「あぁぁぁぁ」
アメリアです。突然ですが、限界を迎えました。
「お世話を……ご奉仕をしたいです……」
そう、奉仕欲が限界まで高まってしまったのです。先日王城であれだけ働いたから、だいぶ消せたと思っていたのですが、まだまだ燻っていましたね……。
私はベッドから飛び起き、ふらふらとマルファさんの部屋へ行きました。
「マルファさぁん」
「うぉっ!? 何だよ朝から!? 死にそうになってんぞ」
「アメリアおはよう。今日もいい朝だね」
マルファさんの部屋はいわゆる談笑室となっていました。最初はそれぞれの部屋を行ったり来たりしていたのですが、妙にマルファさんの部屋の居心地が良く、自然と皆集まってしまうのです。
「つーか、エイリスは何で当たり前のようにわたしの部屋で二度寝をしてたんだよ」
「んー……何でだろうね。君のベッドの匂いはなんだか落ち着くんだよね」
「~っ! 匂いを嗅ぐな、このっ馬鹿!」
「アメリアもぜひ嗅いでみると良い。気づけば寝てるよ」
落ち着く匂い、ですか。エイリスさんに促されるまま、私はマルファさんのベッドへ近づき、ゴロンと寝転がってみます。
エイリスさんの言うとおりです。この妙な安心感は何でしょうか。この枕を抱きまくらにしたら、それは良く眠れそうです。
ですが私はメイドのアメリア。二度寝をするなんてありえません。鋼の気持ちで起き上がり、仕事を――。
「はっ!? 寝ていました!」
あっという間の出来事でした。匂いを嗅いでいるうちに、どんどん思考が真っ白になっていました。
「マルファさんのベッド、すごい匂いですね」
「だろ? すごい匂いなんだ」
「おい! もうちょっと言い方あんだろ! なんかわたしのベッドがくせーみてぇだろ!?」
私とエイリスさんは顔を見合わせ、首を横に振りました。分かっていませんねマルファさん、自分の匂いというものを。
「マルファさんは臭くないですよ。いい匂いです。そのままでいてくださいね」
「ねぇマルファ、今度ボクと一緒に寝ようよ。なんだかぐっすり眠れそうな気がするんだ」
「だーれが寝るかぁ! なんで王女様と寝なきゃならねーんだよ! 国の問題になるわ!」
「ボクは気にしないけど」
「わ た し が気にするんだよ」
マルファさんがベッドの前まで移動しました。そして、両手を広げ、ベッドに近づけないようにしています。
「お前ら、もうベッドに近づくなよ」
「「えー」」
「二人が口を揃えたって駄目なもんは駄目なんだ! ったく」
話も一段落したところで、私は二人に切り出しました。
「奉仕欲が限界なんです」
「……とうとう頭おかしくなったのか?」
「違います。お仕えする主がずっといないメイドはどうなると思いますか?」
「知らん」
「ご奉仕欲が高まって高まって仕方ないんですよー!」
「もっと知るか!」
「人間には睡眠欲、性欲、食欲の三大欲求があると聞くが、それに近いものなのかな」
流石はエイリスさん。とても話が早くて助かります。
私からしてみれば、この奉仕欲は第四の欲求と位置づけても過言ではありません。私には四大欲求が存在しているのです。
「それで、アメリアはどうしたらその欲が解消されるのかな?」
「今日しばらくどちらかのお世話をさせてください」
「なるほど。じゃあここはマルファのお世話をしてあげると良い」
「は? なんでわたし?」
「面白そうだから?」
「わたしはオモチャじゃねー」
すでに奉仕欲が限界の私は縋るようにマルファさんの手を握ります。
「お願いします! マルファさん、私にご奉仕させてください! 何でもしますから! お願いします!」
「ば、ばかっ! 外に聞こえたらどうすんだよ!? お前の言葉だけ聞くと、いかがわしいんだよ!」
「じゃ、決まりということで」
マルファさんはウンウンと悩んだ末、私のご奉仕を受け入れてくれることになりました。とても嬉しいです。
この瞬間から、マルファさんは私の主となります。よーし、全力でご奉仕しますよ!
「おはようございますお嬢様。目覚めの紅茶をどうぞ」
「お、おぉ……」
カップに口をつけるマルファさん。エイリスさんがなんだかその姿を面白そうに見ながら、紅茶を飲んでいるような気がします。まぁ気の所為でしょう。
続けて朝食の時間なので、厨房を借りて作ったご飯を持っていきます。とは言っても、パンや目玉焼きといったオーソドックスなものしかないのですがね。
「こちら今日のメニューになります」
「えーと、パンに目玉焼き、ミルク、サラダって……見りゃ分かんだよ! なんでわざわざ手書きのメニュー表なんか作ってんだよ!」
「どうぞ召し上がってください」
「……おう。どれどれ……うん、うまい」
「良かったです!」
あぁ~これです。これこれ。相手に何かをするこの瞬間こそ私の存在意義! このような素敵な瞬間を提供してくださったマルファさんには感謝しかありません。
「あら? お嬢様、何を?」
突然マルファさんが衣服の裾に手をかけました。嫌な予感がした私はその行動の意図を確認します。
「何って、着替えるんだよ。ほら、出てけ出てけ」
「やはりそうでしたか。それではこれからお着替えの時間ですね」
「ん? なんでお前が近づいてくるんだ?」
「お手伝いをさせていただきたく」
「いーらーねー! いらねぇよ!」
「あらあらお嬢様、遠慮なさらないでください。このアメリア、全力でお手伝いさせていただきます」
「全力で出ていけー! つーか、なんでエイリスもずっといるんだよ」
「面白いから?」
「だと思ったよ! いーからさっさと出てけ!」
マルファさんの力が想像以上に強く、私とエイリスさんはあっという間に追い出されてしまいました。
「お前も懲りないよな」
「何をおっしゃいますか。私の命はお嬢様のためにあります」
「重いんだよ! ま、まぁ……こうやって髪を整えてくれるのはありがたいけどさ」
「お嬢様……! このアメリア、いつまでもお仕えいたします」
「とはいえだな」
マルファさんは両手でバツの字を作ります。
「もう私はパスだ。これ以上世話してーんなら、エイリスにしな」
告げられたのは拒否。私は思わず崩れ落ちそうになりました。