や。隠蔽魔法も使っているから、すぐにバレることはないで』
「すげぇ……流石はエルダークラスの蛇だな」
「ちょ、マルファさん。言い方言い方」
『ええんやで。キミらはワイの恩人やしな。多少の失礼には目をつむるで』
そう言いながら、ヴェノムスネークはチロチロと舌を出していました。
「恩人、ということは君はもう自由になったんだね」
『おかげさまでな。まさか本当にあいつを倒せるとは思ってなかったで』
「なぁヴェノムスネーク。お前はあのサンハイルって奴のことはなんか知ってんのか?」
『知らん。けどビビったわ。あいつ人間やろ? なんでただの人間が太陽の魔神と似たような気配を持ってんや? マジでイミフやで』
流石のヴェノムスネークもサンハイルさんのことは知らなかったようです。
そんな話をしている間にも、一応外に注意を向けていましたが、サンハイルさんの気配はありませんでした。
追うのを諦めたのか、そもそも追う気すらないのか、それは不明です。
「あいつ、あれで目的を果たしたみたいだし、これからどうするんだろうな」
「そうだね。自然に考えるなら、太陽の魔神を復活させるために何らかの行動をするだろうけど……」
「また私達の前に現れるのでしょうか……」
『はぇ~キミらも大変やね。それにしても太陽の魔神かぁ。そういやあいつは元気なんかなぁ』
「あいつ? 誰のことですか?」
『太陽の魔神の研究をしている博士や』
その言葉に、私達は食いつきます。
「だ、誰なんだい!? その方は!?」
『ちょ、銀髪嬢ちゃん! いきなり体揺らされるとビビるわ!』
「あの、お願いします! 教えて下さい! たぶん、私達に必要な方なんです!」
『教える! 教えるつもりやから皆落ち着け!』
結局サンハイルさんに騙され、良いように使われるという結末になった私達。
ですが、タダでは終わりません。サンハイルさん、そして太陽の魔神という強大な存在を前に、私達は次の行動を開始します。